'94年に発売を開始し、来年で30周年を迎える『ブラックサンダー』。今ではチョコレート市場での売り上げ個数が1位となるほどの人気商品だが、過去には販売不振で生産終了に追い込まれた暗黒時代も。そんな『ブラックサンダー』のブレイクまでの道のりや知られざるウラ話まで徹底解剖!
内村航平の好物として注目度アップ
ココアクッキーとプレーンビスケットをチョコレートでコーティングした、ザクザク食感が人気の『ブラックサンダー』が発売されたのは1994年。体操男子で五輪個人総合2連覇などの偉業を成し遂げた内村航平さんの好物として取り上げられたことで、ブラックサンダーの名を知ったという人も多いはず。
だが、発売から1年後、販売不振のため一時は生産終了に追い込まれるなど、人気獲得まで紆余曲折があることは知られていないだろう。
「当時、3種のナッツをチョコでコーティングした『チョコナッツスリー』という主力商品がありました。サクサク食感が人気を呼んでいたので異なる食感─ザクザク食感のお菓子を作ってみようと企画されたのがブラックサンダーでした」
そう背景を説明するのは、ブラックサンダーを製造・販売する有楽製菓の経営品質部・牧宏郎さん。満を持して送り出した新商品だったが、ココアクッキーを連想させる“ブラック”に、子どもが好きな戦隊ヒーローを連想させる“サンダー”を加えたネーミングが斬新すぎたのか、「お菓子と結びつかず販売が低迷したのでは」と明かす。
「コンビニが一般的ではない時代だったこともあり、販路はスーパーや駄菓子屋が大半。5円や10円のチョコがある中、30円(現在は35円)という価格は高く、選ばれにくかった」(牧さん、以下同)
その結果、いったん生産は終了。ところが、営業担当の九州では人気があるとの強い要望もあり再販売が決定し、首の皮がつながった。
「今でもなぜ九州だけ人気が高かったのかは謎です」と牧さんは話すが、ブラックサンダーは九州の人々によって下支えされ、全国販売を再開。そういえば、内村さんも長崎県出身……今日の人気は、九州パワーあってこそというわけだ。
生協の白石さんのブログで話題に
ターニングポイントを問うと「'04年に関西地方の大学生協で人気が出始めたことと、同時期にコンビニでの販売が開始された」ことを挙げる。
「30円という価格帯が、大学生にとっては安くて食べごたえがあると評判を呼びました。その後、生協の白石さんのブログで紹介され、インターネットを中心に話題になり、コンビニで購入される方が増えました」
そして、'08年の北京五輪で内村さんの好物として紹介されると大ブレイク。この年、年間販売個数は4500万個を突破し、品切れ状態になったというからウルトラCである。
ブラックサンダーの代名詞であるザクザク感は、「特殊な配合で製造しているビスケットの食感によるもの」と牧さんは語る。
「愛知県豊橋市にある自社工場でビスケットを焼いています。現在、プレミアムシリーズと題して、『至福のバター』『優雅なヘーゼルナッツ』などを製造していますが、それぞれ異なる配合のビスケットを焼き上げています」
'13年には、初のバレンタインイベントとして、「一目で義理とわかるチョコ」と強調したPRを展開したことでも話題になった。
「ブラックサンダーは、ラッキーパンチのような商品でした。自分たちでPRした結果、人気になったわけではありません。より多くの人に親しんでいただきたいという思いから、初めて仕掛けたプロモーションが“一目で義理とわかるチョコ”でした」
ブラックサンダーは、チョコ菓子にもかかわらず2月の販売が不調だったそうだ。そこで、「バレンタインデーに何かできないかと考えたときに、どうひいき目に見ても本命ではなく義理チョコなので、だったら堂々と“義理”を前面に出すのがブラックサンダーらしさなのではないか、と考えました」と牧さんは話す。
トースト専用ブラックサンダーも!
人気はSNSなどを通して台湾にも飛び火し、'14年には同国で大ヒットを記録。かつて生産終了にまで追い込まれたブラックサンダーは、現在、チョコレート市場で売り上げ個数ナンバーワンを誇るまでに成長した。
つい最近も、ファミリーマートとのコラボ商品『ブラックサンダー チョコレートフラッペ』が、発売から2週間で190万杯を突破するなど大きな話題を集めたのは記憶に新しいところ。
「さまざまな新商品を開発しているのですが、ボツになってしまったものもあります(笑)。ポテトチップスを配合したポテトチップスサンダーという商品を開発したのですが、採用されず幻の商品に。
来年2月まで行っている当社の『ブラックサンダーイナズマ級!キャンペーン』の賞品としてポテトチップスサンダーを提供していますので、よろしければご参加ください。私も食べましたが、味はとてもおいしいです」
東京・小平市にある有楽製菓本社には直営店が併設されており、プレミアムシリーズはもちろん、トーストの上にのせて食べるトースト専用ブラックサンダーやブラックサンダーカップアイスなどを購入することが可能だ。ファンは一度訪れておきたい“聖地”だろう。
「価格以上の価値をしっかりお客さんに届けることが、弊社の理念です。近年は、ブラックサンダーに使用するカカオ原料については、児童労働撤廃に取り組んでいる企業のカカオ原料を100%使用しています。安くておいしくて、皆さんを笑顔にするお菓子を作り続けていきたいです」
ブラックサンダーシリーズは、毎年、過去最高の販売数を更新し続けているという。お菓子界に響きわたる轟音は、これからも進化していきそうだ。
取材・文/我妻弘崇