有吉弘行が『NHK紅白歌合戦』の司会のひとりに決まった。橋本環奈、浜辺美波、高瀬耕造アナとの4人で進行するが、おそらくその中心、近年でいえば、内村光良や大泉洋のポジションだ。
ただ、世間の反応はさまざまで、有吉ファンの間でも賛否が分かれている。そのひとつが、格式と台本重視の『紅白』では、そのアドリブ力、特に毒舌が生かせないのではという見方だ。
今さら『紅白』の司会をやっても
例えば、司会起用が発表された2日後、彼は自身のラジオで「俺のおすすめのアーティストは出られるんですかね」としたうえで、
「ぜひ『くず』のおふたりに出ていただいてね。『ムーンライト』を歌ってもらえれば」
と語った。くずといえば、いまや地上波「出禁」状態の宮迫博之が山口智充と組んでいたデュオ。
もちろん、有吉流のジョークなのだが、これがネットニュースになると、ファン以外から「不謹慎だ」とする声も出た。
確かに、老若男女が見る『紅白』で誰もが笑える毒舌をやるのは難しい。それゆえ、こんな見方も。すでに、すべての局で冠番組を持つほど成功しているのだから、今さら『紅白』の司会をやっても大したステータスアップにはならないのでは、というのだ。
そういう見方が出るのは『紅白』自体のステータス感が薄れたからでもある。昨年の視聴率は、一昨年よりやや持ち直したものの『紅白』史上ワースト2位。今年はジャニーズ勢の出場が激減、もしくはゼロになるとまでいわれていて、さらに盛り下がることが危惧されている。そこで新たなカンフル剤を打つ必要があり、それが有吉だったのだろう。
“コンプラ治外法権”的タレント
その決め手になったのは、おそらくSNS。彼は770万人ものフォロワーを持ち、芸人では松本人志に次ぐ2位だ。
ちなみに昨年、橋本環奈が起用されたのも、女優トップのフォロワー数が決め手だったようで、実際、彼女の華のある司会は高評価を獲得。2年連続での起用となった。
また、有吉は昨年、応援ゲストとして純烈と『白い雲のように』をコラボ。猿岩石時代に歌った大ヒット曲ということもあって、瞬間視聴率でもかなり上位だったとされる。
とはいえ、橋本のフォロワーが求めるのは「華」だが、有吉の場合は「言葉」だ。テレビで重宝されている理由もまさにそこであり、NHKもそれはわかっているだろう。
つまり、有吉はダウンタウンやマツコ・デラックス、千鳥、高嶋ちさ子らと並ぶコンプラ治外法権的タレント。ほかのタレントが言えないようなことをズバッと言うことを許され、炎上スレスレで収めることができる。その持ち味を封印してしまえば、カンフル剤の意味がないから、アドリブ的な毒舌も期待されているのではないか。
そもそも、誰もが知るヒット曲が生まれにくい時代に『紅白』をやっていくには、視聴者の興味をつなぎとめられる司会の存在が不可欠。地味になりそうな分「有吉弘行ショー」的なテイストも加えて乗り切りたい、という思惑も感じとれるのである。
それで盛り上がるならめでたいし、彼にとっても一発屋からの復活ストーリーの総仕上げになるはずだ。
個人的には再ブレイクのきっかけとなった、あの芸を久々に見たい。好感度タレント時代のベッキーに「元気の押し売り」と名づけるなどした、即興的なあだ名芸だ。なんだかんだ言って『紅白』は国民的番組で、あだ名のつけがいのある人が大集結するのだから。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。