駒村多恵さん

 要介護認定5の母を支えている駒村多恵さん(48)。父を亡くして以来、独身の駒村さんは母と2人で暮らしている。NHK総合の情報番組『あさイチ』のサブキャスターとして元気な姿を見せるが、母が最初に受診してから16年、デイサービスなどを利用しながら在宅介護を続けている。

朝番組の仕事と並行して母の介護は16年目

 朝からの番組を担当しながらの介護は忙しい。

「朝は母を1人にする時間もあり、後ろ髪を引かれることもありますが、様子を見極めて出かけます。仕事が終わると常にダッシュで家に帰る日々です」

 トラブルも多々あった。翌日の早朝からオンエアという夜中に母が体調を崩して救急車を呼んだことも。

「いったん帰ってから何事もなく出勤できましたが、それが今後はどうしようかと考えるきっかけになりました」

 コロナが流行したときは、早いうちから自分や母がかかった場合に備えて、ケアマネと一緒に準備していたが、想定外のことが次々と起こった。

「この経験で、情報が届きにくい老老介護をする方などはもっと困るに違いないと思い、自分の経験を少しずつ発信するようになりました」

 介護生活では大変なことも多いが、母の知らなかった一面を見られたことはよい経験だったと駒村さんは言う。

「母の同窓会に付き添って行くようになり、学生時代の母が爆あだったことを知りました(笑)。同級生や先生とのやりとりも楽しいんです」

介護福祉士と介護食士の資格も取得

 母の介護をきっかけに、介護福祉士の資格も取得した。

「母は薬剤師なのですが、資格がとても役立ったとのことで、私にも資格を取ることをすすめてきたんです。仕事と介護をしながらの勉強は予想以上に大変。朝5時20分からの番組が終わってから実技研修に出ていた時期も。'09年から勉強を始め、'11年に資格を取得できました」

『あさイチ』で料理コーナーを担当したことから、介護食についても関心を持った。

「番組で紹介するレシピを事前に家で作っていたのですが、母は、徐々に噛む力、飲み込む力が衰え、食べにくそう。そこで味が美味しいままで食べやすくする方法を調べるうちに、介護食の学校を見つけたんです」

 半年間、座学と調理実習を行い、試験に合格。さらに番組に出演する料理研究家の先生からのアドバイスも得ることで、学びが深まったという。

 介護食は、飲み込みやすさ、噛みやすさを提供する料理。食べる人の機能が低下している状態によって調理法が決まり、例えば飲み込む力が弱い人には食材にとろみをつけ、喉に流れ落ちるスピードを遅くすることで気管に入らず飲み込みやすくする。

「片栗粉を使ってあんかけにしたり、味噌で炒めて食材をまとめやすくしたり。とろろ、おくらを叩いたものも飲み込みやすく重宝するメニューです」

 歯が残っていたときは、サクサクな食感がよいと医師から聞いて、外はサクッと、中はとろみのある春巻きを食べさせていたそうだ。

「飲み込めないからといってなんでもダメではなく、状態に合わせて美味しく食べられる工夫をしています。医師によると母と同じような状態の方がクリームパンしか食べていなかったようで、『娘さんに介護食の知識があってよかった』と言われました。ちょっとした工夫で食の楽しみを続けられる介護食がもっと広まるとよいと思っています」

 長年の介護生活の支えは、自分が考えた工夫で母にいい変化が見られること。

「こうしたら母が食べてくれるかな?とアレンジした料理を、美味しそうに食べてくれたらすごくうれしい。私は介護に覚悟も気概もありませんが、病状が下り坂になっていくのを嘆くのではなく、今何ができるか考えて実践していくことが大切。その連続で続けてこられたんだと思っています」

(取材・文/野中真規子)

 

嚥下障害のある母のために考案した春巻き。トロッとした中身は飲み込みやすい

 

忙しい日々を送るため、作った介護食は冷凍保存している

 

NHK『あさイチ』で料理コーナーを担当。料理に意識が向くきっかけとなった