「シーズン3は想像もしていなかったので、やると聞いたときは本当にもう、奇跡だと思いました」
と、目尻を下げるのは主演の市原隼人。『おいしい給食』は連ドラとして'19年秋にスタート。2年後にシーズン2が放送され、劇場版は今までに2作が公開されている。
ダントツでいちばんハードな作品
舞台は'80年代。中学教師・甘利田幸男(市原隼人)は給食がだ~い好き。しかしそれを悟られぬよう厳格に振る舞っている。独自の技で給食を堪能する生徒・神野(佐藤大志)とのバトルが描かれてきたが神野は卒業。シーズン3では函館へ転勤となった甘利田の新生活が描かれる。
「クランクイン当日は浮足立っていました。体力面と精神面で本当に自分がやり遂げられるか逡巡して。不安に思う気持ちもすごくありましたが、その日の朝日がすごくキレイで。救われる気持ちになりました」
給食を前に甘利田は狂喜乱舞。その振り切った演技には役者魂を感じる。
「給食シーンで使われるのはだいたい2割くらいです。同じシーンを長回しで3回以上撮るので、3回以上食べている(笑)。今まで、血だらけになったり、骨折したり、足の親指の爪が全部はがれたりと、本当に濃いアクション作品も経験をしてきましたが、もうダントツで『おいしい給食』がいちばんハードな作品ですね(笑)」
妥協なく、すべての力を注ぎたい。そう思える特別で理想的な作品だという。
「原作がなくゼロから始まっているので、現場でどんどん創作できて機転が利く。それに意地もある。“使われなくてもいいので、ぜひいろんな芝居に挑戦させてください”と作り上げたキャラクターが、甘利田なんです」
そのコミカル度はシリーズを追うごとにパワーアップ。
10キロ落として撮影に臨む
「シーズン1の第1話では踊るといっても手を振る程度だったのに、今作では途中で意識を失ってまた戻ってきたり(笑)。それくらい没頭して、本気で子どもと向き合っている姿を見せたかった。そして、どんな姿をさらけ出そうとも、自分が好きなものを好きという思いと勇気を楽しんでいただきたい。
近年、ビジネス化する作品が増える中で、本来あるべき作品の作り方をしている、本当に愛のあるチームなんです。お子さまから人生のキャリアを積まれた方まで、誰が見ても共感できる道徳心や教養が詰まっていて、メッセージ性も人間くささもある。エンターテインメントの根源だと誇れる作品なんです」
20代のころには華奢なイメージもあったが、現在の精悍で屈強な肉体には目を見張る。聞けば、週6で鍛えているという。
「2歳から機械体操と水泳、小学生のときは空手も、中学校に入るとボクシングといろいろ運動経験はありましたが、しっかりやるようになったのはここ最近です」
主演作続きの20代、プレッシャーに押しつぶされそうになって、吐いたり眠れなかったりしたと振り返る。
「僕は本当に甘えた弱い人間なんです。今は自分を律するために毎日課題を与え、トレーニングをしています。大きくなりすぎていたので、今作では10キロ落として撮影に臨みました」
堅物なのに滑稽。そんな甘利田の愛らしさは市原の新境地。今では『大和ハウス』のCMなどでもそれを彷彿させるキャラクターが求められるようになっている。
死ぬまで未完成だと思う
「(主演が続いた)20代のうちに経験すべきだったことを、今やっているような思いですね。違う立ち位置で勉強したほうがいいのでは? そんな思いは当時からありました。
一方で、自分が携わった作品が“この作品のおかげで学校に行けるようになりました”“余命3か月ですが、市原さんの出演作を見ています”といったお声をたくさんいただく中で、もっと芝居を学びたいという欲が出てきた。
同時に“自分には芝居しかない”という思いを強くするようになりました。その中で、自分を使ってどう楽しめるか、自分の存在意義というものは何か? きっと死ぬまで未完成だと思いますが、日々通過点として学ばさせていただいています」
溺愛してるもの、教えて!
「いっぱいあるのですが、バイクが好きです。今はカワサキの『Z1』という、約50年前のバイクに乗っています。それで兵庫県の明石工場を訪問したり、北海道に行ったり。今、エンジンのヘッドを砂型から自分で作りたいと思っていて。そのバイクでいつか、アメリカ横断をするのが夢です」