'80年代には「お嫁さんにしたい女優No.1」と呼ばれた俳優の市毛良枝さん(73)。昨年は7年ぶりの主演舞台で、毎日2時間以上出ずっぱりの役を演じるなど、その体力には定評がある。また、芸能界屈指の登山愛好家としても知られ、日本トレッキング協会の理事も務める。
社交ダンスとウォーキングで柔軟性と筋力をキープ
一方私生活では、13年間に及ぶ母の介護を経験。介護生活の中ではさまざまな気づきがあったが、特に印象的だったのは“90歳でも筋肉は成長する”ということだった。
「リハビリで脚のトレーニングをしていた母の、ふくらはぎの後ろ側のヒラメ筋が張ってきたんです。先生も『90歳でヒラメ筋がついた人は初めて見た』と驚いていました(笑)」(市毛さん、以下同)
そんな母の姿を見て、自身も身体を動かすことに一層興味を持つようになったという。ライフワークである登山はコロナ禍が重なりしばらくお休みしているが、趣味の社交ダンスは今も続けている。
「社交ダンスは還暦前から始めました。当時は介護に疲れ果てうつっぽくなっていたんです。でもダンスを始めてからは、体力がついただけではなく、心もすごく前向きに。介護を乗り越えられたのはダンスがあったからですね」
以前はスタンダードを踊っていたが、最近はラテンダンスに挑戦。
「ラテンはひねりが入ったりと普段使わない筋肉を鍛えられていいのですが、それだけにすごくセクシーなダンスでもあります。実は、私はセクシーな演技がとても苦手。先生にも『セクシーになるのは嫌なんです』と言いながら、なんとか続けています(笑)」
3年前、コロナの感染拡大が始まった際には、一時的に社交ダンスもやめていた。「私たちの世代が一番気をつけないといけない」と家にひきこもるように。そんな生活を続けていると、身体にある変化が。
「ずっと家の中で座っているから、お尻が痛むんです。こんなに座っている時間が長い生活は、初めてだと気づきました。母が車椅子でお尻が痛いと訴えていたのは、これのことかと。身を守るためにと始めた自粛生活でしたが、このままだと身体がだめになると思いましたね。ちょうど70歳になるタイミングでした」
そのとき声をかけてくれたのが社交ダンスの仲間だった。
「先生たちも、レッスンを再開したがっていると連絡を受けて、これはひきこもりを脱するチャンスかもしれないと思いました。そこで、しっかりと対策をしてマンツーマンのレッスンに行ってみました」
感染対策のため、スタジオまでは片道1時間半の道のりを歩いた。
「久々に身体を動かしたらすごく楽しくて。ひきこもっていた生活が嘘のように、気づけば週2回通っていました」
レッスンでは講師とのコミュニケーションによって笑顔も戻り、スタジオまでの往復3時間のウォーキングも心に良い影響を与えていたという。
社交ダンスとウォーキングで日々筋力アップに励んでいるが、ルーティンはあえて決めない。
「メニューをきっちり決めてするトレーニングは向いていないんです。どちらかというと日常生活の中で、気づけばどこか動かしているタイプ」
仕事の合間も、暇があれば部屋の端でストレッチ。
「自分でも無意識でやっているんですよね。待ち時間に足上げをしていたら、スタッフさんに『さっきすごく高く足を上げてましたね』と言われて、ハッとすることも(笑)」
継続的な運動によって、コロナ禍に感じた不調も軽減されたという。
「いっときは、筋力低下で姿勢が悪くなったのが原因で、手にしびれが出ていたんです。でもダンスを再開し、マッサージも受けていたおかげで、すっかり治りました。ブランクを空けてしまうと元に戻すのに時間がかかるので、身体は使い続けることが大事だと実感しました」
さらに、元気な生活を送るには「刺激が大事」と語る。さまざまな年齢や職業の友人に、日々刺激をもらっているという。
「この年になると新しい友達をつくるって大変。でもそれを面倒だと思い始めると、心はどんどんしおれていきます。私の母も晩年は身体が動かしにくくなっていましたが、車椅子で外に連れ出した日はいつもよりご飯をたくさん食べたんです。いくつになっても刺激が人を元気にするんだなと実感しましたね」
老いや病気は天に任せるしかないと割り切る。しかし、いつか自分が介護される際には、長年の介護経験で得た医療知識が役立つかもと笑う。
「『やり方が違うわよ』って指摘しちゃうかも(笑)。でもそれくらい軽口を叩けることが元気の証拠になるのかもしれません」
(取材・文/中村未来)