「決して楽な道を選ばないゆりあさんは、同じ女性から見てもカッコいい、肝の据わった人。身長や堂々としている感じがちょっと私には足りないように思うので、その点も意識しながら演じたいです」
今年4月に発表された『第27回手塚治虫文化賞』でマンガ大賞に選ばれた同名原作を連続ドラマ化した『ゆりあ先生の赤い糸』で、主人公の伊沢ゆりあを演じる菅野美穂(46)。
少女時代はバレエに熱中し、現在は自宅で刺しゅう教室を開くゆりあのもとに、心優しい小説家の夫・吾良(田中哲司)がホテルで昏睡状態となり緊急搬送されたと連絡が入る。駆けつけた病院には“恋人”と名乗るイケメン・稟久(鈴鹿央士)が。ひょんなことから稟久とともに意識不明の吾良の介護をすることになったゆりあのところに、吾良を「パパ」と呼ぶ2人の女の子とその母・みちる(松岡茉優)が現れ、さらに年下男性(木戸大聖)との恋の予感まで訪れる。
バレエ教室での何げない会話がうれしい
ゆりあの気持ちに近づくために「バレエと刺しゅう教室に通いはじめた」と語る菅野。取材の前日にも1月から通い始めたバレエ教室に行ったという。
「バレエのレッスンは、日常から離れることができる時間ですね。教室には、私より年齢が上の方もいらして。レッスンの合間のおしゃべりにも癒されます。学生時代の女子校に戻った感覚になって。毎回“来てよかった”と思いながら帰るんです。人生を豊かにしてくれている気がしますね」
うれしそうに語る菅野に、初めてレッスンに参加した際、周囲が驚いていたのではないかと聞くと、
「もともと、娘がお世話になっていた先生だったので“教室の隅でレッスンを受けさせていただきたい”とお願いをしていましたし、当時はマスクをしていたので。いまは、すっかり教室のみなさんとお話をするようになりました。私ができていないバレエの動作を教えてくださることもあります。
子育てが落ち着いて、ご自身の時間を持つことができるようになったからとレッスンを再開された方もいて。“このあと、お子さんのお迎えでしょ”とかっていう何げない会話がうれしいんです。
いまの私は育児にアップアップしていますが、先輩のみなさんはその時期を乗り越えてここにいらっしゃるんだと思うと、なんか、いいなって」
両親から受け継いだ自身の特徴は……
デビュー30年を迎えた女優であり、2児の母でもある彼女。心のバランスを保つためにする、自分へのご褒美があるのだろうか。
「仕事と子育てのバランスを取るのは、なかなか大変です。どうしたら家の中がいつも明るく、かわいく、楽しくなるのか本当に知りたい(苦笑)。ご褒美ですよね……、ディズニーランドにひとりで行って自分の思うスピードでパーク内を歩いてみたいとも思うんですが、きっと、ひとりで行っても楽しくない気がします。
今回の『ゆりあ先生の赤い糸』の出演者やスタッフの方と顔合わせをしたときに、撮影スケジュールをいただいたんです。そのとき、すごくワクワクして。だから、私にとってのご褒美は仕事かもしれない」
“カッコよく生きる”が座右の銘で、父親譲りの愚直な性格のゆりあ。菅野自身が両親から受け継いだと思う性格にどんなものがあるかを聞くと、
「モノが捨てられなくて増えてしまいがちなのは母から、熱しやすく冷めやすい、良くいえば瞬発力があるのは父の性格かもしれません。短所は長所で、長所は短所。自分の特徴って両親から受け継いだものが多いのかもしれないと思います。同じように、娘がうれしくてはしゃいで、眠れなくなっている姿を見ると“わかる!!”と思いますね(笑)。息子は娘とは少し違うけれど、私に似ているなと思うところがあって」
目の前でクルクルと表情を変えながら語る菅野に“令和の主婦ヒロイン”ゆりあのタフで明るい姿を見た気がした。
バレエといえばトウシューズ
「“役作りだから”と言えばバレエのレッスンでトウシューズを履かせてもらえるかなと思っていましたが、そんなに甘い世界ではなかったです(笑)」
刺しゅうの楽しさ
「針を刺している時間は無心になれるというか。教えていただいている先生の作品には、まったく及ばないのですが、諦めずに最後まで続けると手仕事の味が出るように思うんです。うまくいかなくて途中で糸を切りたくなっても、絶対に切らないほうがいい。すべてが終わってみないとわからないところは、人生に似ているのかな」