10月2日にスタートした連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)。今作は、戦後の日本を支えた歌手・花田鈴子の生涯を描く人間ドラマだ。大ヒット歌謡曲『東京ブギウギ』を歌った笠置シヅ子がモデルのため、主役には演技力だけでなく、高い歌唱力も求められる。そんな鈴子役を射止めたのが、若手実力派俳優の趣里。彼女は、応募総数2471人の中から鈴子役を勝ち取ったという。
某芸能プロダクションで代表取締役を務める刈谷俊次さん(仮名)は、趣里の魅力をこう分析する。
「趣里さんの映像デビューは12年前。『金八先生』のスペシャルドラマの生徒役という、まさに“端役”でキャリアをスタートさせました。その後も個性的な脇役を演じ、'18年に主演した映画『生きてるだけで、愛。』では、大胆なヌードも披露しています。昭和的な発想ですが、彼女はあの役で一皮剥けましたよね。もう趣里さんを“水谷豊と伊藤蘭の娘”と呼ぶ人はいないはずです」
刈谷さんの言うように、彼女はいわゆる“二世俳優”だが、脇役から着実に実力をつけて主役になった存在であり、“親の七光り”といったイメージはほとんどない。ひとりの俳優として生きる覚悟が、今回の朝ドラヒロイン抜擢につながったのかもしれない。
薬物に手を染める大スターの二世俳優も
かつては、「親のコネで出演しているのでは」と批判されがちだった二世芸能人。しかし近年、前出の趣里をはじめ、実力派に名を連ねる二世俳優が増えている。
例えば、俳優の奥田瑛二とエッセイストの安藤和津の娘、安藤サクラ。彼女は主演を果たした『万引き家族』が国内外で高い評価を得るなど、日本映画界に欠かせない存在となっている。そして彼女の夫、柄本佑も俳優の柄本明と故・角替和枝さんの長男であり、幅広い役柄を演じる実力派だ。その弟、柄本時生も同様に、個性的な役を演じて唯一無二の存在感を放つ。どうやら令和の二世俳優は、たしかな演技力が評価されているようだ。
「昔は、二世が世に出るとなると、下積みもなしに話題性だけで主演をさせられたり、その演技が不評だと“親の七光り”と揶揄されたりしましたよね。それがプレッシャーになるのか、故・勝新太郎さんの2人の子どもや、三田佳子さんの次男など、薬物に手を染める大スターの二世俳優も多かったものです。しかし今は、小さな役から経験を積み、実力を身につけるルートが確立されつつあります。みなさん親子仲もよく、伸び伸びと仕事に取り組んでいますよね」(刈谷さん)
大手プロの新人発掘オーディションも減って
芸能ジャーナリストの渡邉裕二さんは「実力派二世も“七光り”の恩恵を受けているはず」と話す。
「二世政治家の出馬と、二世芸能人のデビューは似ています。政治家は、後継ぎを秘書にして支援者や地元の人に挨拶をしますよね。そうして有権者に顔を覚えてもらってから、地盤を継がせます。芸能人の親も、子どもを現場に連れて行ったときは、監督やプロデューサーに挨拶をさせるでしょう。もし、その子が役者を目指していると言えば、プロデューサーは親に忖度して『今度のドラマに出てみますか?』と提案する。そうやって役を獲得した二世俳優も少なくないでしょうね」
二世が主役として華々しくデビューする例は減っているが、親への忖度が、芸能界入りのきっかけにもなるのだ。
「この流れは、作品を制作する側にとってもメリットがあります。最近は、大手プロダクションが行う新人発掘オーディションも減っているし、朝ドラヒロインも、すでに活躍している芸能人の中から選ばれるケースが増えています。昔に比べて“無名新人の登竜門”が少なくなっているので、身元がわかる芸能人の子どもたちなら、安心してオファーできるという裏事情もありますね」(渡邉さん)
親のコネが通用するのは、芸能人も一般人も同じようだ。しかし、ハリウッド俳優の渡辺謙の娘で俳優の杏は親の力を一切借りずに芸能界入りしたという。
「杏さんは、15歳のときにモデルデビューしたのですが、当時所属していた事務所には、父親が渡辺謙である事実を完全に隠して入所したそうです」(渡邉さん)
しかし、借金問題を抱えていた杏の母親が、事務所にまでお金を借りに来たことで父親が判明したという。家庭事情の複雑さから、一時は不仲説も流れていた渡辺謙と杏。しかし昨年、杏のYouTubeチャンネルに渡辺謙が登場して話題になった。親子共演がスクリーンで拝める日も近い?
今のところ“キムタクと工藤静香の娘”が職業
役者やタレントなど、父や母と同じ道に進む二世が多い一方で、親とは違うステージで、頭角を現す二世もいる。その場合も、世間には親の名前を明かさないケースが多い。
「離婚騒動の渦中にいるDragon Ashのボーカル、降谷建志。彼は故・古谷一行さんの息子ですが『親の七光りに頼りたくない』との考えから、長い間、親の名前を伏せていました。実際に役者ではなく、音楽で身を立てましたが、父親と同じく女性スキャンダルを起こしてしまったのは皮肉な話ですよね」(刈谷さん)
ダウンタウンの浜田雅功とその妻、小川菜摘の息子も、ハマ・オカモトという名義でロックバンド、OKAMOTO'Sのベーシストを務めている。彼もまた、音楽シーンでキャリアを確立するまで、世間に両親の名は公表しなかった。
「ハマ・オカモトくんは、音楽活動に加えて司会業もこなしているので、これからさらにマルチな活躍が期待できます。ハマちゃんにそっくりな顔で標準語を話すギャップがおもしろいですよね(笑)」(刈谷さん)
もちろん親の名前を利用する二世がいなくなったわけではない。令和を代表する“七光り二世芸能人”といえば、木村拓哉と工藤静香の娘たちだ。
「次女のKoki,は、15歳のときに突然ファッション誌の表紙を飾り、世間の度肝を抜きました。なにせ、顔がキムタクにそっくりですからね。しかし、彼女のそれ以降の活動を見ると何を目指しているのか、まったくわかりません。少し遅れてデビューした姉のCocomiも同じ。今のところ“キムタクと工藤静香の娘”が職業ですよね。今後、道端ジェシカさんが元F1レーサーのジェンソン・バトンと結婚したくらいの、超有名人でお金持ちの外国人と結婚するしか話題作りはないような……」(刈谷さん)
親の光が強すぎるのも考えものだ。
「一般人に比べて、二世芸能人が業界に入りやすいのは確かです。しかし、最後に彼らをジャッジするのは視聴者。結局は見ている人々が認めるか否かにかかっているので、“実力派”が残るのは必然ですよね」(渡邉さん)
芸能人の子どもとして生まれた運だけでは、芸能界で生き残れない。実力派二世の、今後の飛躍に期待したい!
渡邉裕二 音楽・芸能ジャーナリスト。文化通信社代表取締役社長。2006年に松山千春のドラマCD『足寄より』をプロデュース。後に映画化、舞台化も果たす。『中森明菜の真実』など著書多数