遊んでわかったマリオ新作の魅力とは?(画像は任天堂公式サイトより)

 Nintendo Switch向けタイトル『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が2023年10月20日に発売された。一口にマリオのゲームといってもさまざまで、本作はいわゆる2Dアクションゲーム(ファミリーコンピュータの『スーパーマリオブラザーズ』のように、横スクロール型のアクションゲーム)として、11年ぶりの新作となっている。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 さまざまなレビューを集積するサイト「Metacritic」の評価は100点中93点となっており、非常に高い評価を獲得している。本作の優れている点はたくさんあるのだが、とくに注目したいのが「人の心を動かすためのデザイン」であろう。

新しい要素となった「ワンダー」

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』は従来の作品から大きく変化することを目標に掲げており、新たな要素がたくさん登場する。その1つが「ワンダー」だ。

「ワンダーフラワー」という道中に落ちている花を拾うと、プレイ中の状況が一変する。パックンフラワーという敵が歌いだしたり、ゴム風船のように跳ねる大きなカバがたくさん転がってきたり、あるいはカメのノコノコがローラースケートを履いて滑ってきたりするのである。

ワンダーフラワーをとるとマリオたちが風船になるなど、不思議な出来事が発生する(画像は任天堂公式サイトより)

 まさしくワンダーという名前のとおり、これはプレーヤーに大きな驚きをもたらしてくれる。2Dアクションはどうしても画面が地味になりやすい傾向があるため、こういった変化でつねにプレーヤーの心を動かそうとするわけだ。

 そして、このワンダーと非常に相性のいい存在が「おしゃべりフラワー」だ。おしゃべりフラワーは名前のとおり喋る花で、マリオたちが通過すると何かを話してくれる。

 おしゃべりフラワーは単純にマリオを応援することもあれば、大掛かりな仕掛けが発動したときにリアクションをとってくれたり、さりげない攻略のヒントを出してくれたりするのだ。

「おしゃべりフラワー」で人の心が動きやすくなる

 ゲーム側が反応を示すと、プレーヤーはそれを受け入れやすくなる。例えばおしゃべりフラワーが「うわぁーーー!」と叫んでいれば驚くべきシーンだとすぐわかるし、「すすめー!」と言ってくれるのであればダッシュして突っ込んでいいのだと理解できる。

 いわば「プレーヤーにどういう感情を抱かせるか誘導している」わけだが、これは意外と重要である。漫才においてツッコミが笑いを呼ぶようなもので、どう捉えるべきかを誰かが教えてくれると、人の心は動きやすくなるのだ。

今回はマリオたちがゾウに変身する(画像は任天堂公式サイトより)

 ワンダーがあまりに唐突すぎるとプレーヤーは置いてきぼりになってしまうが、おしゃべりフラワーのおかげでどんな気持ちになればいいのかわかりやすいのである。

そして、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』を語るうえで、もう1つ重要な新要素がインターネットによる遊びである。

 近年の「スーパーマリオ」シリーズは、画面の前に集まって最大4人同時に遊ぶというシステムを用意していた。これは大きく盛り上がるので非常に楽しいのだが、しかし年齢が高いプレーヤーになればなるほど人を集めることは難しくなる。

 ならばインターネットを介して一緒に遊べるようにすればいいのだが、それはそれで問題が発生しうる。というのも『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』のようなゲームでは、互いを押し合って妨害するなんて事故が発生してしまうからだ。

オフラインでは4人、インターネットでは最大12人で遊べる(画像は任天堂公式サイトより)

 一緒に顔を突き合わせて遊ぶのであれば、そういう事故も楽しみのうちである。しかし、インターネットで知らない人と遊べばそれは大きな問題になりうるだろう。

相手を助けることはできるが、妨害はできない

 そこで本作は、インターネットで遊ぶ場合は「互いにいい影響しか与えない」というシステムを採用した。やられた人を助けてあげたり、アイテムをゆずってあげたり、あるいは謎解きでヒントを与えたりということはできるが、妨害はできないのである。

 これにより、インターネットで遊ぶとプレーヤー同士のゆるやかな交流が生まれる。たとえ1人で遊んでいたとしても、世界中の誰かと一緒に冒険しているような気分にさせてくれるのだ。

 2Dアクションゲームとしての「スーパーマリオ」は1人で遊んでも楽しいが、しかしみんなで遊んだほうがより面白いのは間違いない。そこでこういった「問題を解決したインターネット要素」を取り入れたわけだ。

 当然ながら、テレビゲームは人の心を動かす娯楽である。しかし、それを受け入れやすい形にする努力は必要だ。どれだけ面白いゲームでも、理解されなければ知る人ぞ知る作品で終わってしまうだろう。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』はただ面白いゲームなわけではなく、遊ぶ側がそれを受け入れやすくなる姿勢も作ったのである。本作を体験した人は、改めて2Dアクションゲームの魅力に気づくだろう。


渡邉 卓也(わたなべ たくや)Takuya Watanabe
ゲームライター
いわゆるテレビゲームを専門にコラム・評論などの記事を書くライター。大学卒業後はサラリーマンになったが、満足にゲームを遊べない環境にいらだちを覚えて転身。さまざまなメディアにゲーム関連の記事を執筆。駄作に対して厳しく書いてしまうことでも知られる。