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 食べる量は変わらないのに、体重は年々右肩上がり。そんな悩みを抱える中高年は多いはず。

 なぜ年を重ねると太るのか、肥満症の権威・宮崎滋先生に話を聞いた。

「女性の基礎代謝のピークは10代後半〜20代。基礎代謝とは人が生きていくために最低限必要なエネルギーのことで、年齢とともに減少し、50代で10歳の子どもと同程度に。なので、何もしなければ10歳児童の食事量以上を食べていれば太ってしまいます」

 50代になると女性の基礎代謝量は一日平均1100キロカロリー。ちなみに、基礎代謝量はピークのころより200〜300キロカロリー減っているので、「何もしなくとも体重は増えている」と思うのも当然だ。

 もし一日あたり130キロカロリー基礎代謝が減るとすると1年間に脂肪が約5.2kgつく可能性も。

「結局のところ体重増加は摂取カロリーと消費カロリーの差。食べすぎや運動不足から徐々に病気が始まり、やがて身体の自由度を失っていく。それをいかに防ぐか考えることが大切です」(宮崎先生、以下同)

行動01:なぜ太ったのか?肥満の原因を見極める

「生活習慣を変えない限り、年齢を重ねれば自然と太っていく。いかに食事を制限し、消費カロリーを増やしていくかが課題になります」

 まずは自身の食生活を振り返り、偏った食事や過度な飲酒など、太ってしまった原因がどこにあるか探ること。その上で消費カロリーは足りているか見極めることが大切だ。

 一日当たりのエネルギー消費量の割合は、基礎代謝が60%、身体活動が30%、その他が10%。身体活動は運動のほか家事や通勤など日常の生活活動を指し、これをおろそかにすると肥満を促すことになる。

「事実、車中心の生活で歩行数の少ない地方と、公共機関を多く使い歩行数の多い首都圏を比べると、首都圏のほうが肥満が少ないというデータがあります」

 一方、肥満の原因の中には避けられないケース、やせにくいケースもあり、自身に合った対策を心がけたい。

偏った食生活、飲酒で太る

 揚げ物やスイーツ好き、主食中心の食事など、偏った食生活で肥満を招くタイプ。エネルギー源として使われなかった糖質や脂質は中性脂肪の材料に。飲酒もお酒自体のカロリーに加え、つまみも高カロリー食が多く注意が必要。

運動不足、ストレスで太る

 中高年になると基礎代謝の減少に加えて運動量が低下してしまう。特に運動不足の男性は内臓脂肪型肥満になりやすく、動脈硬化のリスクを高めることに。イライラなどのストレスは過食につながる危険があり、太りやすい身体をつくる。

避けられない原因で太る

 女性は更年期に入ると脂質代謝をコントロールしていたエストロゲンが減少し、太りやすい身体に。そのほか糖尿病、腎臓病、肝臓病など中性脂肪が増える病気や薬、脂質の代謝に異常がある遺伝など避けられない原因があることも。

行動02:がんや認知症も。肥満はあらゆる病気のもとと知る

 脂肪肝や睡眠時無呼吸症候群、骨関節疾患、月経異常や不妊、皮膚疾患など、肥満に関連する疾患は多い。

「中でも代表的なのが高血圧、脂質異常症、糖尿病。腹囲が男性で85cm、女性で90cm以上でかつこの3つのうち2つ以上に当てはまるのがメタボリックシンドロームで、冠動脈疾患や脳血管障害を起こしやすくなってきます」

 その他、最近注目されているのが認知症と悪性腫瘍。

「認知症は高齢期に太っていてもあまり認知には影響せず、中年期に太っていると認知症になりやすいというのが特徴。

 悪性腫瘍では乳がんと子宮体がんは閉経後の太っている女性のリスクが非常に高く、肥満との関連が確実とされました。

 あとは肝臓がん、大腸がん、食道がん、膵がんなども肥満と関連があると考えられています。肥満はあらゆる病気のもとで、肥満自体が命に関わる。甘く考えず、本気で取り組まなければいけません」

その他の肥満に関連する疾患
・胆石症
・静脈血栓
・気管支喘息
・胃食道逆流症
・皮膚疾患
・男性不妊
・精神疾患、うつ病 ほか

行動03:中性脂肪値だけじゃない。コレステロールも要チェック

 中性脂肪とは体内の脂質のひとつ。健康診断などの診断書にはトリグリセライド(TG)と記載され、中性脂肪が多すぎると内臓に脂肪がたまり肥満を招くことになる。

 中性脂肪値と併記されているのがLDLコレステロール(LDLC)とHDLコレステロール(HDLC)。いわゆる悪玉コレステロールと善玉コレステロールで、この3つには密接な関係がある。

「LDLCとHDLCのバランスが大切で、それが崩れてしまうと動脈硬化のリスクが高まってしまいます」

 LDLCの数値は高いほど、HDLCの数値は低いほど動脈硬化を促すことに。

 診断時は中性脂肪値に加え、これら2つのコレステロールの数値もあわせてチェックしたい。

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行動04:その食生活、大丈夫? 一日に必要な摂取カロリーを守る

「カロリーを考える、バランスの良い食事を心がける、塩分を控える、野菜を多くとるようにする、アルコールは少なめに。食事療法のポイントはこの5つ」

 カロリーを考える上で大切なのは、基礎代謝やその他必要なエネルギーを補給するために摂取する適正摂取エネルギーをまずは把握すること。

 計算方式は、標準体重(身長m×身長m×22[BMI])×30キロカロリー(体重1kgあたり必要なエネルギー)。身長160cmの女性の場合、適正摂取エネルギーは約1690キロカロリーとなる。

 適正摂取エネルギーを踏まえつつ、スーパーやコンビニで食品を買う際はカロリー表記を確認。例えばショートケーキは1個約350キロカロリーあり、一日の適正摂取エネルギーの5分の1近くを消費することに。

 何が過剰で何が足りていないのか、食生活を見直すことも重要だ。そこで宮崎先生がおすすめするのが“食生活日誌”。体重、運動、食事と摂取カロリーを記録すれば、バランスの偏りも明らかになる。

「記録することで、太ってしまった原因を探るきっかけにもなる。問題点を見つけ、そこから修正していきましょう」

健康的で理想的な1食でも、カロリー摂取過多な場合も多い。この定食で約600キロカロリーだが、一日の目標摂取カロリーが1800キロカロリーなら3食でこれを超えないように ※写真はイメージです

行動05:お酒はカロリーオーバーや疾患の引き金と認識

「アルコールは栄養素をまったく含まず、エネルギー=カロリーしかない。エンプティカロリーといわれています。飲むならやはり適量を守ることが大切です」

 アルコールのカロリーは、1gあたり7キロカロリー。ビール中瓶1本(500ml)のアルコール量は20gで約140キロカロリーに相当し、これを3本飲むと420キロカロリーを摂取する計算になる。

 また酒のつまみは高カロリー食が多く、バランスも崩れがち。脂肪になりやすい揚げ物は避け、食物繊維やタンパク質の多いメニューを選ぶなどの工夫を。

 さらに怖いのが疾患との関係だ。お酒は中性脂肪との関わりが深く、脂肪肝やメタボリックシンドローム、重大な疾患の引き金に。

「飲酒と関係がある病気は心臓病や肝臓病など。中でも肝臓病はお酒の量と比例して病気が起き、ある一定の量を超えると急激に悪くなるので注意が必要です。

 疾患がある人は禁酒が原則。それ以外で飲みたいという人は、アルコール量20gを目安に、飲みすぎないよう気をつけて」

行動06:不眠&ストレスは肥満の原因に。日々のリセットで調整を

 不眠は肥満の原因のひとつ。「1日は24時間ですが、人間の体内時計はそれより少し長い。このズレが起きてくると脂肪が蓄積されて太りやすくなるので、毎日リセットする必要があります」

 リセット法は大きく2つで、ひとつは朝日を浴びること、もうひとつは朝食を食べること。さらに、ストレスと肥満の関係も見逃せない。

「ストレスがあると交感神経の働きが活発になって、食欲が増す。それにより体重が増えることが考えられる」

 ストレス解消におすすめなのが、半身浴やアロマ、腹式呼吸など。何より大切なのは規則正しい生活を意識しつつ、睡眠不足も解消し、ストレスに強い心身を。

時計遺伝子と朝食の関係 ※時計遺伝子とは生体機能の24時間周期の変動(概日リズム)を制御する遺伝子群の総称

行動07:脂肪燃焼には運動がマスト!体重×3%減を目指して

 食事療法とあわせて取り入れたいのが運動による減量だ。

 内臓脂肪を減らす効果があるのが有酸素運動で、筋肉を強化する効果があるのが無酸素運動。筋肉があると基礎代謝量が高まり、脂肪を燃焼しやすく太りにくい体質に。

「ただ中高年が運動で筋肉を増やすのは大変なので、有酸素運動で脂肪を減らしつつ、無酸素運動で筋肉をキープするよう心がけて」

 有酸素運動はウォーキングなど呼吸をしながら行う運動で、無酸素運動は瞬発力を要する運動で筋トレなど。

「午前中は有酸素運動など持続的な運動を、無酸素運動など強度のある運動は午後が効果があるといわれています」

 と、おのおのに適した時間帯に行えば運動の効果もアップ。

 減量に取り組む際は目標の設定を。減らすべき脂肪量の目安は、体重×3~10%。仮に体重60kgの女性の場合、3%で1.8kg減が目標となる。

「糖尿病や脂質異常症など生活習慣病のデータを見ると、体重の減り方が大きいほど数値が改善しています。ただし急激な減量は禁物。まずは3%減からスタートを。3%分の減量にしても、3~6か月かけて減らすつもりで考えて。長期戦で臨みましょう」

夜は、ストレッチや軽めの筋肉トレーニングを。あおむけに寝て、片ひざを両腕で抱え、息を吐きながら胸に引き寄せる。腰の筋肉が伸びるのを感じ10〜20秒間キープ。血行が良くなり心地よく眠れる効果も。継続が大事! ※写真はイメージです

行動08:善玉菌はスリムのカギ 腸内環境の改善でダイエット

「太った人とやせた人の腸内細菌を調べると、太った人に悪玉菌が多いことがわかっています」

 悪玉菌の増殖を防ぐのが短鎖脂肪酸。食物繊維を摂取すると大腸で分解される際に産生され、腸内環境を整えるほか、脂肪の蓄積を抑制するなどさまざまな働きを持つ。

「食物繊維の多い野菜を食べることが望ましい。腸内環境のためにも一日300gを目安に野菜をとりましょう」

食物繊維などをエサに、ビフィズス菌や酪酸菌などの有益な腸内細菌から短鎖脂肪酸が産生。腸内を弱酸性に保ったり、肝臓での脂質合成を抑制するなどの働きも期待できる ※写真はイメージです

行動09:どうしてもやせられないときは医師のサポートも

 自力でやせられないときは、医師に頼るという手段も。

「最近日本でも肥満症の治療薬を扱うようになりました。ただしあくまで肥満症という病気を治す薬で、減量目的のやせ薬ではない。治療ということを理解して」

 気をつけたいのがネットなどの個人輸入。正しく医療機関を受診し、薬が必要かどうか医師の判断を仰いで。

行動10:目安は1か月で1kg、ダイエットは急がない

 中高年のダイエットは即効性を求めるのではなく、根気と心構えが大切、と宮崎先生。

「5年、10年と長期間かけてため込んできた脂肪を、1か月、2か月で減らすのは無理というもの。どんなに多くても1か月で1kg以上の体重減少は健康に害があると考えて。

 もし10kg減量したいなら、10か月、20か月かけるつもりでゆっくり減らしていく。あせらず地道に取り組みましょう」

宮崎滋先生●東京医科歯科大学医学部卒業。東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長。日本肥満学会(名誉会員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)。
教えてくれたのは……宮崎 滋先生●東京医科歯科大学医学部卒業。東京逓信病院副院長、新山手病院生活習慣病センター長を歴任し、2015年より公益財団法人結核予防会総合健診推進センター所長。日本肥満学会(名誉会員)、日本生活習慣病予防協会(理事長)。

取材・文/小野寺悦子

 

時計遺伝子と朝食の関係 ※時計遺伝子とは生体機能の24時間周期の変動(概日リズム)を制御する遺伝子群の総称

 

健康的で理想的な1食でも、カロリー摂取過多な場合も多い。この定食で約600キロカロリーだが、一日の目標摂取カロリーが1800キロカロリーなら3食でこれを超えないように ※写真はイメージです

 

夜は、ストレッチや軽めの筋肉トレーニングを。あおむけに寝て、片ひざを両腕で抱え、息を吐きながら胸に引き寄せる。腰の筋肉が伸びるのを感じ10〜20秒間キープ。血行が良くなり心地よく眠れる効果も。継続が大事! ※写真はイメージです

 

食物繊維などをエサに、ビフィズス菌や酪酸菌などの有益な腸内細菌から短鎖脂肪酸が産生。腸内を弱酸性に保ったり、肝臓での脂質合成を抑制するなどの働きも期待できる ※写真はイメージです