今年9月に放送回数1万2100回を超え、同一司会者のトーク番組最多放送記録で3度目のギネス認定もされた『徹子の部屋』(テレビ朝日系)。俳優、文化人などさまざまなジャンルからゲストを招く中、特に芸人たちは、突然のムチャブリや真顔スルーなど徹子さんの天然ドSなホステスっぷりに困惑するひと幕も。90歳を迎え、ますます独自の世界を築き上げていく『徹子の部屋』ワールドの魅力を徹底解剖!
体調不良での放送休止は一度もない
1976年のスタートから47年。初回ゲストの森繁久彌さんから今日まで、珠玉のトークを紡いできた『徹子の部屋』。その魅力の根幹を支えているのは「黒柳徹子が生粋のお嬢様であること」─そう語るのはテレビウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんだ。
「お嬢様ゆえの天然でピュアな好奇心がいかんなく発揮されているのが『徹子の部屋』という番組で、それはいまだに変わらない。無邪気すぎてむしろ邪気があるように見えてしまうくらい(笑)。それにゲストはざっくり斬られてしまう。そこが面白いんですよね。
すごいなと思うのは、徹子さんは誰に対してもフラットなんです。相手が若手芸人でも年配のノーベル賞学者でも常に変わらず、同じような好奇心でトークに臨んでいく。しかも、1万回以上やっているのに徹子さんご自身の体調不良での放送休止が一度もない。本当に唯一無二の存在だと思います」(カトリーヌさん、以下同)
番組は収録ではあるが、徹子さんのポリシーでほとんど編集なしのほぼほぼ生放送。最後に流れる“♪ル〜ルル”というテーマソングも実際にスタジオで流れているのだ。が、それさえも頓着しないのが徹子さんの恐ろしさだとカトリーヌさんは語る。
「あの音楽が流れるとゲストは終わりだと思うじゃないですか。でも、徹子さんはそこからネタを振ってくる。『では最後に面白いことを』って。
それでゲストは焦る。おいでやすこがさんは最後の最後に漫才をやらされたんですけど、♪ル〜ルルのせいでネタが聞こえなかった(笑)。あのフリーダムさは芸人にとっては恐怖しかないですよね」
特に芸人がゲストのときに予期せぬことが起こり、トーク番組とは思えないようなスリリングな展開になるのは、ホストにもかかわらず空気を読まない徹子さんの自由奔放さゆえ。
彼女にとって芸人とは「面白いことをしてくれる人」であり、自分を笑わせてくれるのが当たり前。笑えない芸に対しては、純然たる「なぜ?」が発生し、それが芸人たちを凍りつかせるのだ。
「徹子さんが芸人に対してよくやるのは、まず名前を間違える(笑)。ナイツの塙(宣之)さんのことを『はにわさん』と呼んでいました。あと、なぜか相方の芸をやらせるんです。雨上がり決死隊が出たときは蛍原(徹)さんに『宮迫です!』と同じ感じで『蛍原です!』って(笑)。
もうその芸人さんがどういう笑いをやっているかは一切関係なし。しかも、笑えなかったときのリアクションが真顔。オチを決めた直後のひと言が『そうですか……』って。これは心が折れますよ」
芸人にとって『徹子の部屋』が鬼門なのは、その特異なシチュエーションもあるという。霜降り明星のせいやいわく、だだっ広いスタジオにポツンとあのセットがあって、暗闇の中それだけが浮かび上がっている。
地獄の空気も友近は演歌歌手になりきる
いざセットに入るとスタッフすら見えなくなって、悪夢に迷い込んだような感覚だったそう。さながら、芸能の大魔王の部屋に突如、召喚されたようなものだろうか。カトリーヌさんがこれまで最も恐ろしかったのは、友近が持ちネタの大御所演歌歌手・水谷千重子を披露したとき。
「徹子さんはモノマネが大好きなので、あれやってこれやってと前半はご機嫌だったんですけど、衣装を着替えて高飛車な水谷千重子キャラを演じ始めたら、それがまったくお気に召さなかったようで、恐ろしい空気になったんですよ。
友近さんも芸人としての意地があるから大御所演歌歌手を演じ続ける。でも、徹子さんはその世界観に絶対乗ってくれない。ネタが終わるや、『面白くないものをお目にかけて、みなさま申し訳ありません』って徹子さんが謝ったという。
もう背筋が凍るような恐ろしい時間でした。ただ、徹子さんに『まだ続けます?』と言われてもキャラを貫き通した友近さんにも芸人としてのすごみを感じました。ある意味、神回でしたね」
神回といえば、魔王・徹子がお笑い怪獣・明石家さんまと相対したときもなかなかの見ものだった。
「徹子さんはさんまさんのことが大好きで、『どうしてそんなに面白いの?』ってずっと聞いてて。さんまさんが『(面白いのは)あんたがや』って返したら、徹子さんが突然『あんたが~、高砂や~』って歌い出して、さすがのさんまさんも一瞬絶句(笑)。
お笑い怪獣さえも凍らせる徹子さんのすごさを垣間見ました。さんまさんは別格として、徹子さんに一番ハマった芸人はねづっちさんじゃないかな。徹子さん、『整いました』って聞くとお母さんの『ごはんできたよ』と同じくらいうれしくなると言って、そこから謎かけ千本ノックがスタート!
話の途中でなんの脈絡もなく『パンダ』とか『プロパンガス』とかお題がぶっこまれる。それにねづっちさんが全部答えていくという(笑)。この回も壮絶でしたね」
謎かけやモノマネ以外に徹子さんが大好きなのが筋肉。アスリートがゲストのときは必ず触ってくるというから、彼女の前では番組コンプライアンスなどというのはあってなきがごとくだ。
「水泳の入江陵介さんは胸筋、体操の内村航平さんは上腕二頭筋、フィギュアの高橋大輔さんはなんと大臀筋! お尻を触って、『かたい! これ筋肉なの!?』って大はしゃぎ(笑)。俳優でも竹内涼真さんのときは、どうすればこの筋肉の素晴らしさがテレビに映るのかしらってカメラの角度まで指示してました(笑)」
今でこそ番宣で俳優やタレントがゲスト出演することも多いが、'76年の番組開始時は黒柳徹子が興味を持った、まだそれほど世に知られていない人を呼ぶという趣旨があり、そこで見いだされたのがタモリだった。
『徹子の部屋』は昭和の最後の砦
'77年の初出演時は無名も無名、『徹子の部屋』が2度目のテレビ出演だったそう。以後'13年まで毎年、年内最後のゲストとして招かれ、そこで芸を披露するというのが番組の恒例行事となった('21年からまた復活している)。
また、長寿番組だけに主たる著名人のほとんどは『徹子の部屋』の出演経験があり、日本の芸能史のアーカイブ的な役割も担っている。
「有名な方が亡くなると追悼企画が組まれますよね。最近だと谷村新司さん。しかも、そういう方は何度も出てらっしゃるので、この番組だけで歴史がたどれるんです。『徹子の部屋』だから話すというゲストも多くて、実はこういう病を患っていますとかカミングアウトする方も多い。
それも全部、徹子さんへの信頼からだと思います。そういう意味では、いま出てほしいのは藤島ジュリー景子さんかな。徹子さんはジャニーズとの縁も深いですし、ぜひ(笑)」
『徹子の部屋』は昭和の最後の砦なのだとカトリーヌさんは語る。
「令和って、絶対的だと思っていたものが揺らいでいる時代じゃないですか。ジャニーズが崩壊し、歌舞伎や宝塚といった伝統的な芸能にハラスメントの問題が起こる。つまり、昭和のやり方はもう通用しないということなんです。
そんな昭和の芸能の良き面を体現しているのが黒柳徹子さんだと私は思います。なので『徹子の部屋』はぜひ、100歳まで続けていただいて、その間にAIに徹子さんのすべてを学ばせて、テレ朝に置かれているロボ徹子にバトンタッチするみたいな。そんな夢を見てしまいますね(笑)
取材・文/蒔田陽平
カトリーヌあやこ 漫画家&テレビウォッチャー。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など