視聴率が右肩下がりとなってしまう原因は「フジテレビらしさ」にあるというが……(画像:『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ~』フジテレビ公式ホームページより)

 老舗レストランの冷蔵庫の電源が抜けていて生鮮食品が全滅――。月9『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)の第3話のエピソードである。ちょっとツッコむ気持ちも起こらないほど迷走している。どうしてこうなったのか。

視聴率は右肩下がり

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『ONE DAY』の足を引っ張っているのは、そこに潜む“フジテレビらしさ”であると感じている。“フジテレビらしさ”とは何か。成功した日曜劇場『VIVANT』(TBS)と比較することで浮かび上がるフジテレビのクセのようなものを解きほぐしてみよう。

 2023年12月23日23時30分、横浜で拳銃による殺人事件が発生。容疑者・勝呂寺誠司(二宮和也)がレストランに逃げ込み、そのドタバタで、シェフ・立葵時生(大沢たかお)が店の大事なデミグラスソースの寸胴鍋を倒してだめにしてしまう。

 でもクリスマスイブの営業を休みにしたくない。お店の人気メニュー・デミグラスソースを使ったビーフシチューの注文を回避する方法を無理くりひねり出した矢先に、冷蔵庫の電源が入っておらず、食材すらピンチ!という展開が『ONE DAY』の第3話である。

 視聴者の落胆を表すように、初回は7.8%あった世帯視聴率は、第2話、5.5%、第3話、5.3%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と下がっている。イブのディナー営業のピンチより、ドラマ『ONE DAY』がピンチである。

 昨今のテレビドラマは、配信などを見るユーザーも多いのでリアルタイムにテレビで見る視聴率は指標になりにくいとはいえ、大沢たかお、中谷美紀、二宮和也と一人ひとりが主人公のドラマが1本できる3人が集まって、3つのドラマが絡み合った、『24 -TWENTY FOUR-』のような凝ったドラマに挑むということで注目されていた割には、物足りない数字である。

 とりわけ、前期の『VIVANT』の世帯視聴率が最終的に跳ね上がったため、世帯視聴率無用論が有耶無耶になったのも運が悪かった。フジテレビ「月9」とTBS「日曜劇場」は2大人気ドラマ枠であること、主役級のキャストを集結したこと、人気ジャンルをミックスした構成、二宮がどちらにも出ている、考察系……ということからも、なにかと比べられて、お気の毒な気もする。

主人公3人は月9の常連ではない

『VIVANT』にあって『ONE DAY』にないものは何か。3つ挙げてみよう。

1. 海外ロケがない。モンゴルの砂漠という新鮮さがあった『VIVANT』に対して、『ONE DAY』は横浜ロケだらけで、ライトアップされた湾岸都市、大観覧車など、既視感しかない。

2. 味気ない。記憶喪失の逃亡犯に秘密が、真摯な報道が成されないテレビ局に業を煮やすキャスターの葛藤、ドジっ子シェフのドタバタ……とこれらはドラマによくあるパターンで、新鮮さがない。だからこそそれを3つ足せば、3本の矢のごとく強靭になると思いきや、3つに分割されてしまったことで、1つひとつのドラマをじっくり味わえない。

 先述したレストランのソースと食材問題によって、シリアスな事件の当事者と真相を追う人たちのパートの味が薄まってしまうのだ。

3. 主人公3人が月9の常連でない。『VIVANT』が堺雅人、役所広司、阿部寛、と歴代日曜劇場の主人公をつとめた者たちであることに対して、大沢たかお、中谷美紀、二宮和也は月9の印象がない。どちらかというと、TBS ドラマに出ているイメージがある。これが意外と重要な点である。

 大沢と中谷は、コロナ禍、再放送されて盛り上がった日曜劇場『JIN―仁―』(2011 年)が強烈だ。さらに、特ダネを追う・ニュースキャスター・倉内桔梗役の中谷が銃撃事件の真相を追っている姿には、伝説のミステリードラマ『ケイゾク』(1999年)を思い出してしまう。

 二宮は直近で『VIVANT』に出ているし、ほかにも日曜劇場『マイファミリー』(2022年)やミステリーだと『流星の絆』(2008年)という東野圭吾原作の名作があった。

 大沢、中谷、二宮、3人ともフジテレビドラマにも出てはいるのだが、一般視聴者にとって鮮烈だったのは、どうもTBS のドラマなのである。『ONE DAY』のなかで唯一、月9の申し子感があるのが、警視庁・組織犯罪対策部の管理官・蜜谷満作役の江口洋介のみ。やたらと意味深に出てきて、実際、記憶を失った誠司が死体を前にして呆然としていたとき、「逃げろ」と電話してきたのは蜜谷らしく、キーマンなのである。

TBS感のある俳優陣を起用した狙いは?

 江口は、映画化もされてヒットした『コンフィデンスマンJP 』(2018年〜)シリーズのヒール役であり、『東京ラブストーリー』(1991年)や『ひとつ屋根の下』シリーズ(1993、1997年)などでも大活躍している。『コンフィ』も『東ラブ』も『ひとつ屋根』もすべて月9。江口洋介は月9常連なのである。

 もう1人、『コンフィ』と『SUITS/スーツ』シリーズ(2018、2020年)の小手伸也が月9常連と言っていいが、いくらキャラが濃くても主役級ではないので穴を埋めることは難しい。

 なぜ、そうしたのだろうか。キラキラ夜景都市というフジテレビっぽさのなかに、月9常連ではないTBSっぽい俳優を配置してみる。あえてそれを行ったのではないだろうか。こういった意外性、ひっくり返しのようなことがフジテレビドラマらしさの1つでもあるからだ。

 テーマ性や社会性のあるストーリーをじっくり見せるTBS(ゆえに“ドラマのTBS”と言われてきた)に対して、フジテレビは面白さを優先してきた(“バラエティーのフジ”と言われてきた)。

 それが、『リーガルハイ』シリーズのように、本来正義側という認識のあった弁護士が金に目がなく毒のある人物であったという設定や、徹底的に裏をかくことの連続を刺激的に見せた信用詐欺のドラマ『コンフィデンスマンJP』や、泥棒もののパロディーの極地『ルパンの娘』(2019年)など、既存のジャンルを逆手にとって喜劇あるいは戯画化したような作品を生み出し、人気を得た。

『ONE DAY』の脚本家は『ルパンの娘』の徳永友一であり、プロデューサーは『リーガル』『コンフィ』の成河広明である。さらに記せば、演出家は、三谷幸喜ドラマを多く手掛けてきた鈴木雅之である。

バラエティーの成功体験に固執している?

 華やかな舞台を用意し、既存のハリウッド映画のようなメジャー作を意識して、オマージュしたり、あえて解体し再構築したり、構造の面白さ、展開の意外性の力技で視聴者を牽引していくバラエティー的な見せ方の成功体験に基づいて、『ONE DAY』はつくられたように思われる。

 梶原善や佐藤浩市などのクセの強い脇役などがアクセントとして登場するのもフジテレビらしい賑やかしである。もっともサブタイトルの「から騒ぎ」とあるので、これらが「から騒ぎ」であることをわかってあえてやっている、むしろ「から騒ぎ」万歳なのだろう。ところがこういったバラエティー的な、よくいえばお遊び、悪くいえば悪ふざけを好む視聴者が思いの外、減ってしまっていたのが現状なのではないか。

 最終的には、三谷幸喜的、ウェルメイドに落ち着くのであろうが、いまの視聴者はそこまで待つ余裕はないのである。『24』の場合、主人公とその家族と政治家の関連がわかっているから安心して見られたが、『ONE DAY』は接点のない人たちの接点がわかり、ウェルメイドなラストになるまで待ってはいられない。瞬間瞬間、どんどん謎を解いて先に進みたいのである。

 こういう世相を読めなかったのか、わかっていたうえで遊びも忘れないでいたいと世に問うているのか。老舗の味・デミグラスソースに固執するシェフとフジテレビが重なって見えて、なんだか切なくなってきた。『東ラブ』もハマったし、『王様のレストラン』や『リーガル』『コンフィ』『ルパンの娘』等々、過去作が大好きだっただけによけいに。


木俣 冬(きまた ふゆ)Fuyu Kimata
コラムニスト
東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。