「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
第94回 フワちゃん
急に売れっ子となった芸能人ほど「すぐ消える」と言われてしまうもの。タレント・フワちゃんもその一人ですが、2020年のブレイクから今日まで、消えることなく活躍を続けています。その秘密は“遅刻キャラ”にあるのだと思います。
フワちゃんの遅刻癖については、‘20年11月17日号「週刊女性」が「フワちゃん、多忙すぎて遅刻連発の正念場!『テレビ局出禁』の可能性も」と報じています。芸能界であろうと、会社員であろうと、仕事の際に遅刻が歓迎されることは、まずありません。それにも関わらず、なぜフワちゃんの遅刻が大問題にならないのかというと、時代とマッチしているからではないでしょうか。
理由その1.若い人を怒りにくい時代だから
仕事をしていたら、若手が先輩に叱られることはあるでしょう。しかし、セクハラやパワハラなどハラスメントNO!の時代がやってくると、正当な指導を「パワハラだ!」と曲解する人もいて、今は若手を怒りづらい時代と言えるでしょう。
フワちゃんの場合、怖いのがあっけらかんと報復するところ。「タメ口キャラで怒られたことはないのか?」という質問に対し、「あちこちオードリー」(テレビ東京)、「マルコポロリ」(関西テレビ)、「グータンヌーボ」(関西テレビ)など、いろいろな番組で、小柳ルミ子の名前を挙げています。フワちゃんが挨拶もせずに「ルミ子ぉ」と話しかけたところ「あんた何、その口の利き方は!」と怒られそうです。フワちゃんの立場で言うのなら、番組の司会者に「タメ口を利いて、誰かに怒られたのか?」と聞かれたから、答えたまでのことでしょう。しかし、ルミ子側に立つと、正当な注意をしているのに、複数の番組で「ルミ子に怒られた」と言われ、さらにそれがネットニュースになって拡散されてしまうと「ルミ子、いい人だと思っていたけど、本当は怖いんだ」というイメージがつかないとは言いきれない。こうなると「触らぬフワにたたりなし」とばかりに、大御所ほどフワちゃんのタメ口や遅刻など、常識ハズレの行為をとがめなくなるのではないでしょうか。
理由その2.大人の発達障害がブームの時代だから
遅刻というと自己管理がなっていないとか、タルんでいると思う人も多いでしょう。しかし、生まれつきの脳の特性で、遅刻や忘れ物をしやすい人がいることがわかっています。それが発達障害の一種、ADHD(注意欠如・多動性障害)です。フワちゃんが発達障害かどうか他人が決めつけていいものではあり
理由その3.時代が“イライラ”キャラ・コンテンツを求めているから
現在のエンタメの主流は、いかに人をイライラさせるかだと思います。タレントがテレビで人をイライラさせることを言い、それがネットニュースとなり、そこにSNSやヤフーコメントが反応し、週刊誌もその人を追うという図式ができあがっていると言えるでしょう。ぶっちぎりイライラ・クィーンと言えば、たいして中身のないことを、自信たっぷりにまわりくどく言う三浦瑠麗センセイでしたが、瑠麗センセイはご主人のことがあるので、テレビをちょっとお休み中。こうなると、棚からぼたもちでフワちゃんがクィーンの座につくことになります。
それでは、人をイライラさせれば何でもいいかというと、そうとは言えません。不倫も人をイライラさせるネタと言えるでしょうが、まずコンプライアンス的にアウトでテレビに出られなくなってしまうでしょうし、妻子を傷つけ、後の人生までも変えてしまう、後から現れて横やりを入れた人が幸せになってしまうという意味で、非常に「後味の悪いイライラ」なのです。
しかし、遅刻はそうではない。’23年1月15日放送の「行列のできる相談所」(日本テレビ系)では、フワちゃんが韓国を訪れ、韓国の人気アイドルユニット・KARAと共演する予定でしたが、フワちゃんがパスポートを忘れたために飛行機に乗れず、KARAを3時間待たせたことが明かされたのでした。フワちゃんのミスで人を待たせてしまったわけですから、共演者はどこか冷ややかで、反対にフワちゃんは空回り気味にがんばっているように見えましたが、これが「ちょうどいいイライラ」なのです。遅刻という悪いことをした人が、そのせいで痛い目に合うのは“因果応報”ですから、むしろ好ましいイライラと言えるでしょう。
遅刻は「ちょうどいいイライラ」
フワちゃんの遅刻が「ちょうどいいイライラ」であることを、とっくにテレビは気付いているのでしょう。上述した「行列のできる相談所」だけでなく、「有吉の夏休み」(フジテレビ系)でも、フワちゃんの遅刻の様子を取り上げるなど、フワちゃんの遅刻はもはや立派なコンテンツと化しています。2021年放送の同番組では、司会の有吉弘行が「遅刻するなよ!毎日遅刻しているじゃないかよ。時間だけは守れって言ってるの。自由にやってもいいし、敬語使わなくてもいいから。なんでできないの?」と怒りすぎず、きちんと主張すべきことは主張するお説教で賞賛されました。
「有吉の夏休み2023 密着77時間 in Hawaii」は9月2日の放送でしたが、フワちゃん自身が「フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)」(ニッポン放送)で、またしても遅刻や忘れ物をしたことを明かしていましたし、同じく同番組に出演したタレント・みちょぱはラジオ番組「#みちょぱら」(ニッポン放送)で「全部の日に忘れ物を絶対しているのよ。プラス時間に遅れるでしょ。あの人のラジオ聞いたんですけど、まだあの人、自分で話していないこといっぱいあるからね」と興味をあおるような予告をしたのでした。フワちゃんの遅刻があることで、芸能人個人のイメージアップや番組の宣伝に貢献しているのです。フワちゃんサマサマではないでしょうか。
ベッキーはモラルみたいなものに触れてはいけない
そんな中、気になるのがタレントのベッキーです。10月28日放送の「サバンナ高橋のサウナの神様」(TOKYO MX)に出演したベッキーは気になるニュースとして、フワちゃんの遅刻を上げ、「生放送に遅れちゃったりして、業界人はいいかげん怒ってるみたいなニュースを見たとき『誰も怒らねえよ』と。フワちゃんの遅刻をガチで怒る人っているのかなって。ネットニュースの書き方が面白いって思ったんですよね」と話していました。自分も叩かれた経験があるだけに、後輩を思いやっての発言だったのかもしれません。しかし、ベッキーは不倫という「後味の悪いイライラ」の前科があります。そのベッキーがモラルみたいなものに触れると、ネット民はイライラして「おまえに言う資格があるのか」と古傷を攻撃してくる可能性があるので、避けた方がいいのではないでしょうか。
「フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)」(ニッポン放送)によると、フワちゃんは生放送のときは、遅刻を防ぐために自腹でロケバスを発注しているそうです。つまり、フワちゃんは「ネタにもなる、してもいい遅刻」と「絶対にしてはいけない、ヤバい遅刻」の違いがわかっているということではないでしょうか。各方面に利益をもたらしているフワちゃんの遅刻より、ベッキーの自分のイメージが悪くなる、フォローになっていないフォローのほうが、ずっとヤバいように思えてくるのでした。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」