現役時代は「バレーボール界のプリンス」として注目を集め、空前の男子バレー人気に火をつけた川合俊一。実は投資家の一面もあり、株でさまざまな経験をしている。2006年に起きたライブドア・ショック、さらにリーマン・ショックと合わせると、トータルで1億5000万円もの資産が消えたという過去も。爽やかな笑顔の裏の、知られざる素顔に迫る。
わずか半年で2倍の280万円に
川合俊一さん(60)が投資を始めたのは35年ほど前の1988年、まだ現役バレーボール選手だった時代のことだったという。
「当時はいわゆるバブル景気真っ最中で、周りの人がこぞって土地を買い始めました。僕はまだサラリーマンだったから、土地を買うようなお金もないし、お金を借りてまでやるのもどうかと。そんなとき、“株なら安い値段で買えるよ”とすすめてくれた友人がいて、それが投資を始めるきっかけでした」(川合さん、以下同)
大事に貯めた手持ちの140万円を軍資金に、すすめられるまま生まれて初めて買った株は、大日本印刷と、大日本インキ(現DIC)。その2銘柄が、わずか半年で2倍の280万円になったという。
「びっくりしました。ただ最初にそうだったから、“投資って儲かるものなんだ”と思い込みましたね。そのときは車の頭金にしたと思います」
’90年には日本代表を引退。ビーチバレーに転向した。本場アメリカでの試合が増えたこともあり、投資をいったん終了することに。再開したのは、バレーの現役を引退して数年後だった。知人と株の話になり、思い出したように再開したという。
「株をわかっている友人がアドバイスしてくれたのがよかったですね。10社ほどの株を購入しました。内3社は未公開株。単純にいい会社だなと、応援する意味で買ったんです」
勝つときもあれば、負けるときもあるのが投資。
「未公開株3社のうちの2社は上場できず、800万円の損を出すことになりました。ただ、残りの1社はのちに上場。ネクシィーズ(現ネクシィーズグループ)という会社です」
当時、37歳で東証一部上場企業の最年少創業社長になった近藤社長率いる会社だ。
「投資したときは、まだ社員10人ぐらいの小さな会社だったんです。近藤社長本人から応援してほしいと言われ、叱咤激励の意味も込めて500万円を投じました」
運がいいと言っていると、運がよくなる
それが2002年の上場で爆上がり。持ち株は3500万円まで急騰した。さらに当時は、銀座や六本木といった場所で、気鋭の若手経営者たちと会うのが川合さんの日課になっていた。
出資者を見つけたい若手経営者たちが、川合さんのような有望投資家を見つけようと、こうした場所に大挙して繰り出していた。
「知り合った人たちの会社を調べて、自分なりに“いいんじゃないか”と思ったら資金を投じるようにしていました。僕の投資は日本株中心。“この会社、伸びるかな?と思って投資して伸びると、“やっぱりオレの目は正しかった”、そうしたうれしさで買っていたんです」
そんな川合さんには普段から守っているポリシーがあるという。
「景気っていうように、株は“気”のもの。運がいいと言っていると、運がよくなる。普段の生活の中でもネガティブなことは言わないというのは意識しています。それは金運を呼び込むためという理由もあります」
自分の運を信じて選んだ投資は大成功。20年前のITバブルの時代には2000万円で買った1銘柄が、6000万円の値をつけたことも。
「スポーツ選手って、戦ってきているから勝負事が好きですよね。自分は運がいい、勝てると思って戦っているし、そう思わなきゃ勝てません」
だがそんな“イケイケ”な状況は長く続かず、投資の恐怖を味わう瞬間がやってくる。
ITバブルを背景に、2000万円が6000万円になり、持ち株の総額は見る見る間に総額2億円を突破……。
黄金の日々を崩壊させたのが、2006年1月のいわゆる『ライブドア・ショック』。ホリエモンこと堀江貴文氏率いるライブドア社を東京地検特捜部が強制捜査。それが原因で、株式市場全体が急落した一件のことである。
「2億円あったものが1億円にまで下がりました。とにかく毎日ストップ安(値幅制限いっぱいまで株価が下がること)で、売りようがない。
1か月にわたって株の評価額が毎日400万から500万円も減っていく。目の前で現金が減るんだったら、“うわ~っ”って感じでしょうけど、画面上の数字が減っていくだけだから、夢の中にいる感じ。リアル感がないんです」
そんな日々を支えたのもまた、アスリートならではの前向きさだった。
「株が下がっても、投資した会社がつぶれたわけでも、上場廃止したわけでもないから落ち込みません」
これからも投資をやめるつもりはない
2008年のリーマン・ショックでも5000万円の評価損を抱えたが、株価はやがて元に戻っていった。
「イギリスがEUから離脱するだけでその日の高値から1000円も日経平均が下がった。ちょっとしたことでも影響するので、新聞やテレビなどでの情報収集はとても大切。トランプ氏がX(旧Twitter)で“海外企業に増税する”と言っただけでも株がドーンと下がりますからね」
株を始めてから、世界情勢を自分のことと感じ、社会の動きに敏感になった。だからこれからも投資をやめるつもりはないという。投資は世界に目を向ける、いいきっかけになっていると語る。
今、もし株を始めるなら、何を買えばいいのか聞いた。
「このまま円安が進むなら輸出産業かなあ。でもそれより生活感で、自分の好きな商品やサービスの株を買ったほうがいいと思う」
以前、株に興味を持った女性スタッフに対して、川合さんはこう答えたという。
「“自分が好きなものをじっくりと見て、評判がいいようならば買うといい”とアドバイスしました。彼女、大の肉好きで。毎日のように『いきなり!ステーキ』に行列しては食べていた。
それで彼女は500円前後でペッパーフードサービス(いきなり!〜の運営会社)の株を買ったところ、半年ほどで7500円を突破しました。なんと15倍、売却したとしたらとんでもない利益です」
自分が好きなレストランなら毎日のように行くし、その商品に詳しくなる。世間の評判にも自然と敏感になる。そんなサービスや商品を選ぶことこそが、株式投資を成功させるコツなんだそう。
また「株は自己責任。すすめられても言われるままに買わず、必ず自分で調べること」とも話す。
ちなみに、金融商品ではないが、注目しているのが高級熟成ワインを保持する“ワイン投資”。
「日本ではワイン投資はまだまだ発展途上ですが、ヨーロッパでは古くから行われている投資方法。例えば、誰もが一度は耳にしたことがあるロマネ・コンティの40年前の価格は5万円ほどでしたが、現在は安いヴィンテージでも当時の10倍以上になっています」
飲まれるごとに在庫がどんどん減っていくため、価値がいっそう高まる。それにワイン投資は株などの金融資産の価格変動の影響を受けにくいため、分散投資先としても適している。さすがベテラン投資家、抜け目ナシ!
取材・文/千羽ひとみ