元SDN48の大木亜希子が実体験をもとに綴った実録私小説『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社文庫)が実写映画化。主人公の安希子を演じるのは、元乃木坂46の俳優、深川麻衣(32)。元アイドルが、人生に詰んだ元アイドルを演じた。
「その人と一緒にいるときの自分を好きだなと思いたい」
深川「原作を読んで、これが実話ということにとても驚きました。アラサー女性の等身大の物語を描く作品はほかにもあるけれど、友情や恋愛のモヤモヤとした難しさが、きれいごとではなく複雑なところまで描かれていて、そのリアルさがぐっときました。
大木さんには、原作から猪突猛進なイメージを抱いていたのですが、実際にお会いするとふわっと柔らかく透明感のある方で、ギャップにびっくりしましたね。
アイドルグループを卒業した後、ライター、作家という道を選んで、切り開いていることが、本当にすごいです。
柔らかな人柄の内側に見え隠れする心(しん)があって、今回演じた安希子にも通じるものがあるなと思いました」
大木「映像化を願って執筆していましたが、主演が深川さんと決まったときは腰が抜けるほどうれしかったですし、自分の過去が成仏していくような気持ちでした。
印象的だったのは、ライターの仕事を安く買いたたく“1記事1000円君”のシーンです。安希子が、電話口で相手に対して皮肉な口調なのに、完全には嫌われないようにチャーミングな表情で軽く受け流す。
全体を通してアラサー女性のさまざまな悩みを丁寧に描いていながら、こういったコミカルな感じが含まれているところにも感激しました。
アイドルグループを卒業してから、深川さんは俳優としてのキャリアを歩まれ、わたしは作家として歩んでいます。
やはり異業種に転身するというのはとてつもなくハードなことで。たとえば作家にとっての書く技術であるように、基礎的なテクニックを求められるのは俳優業もきっと同じだと思います。
アイドルグループという安心できる大きな組織を自らの意思で抜けて、新しい環境に飛び込んでいく。その恐怖や不安は、おそらく深川さんにもあったでしょうし、わたしにとっても厳しい道のりでしたね」
アイドルを卒業したのちスタートさせたライター業はスランプ状態。友情も恋愛もうまくいかず、空回りしまくったアラサーが、とあるきっかけで、赤の他人のおっさんと同居生活を始めることに。同居人のササポン(井浦新)のマイナスイオン効果もあって再生していく安希子の姿に、見ているわたしたちの心も引き込まれていく。
深川「物語前半の一番詰んでいる時期にササポンに出会って、徐々に安希子の心がほぐれていく。がむしゃらに生きてきたひとりの女性の成長物語でもあります。
同居するササポンとの空気感は現場に入ってから生まれたものが多かったですね。台本を読んでいるだけでは想像し得なかった会話の微妙な間とか、最初の2人の噛み合わなさは、演じながら井浦さんとリアルタイムで作っていった作品です」
大木「実際に撮影現場にお邪魔しましたが、その完成された空気感をしっかりと感じました!
スイカを食べながら安希子がアラサー女子の心の叫びを吐露するシーンは、まるですべてアドリブのように思えるほど、会話のリズムが心地よくて。
ササポンの優しい言葉のひとつひとつに、深川さんが演じられる安希子の表情がコロコロ変わって、表情の玉手箱みたいでした」
深川「スイカのシーンは、長いワンカットなんですよね。監督がその空気感を大事にしてくださったので、より伝わったのかもしれません」
元アイドルという言葉が目立つが、メインはアラサー女性の心。アラサーだけでなく、30代を経験済みの世代にも、刺さる映画だ。
深川「友情、恋愛や結婚。人生の転換期にぶつかっているひとりの女性が、ササポンという人に出会ったことでどう変化していくのか、その心の成長をぜひ見ていただきたいです。
劇中に出てくるササポンの言葉を、みなさんがふとした瞬間に思い出して、心を軽くすることができたらすごくうれしいです」
誰の人生にもある「くすぶり期」が、きっと、愛おしく思えてくる──。
【コラム1】結婚相手に求めるもの
深川「ドキドキよりも安心感ですね。その人と一緒にいるときの自分が好きだなって思えることが大事」
大木「まさにドキドキは20代で卒業しました(笑)。とはいえまだ悟りの境地ではないんですけれど。大切なのは相性でしょうか」
【コラム2】アイドルをやめて変わったこと
深川「運動量。圧倒的に動かなくなったので、同じ量を食べてもすぐ顔が丸くなっちゃう(笑)。気をつけないといけない」
大木「グループでなくソロになったら、メンタルが強くなりました。もう誰にも頼れず、仕事をする上で自分が明確な答えを出さないといけない。新しい自分が生まれた気がします」
【コラム3】現場で盛り上がったお話
大木「井浦さんが役作りの一環で、時々ファスティングに挑戦しているという話を聞きました。わたしも以前から定期的に挑戦しているので、その話で盛り上がりました。健康的になると、精神も安定し、何事にもモチベーションが上がるんです」
深川「現場で初めてお話した時、ファスティングの良さを大木さんと井浦さんが熱弁して教えてくれましたよね。わたしもやってみたいです!」
【深川】ヘアメイク/花村枝美(MARVEE) スタイリスト/原未來 ワンピース/crinkle crinkle crinkle(レザボア) リング、イヤカフ/Jouete(ジュエッテ)
【大木】ヘアメイク/田村直子(GiGGLE)
撮影/渡邉智裕