東京・新橋。多くの会社勤めの男女が足早に行き交う繁華街。その一角にカウンターだけのこぢんまりとした店がある。女性の店員たちがカウンター越しに接客をする、いわゆるガールズバーだが、その店を経営する女性店長がこんな愚痴をこぼした。
「つい先日、本当に迷惑な客がいて……。4時間以上飲んだ代金を踏み倒そうとして警察沙汰になったんですよ」
この“迷惑な客”というのが、徳島・高知選挙区で参議院の補欠選挙の原因をつくった、元自民党の国会議員だった高野光二郎氏。
ガールズバーの席に着くなり「オレは国会議員の高野光二郎だ」
今年6月、高野氏が昨年末に高知県内の居酒屋で秘書に暴行をして流血させたことが報じられた。高野氏は、
「胸のあたりを叩くつもりが、鼻に当たってしまった」
などと弁明。しかし、'18年にも酒席で初対面の相手に暴行していたことが明るみに。
高野氏は、高知市内で会見を開き、議員辞職を表明。6月22日に辞職した。
「今は都内の大学院でMBA取得の勉強をしています。議員辞職後は、地元の支援者に“酒をやめてまじめに頑張っていきます”と話していました。高野さんを励まそうと誕生会も企画されましたが、開催されなかった。酒を断つため、恫喝酒席には出席しないという意思の表明でもあったよう」(高野氏の支援者)
多額の税金が使われた補選の投開票の3日前にあたる10月19日。そんな高野氏の姿は冒頭の新橋にあった。
「午後8時過ぎに、2人組の男性が店に入ってきたんです。席に着くなり1人が“オレは国会議員の高野光二郎だ、ネットで調べてみろ!”って言うんです」
そう証言するのは、当日に出勤していたガールズバーの女性従業員だ。
「調べると“元”国会議員と出てきて“えっ、ウソじゃん”って(笑)。とはいえ、ウチは飲み屋ですから“すごいですね~”と持ち上げました。高野さんは“どんどん飲んで”と、私たちにお酒をふるまってくれて、お店全体で飲む雰囲気に。お連れの男性は、霞が関の官僚と聞きました。料金システムは、ちゃんと説明しましたよ。高野さんはカラオケも歌っていました。中島みゆきさんの『糸』が十八番だとか」(同・女性従業員、以下同)
縦の糸は高野氏、横の糸はガールズバー。こうして織りなす糸が紡ぐ物語が、サラリーマンの聖地で幕を開けた。
「高野さんは、とにかく“オレは国会議員で偉いんや”という感じのことを言い続けていました。上半身裸になり“筋肉すごいやろ”って大したことない力こぶをつくってみせていました」
現職の国会議員と吹聴する高野氏からは、こんな発言も。
「連絡先の交換をしたら“服を買ってあげるから一緒に行こう”と言われました。高野さんは今、浅草近くのマンションに1人で住んでいるようで“オレ、寂しいんよ。ウチ来る?”とも話していました」
こうして夜も更けた午前1時前、事件が起こる。前出の女性店主が話を引き継ぐ。
「国会議員であった事実は間違いないし、最初は大丈夫だろうと思っていたんです。でも、飲むペースが速かったから一抹の不安があって……。たびたび“延長しますか?”と聞いても“もちろん延長だ!”と言うので“一度お会計を出しますね”と言って計算したら14万5200円でした。高野さんに金額を提示すると“ボッタクリだ!”と、官僚と2人で急に激高し始めたんです」
警察官を交えての話し合いに
店のメニューには、飲み放題で1時間につき3000円という料金システムが表示されている。それが14万円以上と言われれば、確かに少し高額な気も……。
「高野さんたちは4時間以上滞在していたので、5時間分のセット料金2名分で3万円。さらに有料のボトル2本で2万5000円。なにより従業員の女の子3人に、1時間に2~3杯のお酒を振る舞っていました。私も計7杯もらっています。1杯1500円が合計44杯で6万6000円。これに消費税とサービス料の20%が加算された金額です。ただ、ドリンクをいっぱいもらって甘えた部分はあったので、安くすることも考えました。けど高野さんが“裁判してみろ!”と威圧的な態度をとったので、私もカチンときて警察官を交えて話し合うことになったんです」(同・女性店主)
週刊女性は、そのときの動画を入手。そこで高野氏は警察官に向かって、
「ちゃんと勉強せえよ! 今、彼女ら(女性店長)は告発するって言ってるわけよ。俺はそれを受ける立場や」
と、支払いを求めるなら店側が裁判を起こせと主張。これに対して警察官は、
「女性は、そういう話はしてないですよ」
となだめるも、高野氏は、
「アンタどこの警察署や!?」
と威嚇する一幕も。
「伝票も警察官に見せて、確認してもらいました。最終的に、高野さんが自身の口座から下ろした10万円を払って、こちらも終わりにしたんです」(前出・女性店主)
しかし未払い料金が4万円ほど残っている。これは無銭飲食にならないのか。レイ法律事務所の浅井耀介弁護士に話を聞いた。
「無銭飲食は刑事上の責任が発生することもあり“最初から支払いの意思能力がなく、店側をあざむき、食事などの財物の交付を受けた”という事実があれば、詐欺罪に該当します。しかし、今回は10万円を支払っており、当初から支払う意思能力がないと立証するのは難しいでしょう」
店側が裁判を起こせとする高野氏の主張については?
「今回のケースは民事上の債務不履行にあたるため“裁判で判決を得て強制執行しろ”との主張には一定の合理性は認められます。が、刑事責任のリスクは無視した主張ともいえます。支払いを拒み続け、店側が警察に被害届を出したら、警察から捜査を受ける可能性があるためです」(浅井弁護士)
高野氏本人に話を聞くと…
店側もこれ以上は追及する意思はなく、今回のトラブルは解決済みではある。が、高野氏は'19年の選挙で、約25万票を獲得して再選。酒席で暴行し、25万人の期待を裏切ったにもかかわらず、再び酒がらみのトラブルとは、反省しているのか甚だ疑問だ。
高野氏本人にも話を聞こうと携帯電話に連絡した。
─新橋のガールズバーでトラブルがあったと聞いた。
「料金に納得できなかったので、交番に行き、警察官の立ち合いのもと、話し合いをしました。警察は調書をとったり、事情聴取という形で、私たちが話し合っていたのを見ていたという状況でした。最終的に私が10万円をお支払いして終わった形です」
─警察官に“勉強しろ”とも言っていたが。
「いや、そんな話はしていません。最初から無銭飲食しようなんていう気はさらさらなくて、見合った金額は当然、払うつもりでした」
─地元では“お酒をやめる”と話していたと聞いた。
「そんなことはありません」
─補選のため多額の税金が使われており、議員辞職も酒席での問題行動が原因だった。
「いやもう……それは反省しかないですよね」
─どう反省をするのか?
「自分を改めて、それを背負いながら、今後気をつけて生きていくことだと思います」
年間2000万円以上の議員報酬は、私たちの税金から支払われていることも勉強してほしい。
浅井耀介 国内の四大法律事務所であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所で企業法務を幅広く経験。その後レイ法律事務所に入所。現在は芸能・学校問題・刑事事件を主に扱い、飲食業や旅行業の問題にも関心が高い