「近いうちに殺す」
4年前、東京・池袋で起きた暴走事故で妻子を亡くした遺族を名指しする脅迫電話が、警視庁本部に複数あったことが発覚した。
「捜査関係者によると10月28日昼、男の声で“自分は暴力団員。年のいった飯塚にお金を払わせるのはおかしい。近いうちに松永を殺す”などというものです。驚いたのが、このような脅迫電話はこの一件だけではないということ」(全国紙社会部記者)
これまでも誹謗中傷の被害に
この事故は'19年、池袋で旧通産省工業技術院・元院長の飯塚幸三受刑者(当時87)の運転する車が暴走し、松永拓也さんの妻と娘が死亡。飯塚受刑者は当初“逃亡や証拠隠滅のおそれがない”ことを理由に逮捕されず、在宅起訴のまま捜査や審理が進んだ。その経歴から“上級国民”と呼ばれ“特別扱い”に批判が噴出。遺族の松永さんらの働きかけなどもあり、このたび飯塚受刑者に慰謝料およそ1億4000万円の支払いを命じる判決が下った。
「遺族の松永さんは、これまでも誹謗中傷の被害に遭ってきました。《金や反響目当て》《男は新しい女作ってやり直せばいい》などと書き込んだ23歳の男は侮辱罪で逮捕されています。これまでも事件や事故の被害者遺族が、いわれなき誹謗中傷を受けることは多くありました」(同・記者)
大切な家族を失い、傷ついている人をさらに踏みつけるような行為。同じ人間とは思えないが、事件ジャーナリストの千葉春子さんは、
「人間の弱さが招いている」
と分析する。
「自分には関係ない」と思い込むため…
心理カウンセラーの小出真澄さんも、
「凶悪事件が発生したときに、人は自分とは関係のない出来事だと思い込もうとする心理が働きます。自分の身にも降りかかると思いたくないから、無意識に被害者の落ち度を探し“あの人が悪いから殺された”と……。それが行きすぎると被害者を誹謗中傷するまでに至ってしまうんです」
前出の千葉さんも、
「まさに“やられるほうが悪い”という理論ですよね。痴漢に遭えば“そんな格好してるほうが悪い”、いじめられると“でもあの子にも原因はあるんじゃない?”と言われるのと一緒です。その行為がいちばん被害者を傷つけていることに気づかず、自分の心の平安を保つために被害者の落ち度を探してしまう。
特にお子さんが被害に遭われるケースは両親への誹謗中傷が発生することが多いです。お子さんを四六時中、見守ることなんて誰にもできません。自分の子どもが被害に遭ったら、と考えるとたまらないのでしょう。“見ていなかった親が悪い”という発想になってしまうんです」
いじめにより命を落とした児童の両親を誹謗中傷して逮捕された30代女性が、『週刊女性』の取材に当時の気持ちを明かした。
「ご遺族は何も悪くないのに、ちょうど私にも亡くなられた子と同年代の子どもがいて、いじめっ子側の気持ちになってしまったんです。いじめっ子のレッテルを貼られて将来生きづらいだろうなとか、そんなことを自分の子どもに置き換えて考えて。でも私が逮捕され、かえって子どもを傷つけてしまった。愚かだったと反省しています」
事件や事故は対岸の火事ではない。