阪神タイガース38年ぶりの日本一をもって2023年シーズンの全日程を終えたプロ野球。オフシーズンを迎えた11月6日、さっそくFA権(フリーエージェント)行使の申請手続きが解禁されたのだが、“目玉”選手たちの去就に注目が集まっている。
その主役になりそうなのが『埼玉西武ライオンズ』の山川穂高選手(以下、敬称略)。3度のホームラン王を獲得し、パ・リーグ最優秀選手に選ばれた2018年、翌2019年のリーグ連覇に貢献。『WBC2023』侍ジャパンメンバーとして世界一も経験した、日本を代表する選手の1人だ。
2023年の推定年俸は2億7000万円と、順調に選手生活を積み重ねてきた山川だったが5月の知人女性への性加害騒動で事態一変。選手登録を抹消されると、ついぞシーズン終了まで一軍のグラウンドに立つことはなかった。
「強制性交の疑いで書類送検された山川ですが、当初より“無理矢理ではない”と主張。嫌疑不十分で不起訴となるも、事態を重く見た球団は無期限の公式試合出場停止処分を科しました。
本来ならば一軍登録日数が17日間足りなかったところ、“故障者特例措置”によって今シーズン中のFA権を取得することができたのです」(スポーツ紙・野球担当記者)
とはいえ、背番号「3」を背負う球団の“顔”をみすみす手放すわけにはいかないだろう。西武・渡辺久信ゼネラルマネジャーは11月5日、山川の代理人と残留交渉を行なっていることを明かした。具体的な年俸や契約年数などの条件を提示し、また宣言残留も容認する方針が伝えられているようだ。
手を挙げる球団があれば即移籍も
しかし山川サイドからの返答はなく、「そもそも移籍は既定路線と見られていました」とは前出の記者。
「騒動を起こさなければ堂々とFA権を取得し、福岡ソフトバンクホークスが大型契約を用意して獲得に動くと見られていました。3年連続でオリックスバファローズに王座を開け渡しているだけに、来シーズンは死に物狂いで優勝を目指してくるでしょうからね。
またセ・リーグにも山川に興味を示している球団があります。手が上がれば本人は早々に埼玉を離れる決断をすると思いますよ」
すでに西武ファン、野球ファンも彼の“胸の内”は推して知るべしといったところか。FA権行使の可能性が伝えられたネット上では、
《嘘やろ‥ 選手引退までする必要はないけど、1年はライオンズでまずは恩を返してからちゃうんかい!》
《やってることがクソだし、散々迷惑をかけてる恩のある球団にも何も考えず出ていくんだろうな~》
《まじで山川は恩知らずでは?野球の神様に見放されてしまえ》
などと“恩知らず”と捉える声も。たしかに自身の不祥事で迷惑をかけた、それでも残留オファーを提示してくれた西武球団への“不義理”のようにも思えるが……。
残留なら年俸大幅カットの単年契約か
「いや、移籍もやむなしというよりも、むしろ“どうぞ出ていってください”のスタンスかもしれませんよ」とはパ・リーグを中心に現場取材するスポーツライターの見解。
「おそらくはライオンズが提示した条件は、年俸大幅カットした上での単年契約。資金が潤沢とは言い難い球団だけに、プレー中の公傷ならまだしも、不祥事による欠場だけにドライ査定で数字を算出したはず。
とくにチーム内のバランスを重んじる渡辺GMだけに、国内外への移籍願望を持つ他選手の手前、決して山川を特別扱いすることはしませんよ。それに1年間残留させたところで来年にはチームを去る選手よりも、期待の若手選手にポジションを与えた方がチームの将来にとってもプラスです」
山川が離脱した今シーズン、十分な成績を残したとは言えずとも“おかわりくん3世”こと24歳の渡部健人が主に一塁を守り、10月26日のドラフトでは身長196cmの大型一塁手・村田怜音(れおん、皇學館大)を指名した西武。確かに“4番ファースト”の育成に尽力しているのがわかる。
「故障者特例措置」を申請したのは
そして、そもそもの山川のFA権取得の“お膳立て”をしたのが他でもない西武だとも。一軍登録日数不足分の17日間を補足した、裏ワザにも思えた「故障者特例措置」だがーー、
「この特例措置をNPB(日本野球機構)に申請したのがライオンズで、しかも夏には動いていたと。残ってほしいのならばわざわざ“抜け道”を模索しないでしょうし、この時点で、山川が移籍できるお膳立てをしていた、つまり来年のチーム構想から外していたように思えます」(前出・スポーツライター、以下同)
また西武は地域の小学生を球場に招待したり、ドーム施設のリニューアルなどでファミリー層、女性ファン層の拡大に地道に取り組んできた経緯がある。子どもに人気者の山川が移籍することは興行的に手痛いが、それ以上にクリーンなイメージを優先したい事情もあるという。
「それにFA権とはこの1年間だけでなく、山川ならばプロ入りから10年かけて取得した選手の権利。自分が思うように堂々と行使すればいい。(チーム内年俸)Aランクの今他球団に移籍すればライオンズも補償を獲得できますし、多少なりの恩返しになりますからね」
毎年のように主力選手がチームを去ろうとも、それでも持ち前の育成力で新たなスターを誕生させてきた西武。ファンにとって残念ではあるが、山川のFAは本人と球団と双方の思惑が合致した結果なのかもしれない。