ジェンダーレス社会を目指すうえで、「男尊女卑」が浸透してしまっている状態が好ましくないのは言わずもがなだが、日本ではその逆の「女尊男卑」もかなり浸透してしまっている。
差別のない社会を目指しているはずなのに、特に中年男性=「おっさん」への差別が平然と行われているのは否めない。おっさんに対しては貶めるような言動をしてもOKという認識や、さげすんでいじっても笑いになっていればOKという認識が、この国では当たり前のような空気感になっているのである。
なかでもその「女尊男卑」の傾向が如実に表れているのが芸能界(テレビ業界)。
最初に断っておくが、これから何人かの芸能人の名を挙げて実例を出していくが、たいてい本人は悪気なく無自覚なので、本稿ではその芸能人を個人的に糾弾する意図はない。“悪気なく無自覚”でそれが行われてしまっている日本の芸能界全体を、問題視しているということはご理解いただきたい。
「もし男女逆転していたとしたら」で考えてみる
まずは、10月下旬に放送された『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)でのワンシーン。
ギャルタレントのゆうちゃみ(22)が、LINEの返信が苦手で何百通も未読にしているというトークの流れで、ぺこぱ・シュウペイ(36)からのメッセージには返していないと暴露。
その際に周囲の共演者たちから、相手がシュウペイならば「返さなくていい」といった声が集まり、笑いになっていたのだ。
これの何が問題なのかと思う人もいるかもしれないが、もし男女逆転していたとしたらどうだろう。若いイケメンタレントが中年女性芸人のLINEを未読スルーしていると告白し、周囲の共演者が悪ノリして「返さなくていい」と大合唱していたとしたら?
相手が中年男性ならいじってさげすんでもOKという共通認識が、出演者たちの間にあったことが推察される。もし男女が逆転していれば、仮に収録中にそんな場面があったとしても笑えないし、テレビ局側も放送せずにカットするのではないだろうか。
ちなみにこの場合、「シュウペイ自身がいじっても大丈夫と言っていたかどうか」は論点ではない。本人が許容しているという理由で全てが許されるとしたら、本人がブスいじりやデブいじりを望んでいるならば、女性芸人へもそういったいじり発言をしていいことになるからだ。
けれど実際には本人が望んでいても、現在のテレビ業界では倫理観的に女性芸人への容姿いじりなどは御法度になっている。一方で、男性芸人へのデブいじりやハゲいじりなどは現在でも許容されているフシがあるだろう。
中年男性を貶めて笑いを取るという風潮が蔓延
8月中旬に放送された『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)には、鈴木奈々(35)とギャロップ・毛利大亮(41)が出演。
以前、鈴木が仲のよい女性タレント4人で写真を撮ってInstagramにアップしたところ、毛利からその4人のなかで鈴木が「一番かわいい」という趣旨のDMが届いたという。鈴木は「怖くて! すごく!」とネガティブな印象を受けたと告白し、スタジオ内では毛利の行動に対して悲鳴があがったのだ。
たしかに今のご時世的に、職場の女性に「かわいい」などと言えばセクハラになる可能性はあるものの、このケースも男女逆だったらどうだっただろうか。「怖くて!」と発言した男性側が大炎上しかねない案件だろう。
続いて、9月中旬に放送された『しゃべくり007』(日本テレビ系)でのこと。
女性グループをゲストに招いたトークを展開中に、レギュラーのネプチューン・名倉潤(54)が急に席を立ち上がり、トイレに向かうというハプニングが起きた。MCを務めていたくりぃむしちゅー・上田晋也(53)が「何してんの!?」などとツッコミを入れ、トイレから名倉がこそっと戻ってきた際にも「バレてるわ!」とツッコミ。
一連のやりとりでスタジオ内は笑いに包まれていたのだが、はたして女性タレントがトイレに立っていたとしたら、そのシーンをオンエアしていただろうか。誰にでも起こりえる生理現象を茶化したわけだが、人によってははずかしめられたと屈辱を感じるようなデリケートな問題なので、女性タレントであれば編集でカットしていた可能性は非常に高い。
「おじさんいじり」は受け入れないといけない?
また、4月期のドラマ『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)で、主演の橋本環奈(24)の相手役を務めていたHey! Say! JUMP・山田涼介(30)の発言も、かなり根深い問題を感じさせた。
撮影期間中の5月9日に山田は30歳の誕生日を迎え、撮影現場でバースデーを祝われたとのこと。その際に山田が「「30歳になっちゃいました(笑)。最近ようやく環奈ちゃんが『おじさんいじり』をしてくれるようになって、うれしく思っております」とコメント。
これはもちろん場を和ませようとした山田なりのサービストークなのだが、中年男性は「おじさんいじり」を喜んで受け入れないといけないという風潮が、それだけ日本中に蔓延しまくっている証拠のように思えたのだ。
そして、芸能界の話からは逸れるので余談ではあるが、岸田文雄首相(66)がネットを中心に「増税メガネ」と揶揄されるあだ名を付けられている。そして、10月下旬の衆議院予算委員会で、立憲民主党・長妻昭政調会長(63)が「総理は『増税メガネ』という言葉は気になるか?」と問いかける場面があった。
これも岸田首相が男性であるから、ここまで「増税メガネ」という言葉が広まってしまったように思えてならない。そもそも首相が女性ならばネット民の間でも「増税メガネ」という言葉は流行らなかっただろうし、長妻政調会長が女性首相にその問いかけをしていたら、彼のほうが大ヒンシュクを買っていたに違いない。
“問題”として認識できてない人があまりに多い
先ほどもお伝えしたとおり、この「女尊男卑」がはびこってしまっていることは、今回名前を挙げた方々の個人的な問題ではない。
男性(特に中年男性)が相手ならば、貶めて笑いを取ってもいいのだという空気感が、日本および日本の芸能界に蔓延してしまっており、それを“問題”として認識できてない人があまりに多いということが大問題なのである。
真のジェンダーレス社会を目指すのであれば、「男尊女卑」と同じぐらい「女尊男卑」の問題も考えていかなくてはいけないのではないだろうか。