エンゼルスからFAとなった大谷翔平

 エンゼルスからフリーエージェント(FA)となり、11月7日から全球団との交渉が可能になった大谷翔平。オフシーズンになっても話題は尽きない。

「9日には日本国内にある約2万校の全小学校に各3つずつのグローブを寄贈することを発表しました。自身のインスタグラムにはサインと“野球しようぜ!”と書かれた画像を投稿。

 また、ポジションごとに最も優れた打者を表彰するシルバースラッガー賞のDH部門での受賞が日本時間10日に発表されました」(スポーツ紙記者、以下同)

 大谷に関して、日米の多くのファンが気になっているのが来年、どのチームでプレーするのかという点。

エンゼルスと本拠地が近いロサンゼルス・ドジャースが移籍先として有力視されています。ほかにも同級生の鈴木誠也選手のいるシカゴ・カブスや、名門で資金力のあるニューヨーク・ヤンキース、今年ワールドシリーズを制覇したテキサス・レンジャーズなども候補に挙がっています。エンゼルスと再契約する可能性も当然考えられます」

 二刀流をめぐる“狂騒曲”がスタートする中、どのユニフォームを着る可能性が高いのか。アメリカで取材をするスポーツライターの梅田香子さんに現在の状況を聞いた。

現地記者の多くがドジャースを有力視

ドジャースが有力ですね。DHのポジションを空けていますし、お金もあります。今年は地区優勝もしているので、勝てるチームであり、独走優勝しながらも、プレーオフでは3連敗を喫して、ワールドシリーズ進出を逃したため、大谷選手を獲得しようとかなり力を入れています。アメリカ人記者のほとんどがドジャースを予想しています。環境もほとんど変わらないので、ドジャースからのオファーを断る理由がありません」

 では、エンゼルス残留の可能性はないのか。

「ドジャース以外の球団と比べると、エンゼルスと再契約する可能性が高いと思います。エンゼルスも金銭的な面では問題ありません。ただ、今年はシーズン途中に選手を補強しながらもプレーオフ進出には届きませんでした。“勝ちたい”という大谷選手がそこをどう捉えているかでしょう。アメリカ人記者でエンゼルスを予想する人はほとんどいませんが、“1つのユニフォームにこだわりたい”という日本人的な考えで残留を選ぶことも考えられます」

 大谷が残留すればこれからも過ごすことになるのが、エンゼルスが本拠地を置くアナハイム。ロサンゼルス市街地から車で40分ほどの距離にあるアナハイム市では、エンゼルスも関係する“気になる問題”も起こっている。

「エンゼル・スタジアムはアナハイム市が保有していて、球団は球場を借りている立場。球場とその周辺の土地をエンゼルスのオーナー、モレノ氏が共同経営する企業が買い取り、再開発を進めることが2019年に決まりましたが、2022年に当時の市長のシドゥ氏に汚職疑惑が浮上し、辞職したことで白紙に戻っています」(前出・スポーツ紙記者)

アナハイムで起きた汚職事件

 この再開発や汚職事件はどういったものだったのか。アメリカで政治や経済、スポーツなど、幅広い分野を取材してきた在米ジャーナリストの志村朋哉さんに話を聞いた。

エンゼルスと市では、今後のリース契約をめぐって、本拠地移転の話もありましたが、アナハイムに残るということになり、その中でモレノ氏が買い取るという案が出てきました。市が相場より安い価格で売る代わりに、モレノ氏はその周辺の再開発を進める計画で話がまとまり、市議会も承認しました」

 ところが、その中で汚職が発覚したのだ。

「当時の市長だったシドゥ氏が交渉の中で、球場がある土地の査定に関する資料をエンゼルス側に流してしまいました。シドゥ氏がその見返りに“この交渉が終わったらエンゼルス側に献金を求めようと思う”と話していた音声が内密に録音され、発覚したことが問題になっています。

 アナハイムにはエンゼルスやディズニーランドがあることから、全米でも大きく報じられ、市議会も一度承認した売却を白紙に戻しました。シドゥ氏は司法取引の結果、罪を認めており、エンゼルスやモレノ氏は関わっていないとされ、罪に問われていません」

現在、アナハイム市長を務め、エンゼルスファンを公言するアシュレー・エイトケン氏(アナハイム市公式HPより)

女性市長から残留“ラブコール”か

 そして、昨年11月にアシュレー・エイトケン氏が新たに市長に就任した。

アナハイム市初の女性市長です。シーズンチケットを持っていると公言するエンゼルスファンだといいます。しかし、球場売却や再開発の話は、前市長の汚職の件で市民から“まともな行政が行われていないのでは”“公平に交渉ができるのか”という厳しい意見もあり、進んでいません」(志村さん、以下同)

 大谷が残留となれば、アナハイムも盛り上がり、再開発の話が進展する可能性はあるのか。

「残留するだけでは世論は変わらないかなと思います。優勝してエンゼルスに注目が集まり、“エンゼルスにはずっといてほしいから売りましょう”と世論が動けば再開発の話も進むかもしれません」

 大谷が残留し、優勝へと導けば、“リニューアル計画”が動き出す!?

梅田香子 スポーツライターとして、野球以外にもフィギュアスケートやバスケットボールなど多くのスポーツに精通。現在はアメリカに在住し、大リーグを中心に取材活動を行う
志村朋哉 在米ジャーナリスト。アメリカの新聞社で記者として働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のエンゼルス移籍後は米メディアで唯一の大谷担当記者を務めた