神奈川県厚木市の中心街を抜け、田園地帯の先の丘陵を上ると、県立の障害者支援施設『愛名やまゆり園』はある。
「職員と散歩する入所者を見かけると、いかにも楽しげでね。障害者に手を上げるなんてプロフェッショナル失格だよ。献身的なほかの職員が気の毒だ」(地元の男性)
入所する男性Aさん(29)に暴行を加えて大ケガをさせたとして神奈川県警厚木署は11月2日夜、傷害の疑いで同園の介護士・有泉祐斗容疑者(37)を緊急逮捕した。
同日午後2時17分ごろ、居住棟出入り口付近でのこと。
「知的障害のあるAさんに足をかけながら背中を押し、転倒させるなどして右大腿骨の亀裂骨折などを負わせた疑い。“間違いない”と容疑を認めている」(全国紙社会部記者)
蹴って、叩いて、転ばせた
同園によると、Aさんのケガに気づいたのは別の職員。
「“痛い、痛い”と泣いているのを見つけ、施設に常駐する看護師に診せました。“医師に診せたほうがいい”と言うので病院の整形外科を受診したところ亀裂骨折とわかりました。施設内に設置している“見守りカメラ”を確認すると暴行する様子が映っていました。1回蹴って、グーで叩いているように見える場面のあと、足をかけて倒していました。被害者は起き上がると足を引きずるようにしていました」(同園の園長)
容疑者がほかの入所者を園内の診療所に連れて行く際、出入り口付近にいたAさんを邪魔に思ったらしい。Aさんはしがみついたり、まとわりついたりしていなかった。
園の聞き取りに対し、
「対応時間が迫っていたため焦り、瞬間的に苛立って暴行してしまった」
などと打ち明けたという。
「警察が来るまで別室に待機させていたところ、うつむいていました。捜査には全面的に協力し、事実確認を急ぐとともに徹底した原因究明を行います」(園長)
県の委託で同園を運営する社会福祉法人『かながわ共同会』は、2016年7月に殺傷事件のあった相模原市の『津久井やまゆり園』の運営元だ。入所者19人を殺害し、職員を含む26人に重軽傷を負わせて’20年に死刑判決が確定した元職員・植松聖死刑囚(犯行当時26)は「意思疎通できない障害者は要らない」と公判で差別的主張を繰り返し、社会を震撼させた。
折しも事件を題材にした映画『月』(石井裕也監督)が公開中のさなか。
さらに同法人が運営する別の障害者施設『厚木精華園』では今年4月、50代職員が80代の入所者を引き倒して拳を振り上げ威嚇する虐待行為があり、関係自治体から改善指導を受けたばかり。
「当の愛名やまゆり園をめぐっては、3年前に職員による複数の入所者への虐待が判明。風呂場で水をかけたり、食事を箸1本で食べさせたり、夜中に1~3時間トイレに座らせる行為などがあったと県が公表した。県は津久井事件を契機に障害者福祉に力を入れ、この4月には独自の『当事者目線の障害福祉推進条例』を施行した」(前出の記者)
暴力的には見えなかったが…
有泉容疑者は8年前に中途採用。マイペースだった。
「無口で内向的な性格。無駄なおしゃべりはしない」
と同園関係者は話す。
自宅は新しい賃貸マンション。住人によると、家賃は10万円前後で間取りが広い。
「容疑者が奥さんらしき女性と連れ立っているのを何度か見た。暴力的にはとても見えなかった」(近所の住民)
容疑者は家族、友人らにイラッとしたとき、Aさんにしたように手を出してきたのか。当事者目線には程遠く、尊厳を踏みにじる犯行だ。