宝塚の本拠地である宝塚大劇場 写真/産経新聞社

「とにかく後輩たちが心配です。今後、宝塚を辞めるどころか、思い詰めて命を絶つ子が出るなど、二次被害が起こる可能性もあると思います」

 そう心境を明かすのは、元タカラジェンヌの佐藤さん(30代・仮名)。9月に宝塚歌劇団で起きた“いじめ転落死”以後の在校生たちへの精神的ダメージを心配している。

 11月14日に開かれた記者会見で劇団側は、稽古や雑務による長時間労働を認めた一方で“いじめやハラスメントは確認できなかった”と報告。佐藤さんにはどのように映ったのか。

「根っからの悪人はいなかった」

「私も在籍中は3時間しか眠れない日はありましたが、それも覚悟の上で宝塚に入りました。どんな組織にも独自性はありますから運営側も会見で“宝塚の伝統です”と堂々とするべきだったと思います」

 “劇団内でいじめが蔓延していた”とされる報道については異を唱える。

「遺族の苦しみを考えると軽率に話せませんが、私の経験で申し上げれば、宝塚音楽学校に入学する人のほとんどが、幼いころからバレエを習っていたような箱入り娘ばかり。その中に好んでいじめを行うような根っからの悪人なんていなかったと思います」(佐藤さん、以下同)

 たびたび報道されている“先輩には絶対服従”という宝塚の掟に対しても言及する。

「厳格な上下関係は舞台上での話。私が現役のころは公演後に打ち上げを行う習慣があり、そのときだけは先輩と後輩が入り交じって無礼講といった雰囲気の飲み会でした。ゲームなどのレクリエーションをして楽しんでいました」

 タカラジェンヌたちは“飲みニケーション”で交流を深めていたという。

「お酒の席では、普段は怒鳴ってばかりの先輩も優しくなったり、逆に後輩が先輩に泣きながら反論したり。本音をぶつけ合って、口論を始める人も。つまり、以前は立場を問わず意見を言い合える環境があったんです」

 そんな貴重な機会もコロナによって奪われてしまった。

現役生徒から聞きましたが、コロナ禍で打ち上げが禁止になり、規制緩和後の現在でも、組ごとで数人までなら外食可といった制限が設けられています。こういった制度が組員同士のコミュニケーション不足につながったのだと思います。息抜きと交流の場がない以上、劇団内が殺伐とするのも当然だと思っています」

素人プロデューサー

 OGとして、一連の騒動の責任は運営側にあると語る。

「そもそも私が在籍していた時代から、先輩が長時間労働の改善をプロデューサーや役員に訴えていたのですが、スルーされていました。稽古以外の雑務も、スタッフをきちんと補強すれば解決したはずです」

宝塚音楽学校の公式サイトには練習中の生徒たちの姿が

 環境改善に消極的な一方、交流の場を制限するなど団員をなおざりにし続けていた運営サイド。このような方針を執るのは、劇団の構造自体に問題があるのかもしれない。

「宝塚では、組ごとにプロデューサーが就き、配役や活動方針を決めるのですが、ほとんど“素人”なんです。というのも、この役職は親会社である阪急の社員が派遣されるので舞台のことを理解している人は少ないんです。

 会社員が劇団の方針を決めるシステムですから、団員に寄り添う姿勢は希薄。14日の会見も世間のコンプライアンスにとりあえず合わせたような姿勢でしたし、このままでは宝塚の伝統すら守れないと思います」

 OGの怒りは宝塚運営サイドに届くだろうか─。