11月14日、宝塚歌劇団は宙組に所属していた劇団員の転落死問題に関する調査報告のため、記者会見を行った。
「劇団側は、1か月に118時間以上の時間外労働があったことを認めました。これは政府が定める労災の認定基準である100時間を超えています。その上で、木場健之理事長は“安全配慮義務を十分に果たしていなかったと深く反省している”と語り、その場で辞任を表明しました」(全国紙記者、以下同)
劇団員(宝塚では生徒と呼ぶ)の過重労働はこの件以前から指摘されている。
体調不良でほぼ半分が休演
「今年6月から8月にかけて兵庫県の宝塚大劇場と東京宝塚劇場で上演された『1789―バスティーユの恋人たち―』(以下『1789』)は'15年の初演以来8年ぶりとなる、ファン待望の再演でした。主演を務めた礼真琴さんは製作発表会見で“いつか挑戦してみたいと夢見ていた作品”と話すなど、公演にかける思いはひとしおだったのですが……」
礼を含む複数の劇団員が体調不良を訴え、宝塚大劇場での公演は、ほぼ半分が休演となる異例の事態に。
「それからというもの、ファンの間では劇団員の過労や、それに伴う体調不良が不安視されるようになったんです」
相次ぐ休演に宝塚ファンも困惑しているそうで、
「宝塚には劇団公式のファンクラブである『宝塚友の会』とは別に、生徒個人を応援する、通称『会』と呼ばれる私設のファンクラブがあります。会は生徒に課せられるノルマ分のチケットを劇団から買い取り、それを私設ファンクラブの会員に振り分けています。宝塚はチケットがなかなか取れないことでも有名ですが、会に入ると比較的簡単にチケットが取れる。だから熱心なファンはご贔屓の生徒の会に所属して、前々からチケットを押さえるんです。遠方から劇場に来るファンも大勢いますから、急な休演には戸惑ったことでしょう」(宝塚関係者、以下同)
『1789』を巡る異例の事態は私設のファンクラブに、あるトラブルを招いているという。
「通常、休演になった公演のチケットは払い戻されます。実際に『宝塚友の会』から販売された『1789』の休演分のチケットは、順次払い戻しが行われています。しかし、劇団から会におろされたチケットの払い戻しはまだ見通しすら立っていないようで……。未返金の影響は大きく、運営が逼迫している会も少なくないそうです」
『1789』に出演していた生徒の1人、輝月ゆうまの会もそのひとつ。
「返金を受け付けない」
「先日“劇団からの払い戻しがいまだに行われておらず、運営が苦しい”との旨が、会から伝えられました。そのうえで“次回公演でいい席を手配する代わりに、休演分のチケットの払い戻しを少し待ってもらえないか”との話を持ちかけられました。ほかのファンも同様の連絡を受けているみたいです。私は5年以上、輝月さんの会に所属していますが、こんなことは初めてです。お金にはとてもクリーンな会なので……」(輝月ゆうま会関係者、以下同)
しかし、同会よりもひどい対応を行う『会』もあるという。
「会からチケットを購入する場合、1枚につき500円から“お花代”を上乗せすることができるんです。熱狂的なファンの中には数万円ものお花代を包む方も。うちの会は休演になったチケット代と一緒にお花代も返金してくれます。一方で、お花代の返金は受け付けない会もあるようです。観劇できなかったのにお花代だけ徴収されるのは納得いきませんよね」
休演になったチケット代金の払い戻し滞納について劇団に問い合わせたところ、《弊社から個別の団体様への払い戻しの状況については、お取引に関する事柄のため、回答は控えさせていただきます》との返答があった。
こうした混乱は私設ファンクラブの体制の脆弱性にも原因があるようで、
「会は劇場における出待ちや入り待ちの管理や、チケットの取り次ぎ、お茶会などのイベント運営、グッズの製作・販売など、多岐にわたる業務を担っています。そのすべてを数人のスタッフが無償で執り行っているんです。人手は常に足りていませんし、スタッフは素人で、マネジメントの専門知識は当然ありませんから、今回のような異例の事態が起こると、運営面だけでなく、会の存在自体が成り立たなくなってしまうのもうなずけます」
一連の混乱の発端となっているのが、劇団員の相次ぐ体調不良であることは間違いない。
「コロナ禍前の'18年と比べて、今年はよりタイトなスケジュールで公演が組まれています。それによって過労による体調不良を訴える生徒が増えたのではないでしょうか」
そう分析するのは全国紙文化部で舞台を担当する記者。
“マイナス分を一気に回収したい”
「今年4月、星組は全国ツアーのため5つの都市を回っていました。全国ツアーは物販の売れ行きが良く、高い利益を上げられるそう。ですがその分、移動を伴いますし、会場ごとにリハーサルを行わなければなりませんから、固定の会場で公演を行うよりも生徒に負担がかかってしまいます。それにもかかわらず公演日程はかなりハードで。ツアーの千秋楽が4月11日で、その後の宝塚大劇場での公演『1789』が始まったのが6月2日ですから、次の公演までの猶予は約50日しかありませんでした。対して'18年の星組は、愛知県の中日劇場での公演を終えてから次の宝塚大劇場での初日を迎えるまで2か月以上の期間が設けられていたので、ある程度の時間的余裕はあったのです」(舞台担当記者、以下同)
今年になって公演スケジュールが過密になったのには明確な理由があるという。
「新型コロナウイルスの影響で、宝塚は'20年の上半期、ほぼすべての公演を休演しています。その後も“3密対策”のため、観客数を通常の半分にして公演を再開しましたが、売り上げにおいて大打撃を受けています。コロナが感染症法上の5類に移行され、対策が緩和された今年“今までのマイナス分を一気に回収したい”という思いがあるのでしょう。
さらに、来年は宝塚歌劇団発足から110年という節目の年にあたります。それに向けて勢いを取り戻したいとの焦りもあったのではないでしょうか」
“清く、正しく、美しく”がモットーの宝塚だが、舞台裏はそうはいかないようだ。