コロナ禍以降、買い物も振り込みもオンライン決済が定着した。警戒感が薄れた私たちにつけ込んでくるのが、ネット上で悪事を働く詐欺師たち。医師や教師、ごく普通の主婦までもが数万円から数億円に上る被害に遭っている。今、急増しているのが、来年から始まる「新NISA」の広告詐欺。「まさか自分がだまされているわけがない」そう思わせる巧妙な手口にご用心!
LINEを入り口にした投資詐欺が増加
SNSを利用した詐欺事件では「国際ロマンス詐欺」が記憶に新しい。“外国に住んでいる”という相手とSNSを通じて知り合いになり恋愛感情が生まれた結果、金銭をだまし取られる被害が一時期相次いだ。
「最近増えているのは、この国際ロマンス詐欺の“進化系”ともいえるケース。恋愛状態に持ち込んだあと、“ふたりの将来のために投資をして財産を築こう”と持ちかけるのです。FX(外国為替証拠金取引)に詳しい友人がいて、確実に利益を出してくれるから一緒にやろうなどと、言葉巧みに誘導してきます」そう話すのは村上貴洋弁護士。
ただ自分にお金を貢いでほしい、というわけではなく、共に財産を増やそうといった甘い言葉にだまされるのだ。
会ってもいない異性を信じるなんてありえない、そう思っている人にも、詐欺師は別の手口で心の隙間に入り込んでくる。
それが「LINE」を入り口にした投資詐欺。
「ある日突然、LINE上にグループが追加され、あなたはそこのメンバーになっているんです。のぞくと投資にまつわる情報交換が活発に行われていて、“先生”と呼ばれる投資家もいます。
“利益が出たので車をベンツに買い換えました”“これで老後も安心”といった景気のいいメッセージが飛び交っていて、興味本位に“詳しい情報が欲しい”などと書き込んだら“いいカモ”認定。そこから言葉巧みに振り込みを要求され、最終的には被害に遭うのです」(村上弁護士、以下同)。
最初の振り込みでは着実に利益を出せる仕組みで、これを信じて振り込みを増大させていくが、誘導されているのは実は偽サイト。
喜び勇んで出金しようとしても引き出せず、詐欺だと気づく。引き出せないと訴えると引き出すための保証金が必要などといってさらに振り込みを要求してくる。
「LINEは情報のライフライン。頻繁に利用するものなので、アカウントがどこで、何をきっかけに盗まれているかは突き止めることはできません。ですが見覚えのないグループLINEや、友達追加は警戒するに越したことはありません。アカウントには生年月日や銀行口座などの多くの個人情報がひもづいているリスクを認知して利用すべきです」
50~60代がSNS詐欺に引っかる4つの背景
SNS詐欺にまんまと引っかかってしまうひとつに、有名人たちがすすめていることを装っているサイトがある。『前澤友作の無料投資教室』『前澤友作流を無料で学ぼう』という投資に関する広告を見て、登録したら、本人とは無関係の偽サイトだったとの事例も。
経済アナリストの森永卓郎さんが暗号資産への投資を推奨している『森永卓郎ゼミ』、そして実業家の堀江貴文さんや、経済ジャーナリストの荻原博子さんも、投資詐欺グループに勝手に投資セミナーの主催者に仕立て上げられている。
「広告をクリックするとLINEの友達登録に誘導されてしまいます。“私個人が、1対1でお答えします”なんて、冷静に考えればそんなわけない。でも、思わず信じてしまうほどサイトが非常に巧妙なわけですね。本当に推奨しているのかは、本人のSNSを確認してみること。偽広告の注意喚起が出ていることがあります」
投資詐欺以外でも、有名人の顔出し広告につられSNS詐欺に引っかかったという事例もある。
インスタグラムで10万円以上する高級ブランドバッグが1万5000円で売っている広告を見たAさん。いくらなんでも安すぎると迷ったけれど、有名女優が宣伝していたので思い切って購入したが、届いたのはとんでもない粗悪品。
被害は少額でも、口座情報の抜き取りも考えられる─。有名人が出ているからといって、広告をむやみに信じない、そして極端に安いものには手を出すな、これは鉄則だ。
ボーナスシーズンは詐欺被害件数も増える時期
なぜ、50~60代がSNS詐欺に引っかかってしまうのか。村上弁護士は4つの背景があるという。
「1つは、コロナ禍で、直接会ったことがない人とつながることに抵抗がなくなった。2つ目はネットショッピングや、キャッシュレス決済が増え、お金を使う緊張意識が薄れた。
3つ目は若い人よりもLINEやポータルサイトの知識が浅く、注意がおろそかになる。4つ目は、退職金や親の遺産が手に入り、少しまとまった額を持っている年代であるということです」
世の中は物価高で生活が厳しくなっている。老後は2000万円が必要などといわれたこともあった。
「老後資金を少しでも増やしたいのは当然です。さらに、国は個人の資産運用を推進しており、世の中には、投資で成功した人の話があふれています。投資に対する警戒心やハードルが下がっているんですね。
来年から導入される新NISA(少額投資非課税制度)の広告も非常に多く目にする昨今、それを釣りにして投資詐欺へと誘導する手口も非常に増えています」
老後不安から、うまい話があるなら自分も乗っかりたいと思ってしまう気持ちが働く。しかし、投資詐欺被害で1000万円前後ものお金をだまし取られる被害が中高年層に非常に多い。
「ちょっとへそくりしていた50万円を……と思って、振り込むと右肩上がりに増えるので、気が大きくなって軍資金をどんどん増やしてしまうわけです。詐欺被害に遭っているにもかかわらず“詐欺に遭っていることを信じたくない”“しっかり取り戻したい”といった思いで、またお金を振り込んでしまう人もいます」
詐欺師たちは常に手口をアップデートさせているということを肝に銘じておかなければならない。
「これからのボーナスシーズン、また年末年始を控えてお金の動きが活発になります。詐欺被害件数も増える時期ですから、巧妙な罠に引っかからないように注意を!」
今年、荻原博子さんを広告塔とした偽の詐欺サイトが拡散された。サイトのトップには実際のインタビュー記事が表示され、著者本や出演番組の紹介も。
詐欺広告に使われた! 荻原さんが提言
「私の顔写真を使った偽の投資広告では“利回り30%の投資”などと謳っていますが、そもそも私は“投資は危ない”と言い続けているのですから、すすめることはないのに! 実際の私の著書の紹介を入れ込んだり、講演会の写真なども使っていて手が込んでいる。
本当に悪質です。すぐに掲載差し止めの手続きをしましたが、すべてを止めることは難しいそうです。物価高の中でやりくりしていると、どうしてもお得な話に目が行ってしまいがちだけど、“うまい話”なんてない! だますほうが悪いのに、結局はだまされた側の自己責任となってしまうもの。くれぐれも注意してくださいね」
LINEの最新詐欺に引っかからない! 必須対策4か条
1・LINEの「IDによる友だち追加を許可」をOFFにする
2・トーク欄に知らないグループが作成されていたら即削除
3・万が一振り込む場合、個人口座なら、詐欺であることが濃厚
4・有名人とLINEで連絡をとれることはないと肝に銘じて
取材・文/水口陽子
村上貴洋弁護士 弁護士法人ファ-マ法律事務所 代表弁護士。SNSを利用した投資詐欺事件に精通し、「FX・投資詐欺」など被害金の返金請求業務などに当たる。