城咲仁さん

 パパ活のノウハウを幅広く販売し3億円を荒稼ぎした『頂き女子りりちゃん』や、大久保公園の一角に広がる路上売春のニュースは記憶に新しい。「推しのホストに貢ぐ女性が、3000円で身を売っている話も聞きます」そう話すのは、元カリスマホストの城咲仁。コロナ後に急増したという“質の悪い”ホストとは?

昔と比べ、ホス狂いが低年齢化

 歌舞伎町がある新宿区では、ホストクラブが行っているツケ払い「売掛」が大きな問題となり、先日には新宿区議が区議会に『売掛金禁止条例』の検討申し入れを行った。

 背景には若い女性たちが手持ちのお金がないのにツケ払いでホスト遊びをし、その返済のために路上で身体を売る“立ちんぼ”や“パパ活”に走るケースの急増がある。

法律的にお客さんとしてホストクラブを利用できるのは、18歳を超えてから。中には未成年を入店させる、悪質な店もあるみたいですよ

 そう語るのは1999年から6年間、歌舞伎町の老舗『クラブ愛』に在籍していた、元ホストでタレントの城咲仁さん。5年連続売り上げナンバーワンをキープした、ホスト界の“レジェンド”だ。

「昔からホストに貢ぐ『ホス狂い』の方はいました。でも当時、売掛は口約束だったから、払われずに逃げられたりもして(笑)。今は店側も弁護士をつけて客に借用書を書かせているので、完全に借金です。

 支払い能力がない子にそういうことをさせているから、立ちんぼが増えるようないびつな構造が生まれる。しかも、本人が払えなくなれば親に請求するんですよ」(城咲さん、以下同)

 城咲さんは実際、お金を請求されて困った親から相談を受けたことがあるそう。

昔と比べ、ホス狂いが低年齢化しています。家出中の女の子が多いんですが、地方から来ているので友達がいない。その孤独感をホストに利用されてしまうんです。暇で寂しいときはホストクラブでお金を使えばチヤホヤしてもらえる。そうすると、今度は承認欲求を満たしたくなって、使う金額が大きくなり、ホストに依存していくんです

ホストとして働いたのは1999~2005年までの6年間。「今はホストのトーク力が落ちたからシャンパンコールに走る。昔はなかったですね」

2005年から石原都知事の『歌舞伎町浄化作戦』の一環で、深夜営業ができなくなったことが、歌舞伎町を大きく変えたと僕は考えています

ホストが“推し活”化

 その前は、クラブで飲んだ男性客がママやホステスを連れてきたり、裕福な女社長が遊びに来るのがホストクラブという場だった。

年齢層も高めですし、接客に対する目も厳しい。だからホストのスキルが磨かれました。でも深夜営業ができなくなり、そういったお客さんが来店しなくなったんです。それで、朝から昼までの『日の出営業』が始まりました

 その時間に来られるのは、若い世代。ホストも同世代がもてはやされるようになる。

経験が少ない分、接客のスキルは高くないからアフターや店外でのデートがメインに。その結果、ホストが“推し活”化したんです。今はホスト側に主導権がある。ホストが女の子の使える金額を管理しているんです。でも、それっておかしくないですか?

 その反面、きちんとした接客ができるホストは稼げない状況になっている。

今は“推し”を1位にするために高額を投じる時代になっています。グラスをピラミッド状に積んでシャンパンを上から注ぐ『シャンパンタワー』や、注文が入ったときの掛け声『シャンパンコール』で売り上げを稼ぐから、支払い金額がおかしくなった。

 ホストは女の子に『今日、いくら使える?』と聞いて、その金額をすべて使い切るようオーダーするんです」

 例えば客のその日の予算が50万円なら、飲み代が5万円で残り45万円はシャンパンコール代に。

お客さんもホストたちもお酒を大量に飲みたいわけではないから、大金を払ってもほとんどのアルコールは廃棄されることも。推しのためとはいえ、自分主導でお金を使えない女の子には不満が残り、もめやすいと聞いています

現役時代の城咲さん(2004年)。月間300万円を売り上げたら御の字という時代、年収1億円超えを果たした

 歌舞伎町の路上でホストが女性に刺される殺人未遂事件の報道は記憶に新しい。とはいえ、ほとんどの女性はホスト遊びが疑似恋愛である自覚はある。それなのになぜホス狂いに走るのか。

自分の存在意義を見いだすのが難しいからかも。誰かに認められて心を満たしたいとき、お金さえ払えばホストは褒めて、彼女たちの自己肯定感を上げてくれますから

『売春は犯罪』と子どもに教えないと」

 城咲さんは今もボランティアで歌舞伎町にいる若者の相談にのっているが、ホストの餌食になりやすいのは、意外にもまじめで地味なタイプが多いという。

多いのは家庭に居場所がなくて、SNSを見て本当に“トー横”に行ってしまうケース。そこで大久保公園での立ちんぼの仕方を教えてもらって軽い気持ちで売春を始めちゃうんです

 10代の子どもがホストクラブにハマるような状況にならないよう、親ができることはないのだろうか。

ホス狂いになる女の子たちは、やっぱり愛情に飢えていますから、家族で向き合って話してほしい。多少ぶつかっても、自分を大事にすることを教えないといけないと思います。今は簡単に知らない人とSNSでつながれますから

 教育の中でも悪いことを伝えていくべきだと語る。

パパ活なんて軽いトーンの流行り言葉で濁さず、きちんと『売春は犯罪』と子どもに教えないと。親に向けても勉強会を行って、意識改革をしたほうがいいと思うんです

 “大人の見て見ぬふり”が、新たなる負の連鎖を生むと警鐘を鳴らす。

「僕らが若いときは悪いことをすると、叱ってくれる人がいました。今は学校の先生も、責任を持ちたくないから説教もしない。支えになる人がいないから今はその日の宿代が稼げればいいと、汚いおじさんに3000円で売春してしまう。

 これはもう自傷行為に近い。様子がおかしい子がいたら、おせっかいでも、もっと周りが声をかけるべきなんじゃないかな

写真提供/城咲仁さん

「歌舞伎町に子どもたちが集まるのは、同じ環境の子と出会えるから。家庭環境が悪くて自殺願望を持っている子、実際にリストカットをしている子……トー横に行けば自分と同じような子に会える。

 ホストクラブは最初は楽しくても、お金をかけないと相手にしてもらえないのでだんだん苦しくなっていく。立ちんぼでお金を稼いで、行く場所がないから通い続ける、抜け出せない負のループに陥ります

危険をなくすには健全化しかない

 行き場のない家出中の10代に「借金は大変なことじゃないよ」と甘い言葉をささやき、食いものにするのが今のホストクラブだ。

「若いころは刺激を求めてしまうし、あり余るパワーをどこに向けていいのかわからない。だからホストクラブに引き寄せられてしまう気持ちはわかります。

 そういう危険をなくすには健全化しかない。これは僕の持論ですが、キャバクラでもホストクラブでも“夜職”と呼ばれる職業の人に、専用IDを与えては。その代わり、きちっと売り上げから納税をしていくべきだと思っています

 あらかじめID登録を行うことで、高額の支払いを防ぐ抑制効果も期待できるという。

法的な対応が入らないと、根本的には解決できないと考えています。店に入れないようになったら、身体を売る必要もなくなりますから

 10代の子が身体を売るのは、売掛の金額を見て『もう普通では返せない』と落胆してしまうせいもあるという。

元ホストの僕に『どの口が言う』とおっしゃる方もいると思いますが、あえて言わせてもらえば、ホストのモラルは下がったよ。ホスト時代からの僕の信念は、嘘をついたり義理を欠いたりは絶対にしないこと。夜職であっても最低限のルールを守るべきです

材・文/池守りぜね

城咲仁 1977年9月23日生まれ、東京都出身。歌舞伎町「クラブ愛」のナンバーワンホストとして活躍。ホスト引退後は、タレントとしてバラエティー番組などに出演。現在は実家の中華料理店「丸鶴」の『丸鶴冷凍しっとりチャーシュー炒飯』をプロデュースするなど実業家としても活動している。’24年9月には、「町中華フェス」の開催を予定している。丸鶴魂 https://maruturusoul.base.shop/