NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の第42話が28日放送され、歌手・淡谷のり子をモデルとした茨田りつ子(菊地凛子)に注目が集まった。
以下、ネタバレを含みます。
「淡谷のり子」がトレンド入り
今週の『ブギウギ』では、菊地凛子演じる茨田りつ子が連行された警察署の取り調べ室で警察官に対して啖呵を切ったり、ハイヒールや派手な化粧を批判する婦人会の女性と一触即発になったりと、“ブルースの女王”らしいところを見せつけた。
茨田りつ子のモデルは、歌手の淡谷のり子。『別れのブルース』などのヒット曲で知られ、晩年はものまね番組の審査員としても存在感を発揮した。
今月1日の放送で初めて茨田りつ子の歌声が流れたときは、迫力のある歌声に、SNSですぐさま「淡谷のり子」がトレンド入り。
《菊地凛子は淡谷のり子の役だよね。さすが菊地凛子、貫禄ある》
《日中戦争のころから活躍してたなんて、淡谷のり子すごいな》
など、モデルの淡谷のり子の話が多く投稿された。
『ブギウギ』の登場人物で実在するモデルといえば、主人公スズ子(趣里)のモデルである笠置シヅ子。ドラマのタイトルにも使われている『東京ブギウギ』が代表曲の往年の歌手だ。そして、その『東京ブギウギ』を作曲した服部良一は、草なぎ剛が演じている。
そのほかにも、蒼井優が演じた大和礼子には飛鳥明子というモデルが、伊原六花が演じている秋山美月には秋月恵美子というモデルがいる。ところが……
「『ブギウギ』の登場人物のなかで、NHKが実在のモデルがいることを認めているのは、趣里さんの笠置シヅ子、草なぎさんの服部良一、菊地さんの淡谷のり子の3人だけ。それ以外は一切認めていません」(テレビ誌ライター、以下同)
たしかに、番組の公式ガイドブックにも、その3人には「○○○○がモデル」とあるのに対し、3人以外には表記されていない。それらの登場人物は実在の人物と設定が似ていないということだろうか?
「いえ、そんなことはありません。例えば、蒼井優さんが演じた大和礼子とモデルの飛鳥明子には、歌劇団の初期のスターという点にはじまり、当時まだ珍しいバレエが得意だったこと、『桃色争議』というストライキで責任をとって歌劇団を引退したこと、その後、座付きミュージシャンと結婚したこと、子どもを出産してすぐに病死することなど、共通点が多くありました」
明らかに飛鳥明子がモデルといってもいいのに、そうは認めていないのだ。そればかりか、主人公スズ子が大阪にいたときに所属していた「梅丸少女歌劇団(通称USK)」のモデルが、実在する「大阪松竹歌劇団(通称OSK)」であることさえ、認めていないという。
謎のNHKルールのワケとは
NHKはなぜそれほど頑なな態度をとるのだろうか。実在のモデルがいることを3人だけしか認めない理由をNHKに問い合わせたところ、「制作過程に関することはお答えしておりません」との回答だった。
前出のテレビ誌ライターは、「じつは、あることがきっかけで、NHKは実在モデルのことをあんまり言いたがらないようになったんです」という。
朝ドラには、『ゲゲゲの女房』(2010年)や『カーネーション』(2011年)、最近だと『らんまん』(2023年)など、実在する人物をモデルにした作品が数多くある。
当然、誰がモデルなのかは制作発表時に紹介するのだが、あるときを境に表現が変わったのだという。
「それまでは単に、『ゲゲゲの女房』なら漫画家・水木しげるの妻がモデル、『カーネーション』なら国際的デザイナーであるコシノ三姉妹の母がモデルと紹介していたのですが、ある作品以降、『○○○○をモデルとしますが、登場する人物や団体などを改名し、フィクションとして描きます』と説明したり、モデルという言葉をあえて使わずに『○○○○をモチーフにしたオリジナル作品です』といった具合に、ぼかすようになったのです」
いったい何があったのか。
「モデルが存在するある朝ドラ作品を制作した際のことです。諸事情あってモデルの遺族に収録前の台本を見せることになりました。すると、ここは事実関係がおかしい、とか、こういう言い方はしないはず、などいろいろと口を出してきて、台本の修正が大変だったようなのです」
この人がモデルです、と公表すれば、視聴者は当然、実際の人物とドラマで描かれる人物を重ね合わせて見るだろう。遺族からすれば、正確性や名誉のために事実と違うところは口を出したくなるのもわかる。
ただし、ドラマはときに正確さよりもおもしろさを優先しないといけない場合もある。制作陣からすれば、自由度を奪われたくはないだろう。
「そういう事情があったため、NHKは実在するモデルに関しては慎重なのです。今回の『ブギウギ』は3人についてはっきりとモデルと認めているので、むしろ多いほうと言えるかもしれません」
また、慎重になるのは遺族のことだけが理由ではないという。
「『まんぷく』のときの日清食品や『マッサン』のときのサントリーやニッカなど、現存する民間企業をモデルにすることもあります。“みなさまのNHK”が特定の企業をPRすることは許されないので、そういう意味でモデルのことをぼかしたい場合もあります」
その点、同じNHKでも大河ドラマは時代設定上、関連企業やモデルの人物の近しい遺族がいないため、神経質にはならないのだという。“NHKルール”にはいろいろと事情があるようだ。