「冬は、ほかの季節に比べて死亡率が高い。しかも、北国より、関東や九州などの比較的暖かい地域のほうが高いんです。その原因となるのは『室温の低さ』です」
そう教えてくれたのは、医師の川嶋朗先生。
「室温が18℃を下回ると血圧が上昇して血管系に障害が起こりやすくなります。また、16℃を下回ると呼吸器系の疾患に陥りやすいんです」(川嶋先生、以下同)
冬の室内温度は最低でも18℃以上に
WHO(世界保健機関)も、冬の最低室内温度として、18℃以上を強く推奨している。特に高齢者や小児などに対しては、もっと高い室温が望ましいとされる。
「例えば、冬の死亡増加率が低い北海道は断熱住宅普及率が6割を超えているといわれ、平均室温も20℃近い。しかし、冬の死亡増加率ワースト1位の栃木県の平均室温は、約15℃しかありません」
国土交通省の調査によると、木造建築が多い日本家屋の場合、居間の平均気温は16.7℃、脱衣所の平均気温は12.9℃だった。
「人間には夏の暑いときは身体から熱を放出し、寒い冬は身体から熱を逃がさないよう、熱をつくり出す体温調整機能が備わっていますが、加齢とともにこの調整機能は鈍くなり、温度を感じる身体のセンサーも働きにくくなっていきます。なかなか実感できませんが、私たちが思う以上に、特に中高年には寒さのダメージが大きいんです。
加えて、寒いと身体が冷えて血流が低下し、動くのがおっくうになるもの。運動量が減り、基礎代謝が下がれば血管のエイジングが進み、死亡リスクも上がってしまいます」
命を守る22℃の室温設定
暖かい居間から、廊下などの冷たい空気や床などに触れると、身体は熱の発散を防ぐため、血管がぎゅっと収縮する。血管が収縮すれば血圧は上がり、血管に負担がかかってしまう。すると、血圧が乱高下したり、脈拍が変動する「ヒートショック」という現象が起きる。
「私たちの血管は加齢とともに弾力を失い硬くなっていきます。高齢になるほど血管の収縮によるダメージを受けやすいため、65歳以上はヒートショックを起こしやすい。暖かい居間と寒いトイレを行き来するだけで、血管の収縮が起こります。
それが繰り返されれば、血管はさらに弾力がなくなって硬くなる。その状態で脳や心臓の血管に負担がかかれば、命に関わる疾患が起きる可能性が上がります」
例えば脳の血管なら、血管が詰まる「脳梗塞」や、動脈瘤というこぶが破裂する「くも膜下出血」などが。心臓でも同様に、心臓の血管が詰まる「心筋梗塞」などの重篤な疾患を起こす引き金になる。
「家の中のヒートショック要注意スポットは、浴室とトイレです。実は浴室内での不慮の溺水事故の死亡者数は、交通事故の死亡者数より多い。
風呂にはだいたい1人で入るので、どうしても発見が遅れがちです。寒いトイレでもいきんだ瞬間に血圧が上がってしまう。朝は特に気をつけて」
冬の時季の室温は、何℃が理想的なのか。
「1年の中で日本人の死亡率が最も低いのは6月で、その6月の東京の平均気温は約22℃です。この気温は、命を守るための理想的な温度ではないかと考えられます」
そのため、断熱性能を高めて室温を上げるには、熱が逃げやすい窓などのリフォームを行うのが効果的。経済産業省と環境省が行う「先進的窓リノベ事業」や、自治体による補助制度などを利用して、工事費用の助成を受けるのもおすすめだ。
「リフォームしたところ、血圧が3.5mmHg下がったという統計もあります。厚生労働省は、年間の脳卒中死亡数が年間約1万人、冠動脈疾患死亡数が約5千人減少すると推計しています」
0円温活で病気のリスクが軽減
とはいえ、すぐにリフォームするのは金銭的に難しいという人もいる。そこで、お金をかけずに冬のヒートショックを予防する生活習慣を川嶋先生に教えてもらった。
「節電を意識するあまり“寒い”と感じても我慢したりするのは絶対にダメ。寒さに対する準備を怠らないことが、自分の命を守ることになります。
寒いと感じたら、家の中でも上着を着ること。下着を重ね着してもいいですが、暖かい部屋に入ると汗をかいて、逆に身体を冷やしてしまうことがあるので上着で調節をすれば、寒さによる血管の収縮を防げます」
廊下やトイレが寒い家では、スリッパを履くようにして「ヒヤッ」と感じることを防ごう。
「ウォーキングなどの運動習慣もおすすめです。身体を動かせば筋肉が熱をつくり出すので、筋肉の中を通る血液も温められて、血管の詰まりが改善されます。目安となる歩数は1日7000歩。ただし、このうち20分間は、通常の1.5倍の速さで歩く“早歩き”をするといいですよ」
日中、座っている時間が長い人は、30分に1回など、定期的に立ち上がるようにするだけでも血流の改善になる。
「入浴はシャワーではなく、浴槽に10分間はつかりましょう。お湯の温度はぬるめの38~39℃を目安に。副交感神経が優位になって心身がリラックスし、血管も広がるので、身体が温まります」
ほかにも取り入れてもらいたいのが、川嶋先生も実践し、左で紹介する「0円温活習慣」だ。
「白湯を飲んだり、湯たんぽを活用することで、寒さで身体に負担をかけないことが大切です。隙間時間には温め呼吸法で血流をよくし、元気に冬を乗り切りましょう!」
ヒートショック対策は万全に“冬はココに注意”!血管を守る習慣
●家の中の温度差
暖かい部屋から廊下やトイレなどの気温差がある場所に行くときは、そのままの服装で部屋から出ないこと。上着を1枚着用し、足元から冷えてしまうためスリッパを履いて、血管の収縮を防ぐようにする。
●風呂に入るとき
風呂場はヒートショックを起こしやすい。寒い脱衣所で服を脱ぎ、温かいお湯につかったときや、暖房が脱衣所にしかなく、浴室との室温差で発症することも。入浴時には事前に、風呂場全体を寒くない状態にしておこう。
冬の病気を防ぐ0円温活習慣3
(1)白湯を飲む
朝起きたら冷たい水ではなく、白湯をコップ1杯ほど飲むようにする。温かい水分が送り込まれるので腸が活発に働き始める。身体が温まり血管の弾力性が向上する。白湯の温度は人肌程度でも、もっと熱い60℃ぐらいでもよい。自分が心地よいと感じる温度で飲むようにする。
(2)太ももを温める
大きな筋肉がある太ももには、多くの血管が通っている。太ももを温めれば血流がスムーズになって、血管に老廃物がたまりにくくなる。血流によって全身に熱が運ばれて身体を温められる。小型の湯たんぽや、お湯を入れた耐熱用のペットボトルなどを太ももに乗せる方法なら手軽に行える。
(3)深めの「温め呼吸」で全身ポカポカに
呼吸は自律神経と関わりが深く、ゆっくりと深呼吸をすることで副交感神経が優位になって身体がリラックスする。副交感神経が優位になると血管が広がり、血流も促進される。身体が温まるだけでなく、血圧を下げる効果も期待でき、脳卒中や心臓病などを防ぐことにつながる。
(取材・文/松澤ゆかり)