火葬後、引き取り手がなく市区町村が保管している無縁遺骨や、引き継ぐ人がおらず無縁墓となってしまったお墓……、超高齢社会に伴い遺骨やお墓に関する問題が噴出している。
割安で管理もラク、墓石ナシのお墓
10月には、「2022年度に国と自治体が葬祭費を公費で負担したケース」が、過去最多で5万件以上、その負担費用は約110億円を超えたと報道された。
遺骨の処分をどうするか。国や自治体の世話にならないためにも、生前から準備をしておくことが大切になるわけだが、近年、先祖代々の墓を“墓じまい”し、遺骨を納骨堂に移す、地方にあるお墓を子が住む都心に移すなどの改葬をする人が増えている。
「お墓は親から子へ受け継がれるのが当たり前という常識が崩れ始めています。核家族化が進み都市部へ人口が集中し、地方の墓参りや管理が難しかったり、子どもにお墓を継承する気がないなどの理由があり、特に地方に“墓じまい”が多い傾向があります」
と話すのは、葬式、お墓、終活に詳しい葬送コンサルタントの吉川美津子さんだ。
具体的な墓じまいとはどうやるのか。
「親族の同意を得た後、寺院や霊園に墓じまいの意向を伝えます。遺骨を別の場所に納骨するには市区町村の許可が必要なため申請し、遺骨を取り出しお墓の解体をするのが大まかな流れです。
取り出した遺骨は、従来型の墓石のお墓を建てる人もいますが、それ以外の選択肢を選ぶ人が増えています」
墓じまいには費用がかかることもあり、移動先のお墓にはあまり予算をかけられないという声も多い。
「そのため増えているのが、主に屋内の専用スペースに遺骨を安置する納骨堂や、樹木葬です。地域や墓地にもよりますが、墓石を建てるよりは比較的割安だからです。近年、特に注目なのは“樹木葬”。墓石の代わりに樹木を墓標に見立てたお墓です」(吉川さん、以下同)
お墓や終活に関するサイトを運営する「鎌倉新書」が行った調査によると、樹木葬が一番人気だった。
「また、コロナ禍を機に、ネット空間にお墓をつくるなど“お墓のデジタル化”というサービスも出てきましたが、実際の遺骨を納骨する場所の問題は残ったままです」
圧倒的人気な樹木葬の骨の行き先
前述のとおり、近年購入者が増加している樹木葬。“自然に返る”というイメージから人気を集めているが、どのように納骨されるのか。
「樹木葬という響きと一番イメージが近い納骨の方法は、骨壺から出した遺骨を布で包んで、購入した区画内の土の中に遺骨を直接埋める方法。個別、家族ごとに樹木がある場合もあれば、一つの大きな樹木の周りに区画があり、そこに埋める場合も。
一度納骨したらそのまま恒久的に埋蔵するタイプもあれば、土の中につくった納骨室に骨壺を納め十数年間埋蔵したあとに取り出して、別の場所に合葬するタイプも多いです。つまり、永遠に樹木のそばで眠るというわけではないケースも」
人気を後押ししている理由は、継ぐ人がいなくても購入できるというプランで売り出している霊園が多いからだ。
「後継者がいなくとも埋蔵できる仕組みを永代管理または永代供養といい、寺院や管理者が続く限り、遺骨を管理してくれるシステムです」
数十年は個別の区画だが、その後合葬することで永代供養となり、跡継ぎがいなくとも管理者が供養してくれるケースが多いという。
「また、土地が限られているので木を植えるのではなく、花壇の下に納骨するものも。管理費が高ければきれいなお花でいっぱいの施設もありますが、実際に訪れると“イメージと違う”となりやすいのが、樹木葬の落とし穴です」
ひと口に樹木葬といっても、里山の中にある、一角に芝生を敷いただけ……というものも。想像と違うことも多いという樹木葬。骨は土の中に埋めるのか、数年で合葬されるのかなど、足を運んで納得したうえで購入するのが大切だ。
デジタルといえど、納骨先は変わらない
土地の制約や管理、跡継ぎなど、お墓にまつわる問題を解決してくれる一手として注目を集めているのが“デジタル霊園”や“デジタル墓”と呼ばれる新たなお墓のかたち。コロナ禍を機に、お墓やお葬式、法要などのデジタル化が導入され始めたのだ。
「ネット上にお墓をつくることで土地代や墓石代、管理代が浮き、例えば海外に住んでいてもネット空間にお墓があればいつでもお参りができるといったものです。
ですが、ネット空間に遺骨を置くことはできませんし、法律で納骨をできる場所というのは許可を受けた墓地や霊園と決まっている。お墓自体はネット空間にあったとしても、骨は納骨堂に納めるなど従来の選択をとることになります」
納骨堂に遺骨を納め、墓石を建てない代わりにネット空間につくる……。つまり、納骨堂や樹木葬のオプションとして、デジタル霊園があると考えたほうがいいという。
「デジタル化という点でいうと、墓石に二次元コードをつけて追悼サイトを見るといったサービスもあります。スマホで読み取ると、故人の写真や年表、肉声などが保存された追悼サイトが出てくるのです。
ほかにも、ネットにある故人を偲ぶサイトを見られる二次元コードと写真立てを組み合わせた、仏壇よりもコンパクトな自宅に置けるタイプのデジタル墓もあります」
また、コロナ禍を機にお盆の法要や年忌法要をデジタルで行うお寺なども出てきたが、デジタル霊園よりも、デジタル法要のほうが需要はあるのではと吉川さんは言う。
「先祖代々のお墓に集まろうにも仕事が忙しく地方に行けない、身体を悪くしてお寺まで行くのが難しい……という問題を解決してくれるだけでなく、情報配信ツールとして積極的に活用する寺院も多いと思います」
今後、ますます高齢化に拍車がかかり、それに伴い遺骨も増えていく。管理や維持を簡素化するためにも、従来にはない“新たな遺骨の行き先”も必要なのかもしれない。