あのちゃんこと、あの(歌手としての名義は、ano)が『NHK紅白歌合戦』に出場する。ヒット曲不足の今年『ちゅ、多様性。』がそこそこバズり、バラエティーやCMでも活躍中。旬の人気者をかき集めたいNHKが彼女を呼ぶのは、ある程度想定されていたことだ。
「不思議ちゃん」
初出場コメントでは、司会の有吉弘行に言及。
「最近やたら夢に出てきて、夢の中ではゾンビにボクと有吉さんは食べられていて。なので、生存して紅白でお会いできるのを楽しみにしています」
と語った。こういう「不思議ちゃん」っぽいところをNHKは期待しているわけで、まずは上出来のコメントといえる。
ただ、女性が選ぶ『正直、出なくてもいいと思う歌手』アンケート(SmartFLASH)では紅組の1位になってしまった。「話し方やキャラが、生理的に受けつけない」「歌を歌っているとは思わなかった」といった理由が挙がっていて、彼女の人気や認知度はまだまだ局地的だ。
それゆえ、使い方が難しい。そのあたりをうまくやったのが『au』のCMで「あまのじゃ子」というキャラクターを与え「生きてるだけで偉くないですか?」「“若い”でまとめないでください」といった、いかにもな台詞を言わせていた。
とはいえ、生放送ではそこがさらに難しくなる。彼女を一躍有名にしたのは、一昨年の10月『水曜日のダウンタウン』と『ラヴィット!』(ともにTBS系)がコラボしたドッキリ企画だが、これはバラエティーの達人たちがギリギリを攻めた結果だった。
求められる「異物感」
『水ダウ』で提唱された「『ラヴィット!』の女性ゲストを大喜利芸人軍団が遠隔操作すれば、レギュラーメンバーより笑い取れる説」を実証すべく、遠隔操作されたあのが生放送でとんでもないボケ回答を連発。『ラヴィット!』の出演者も現場スタッフもそのからくりを知らされていなかったため、番組も視聴者も混乱をきたし、そこから予定調和ではない笑いが生まれた。彼女でなければここまで成功しなかっただろうし『水ダウ』はある意味、彼女を「クロちゃん」枠として活用したともいえる。
もちろん『紅白』がそこまでの冒険をするはずはないが、かといって、彼女が借りてきた猫みたいになってしまっては意味がない。お茶の間をほどよくザワつかせるような「異物感」が求められ、それに成功すればステップアップができる。
『紅白』にはそんな「値踏み」の場としての機能もあり、例えば1978年『ニューミュージックコーナー』というものが設けられた。トレンドとなった新ジャンルから初出場した6組が続けて歌ったあと、ステージ上に整列、審査員たちに講評されたのだ。
今年は彼女や新しい学校のリーダーズ、すとぷりなどが値踏みされることに。初めて彼女の歌やキャラに接する人たちに、ほどよく面白がられることができれば、来年以降も安泰だろう。
と、期待してしまうのは、彼女が久々に現れた不思議ちゃん界の逸材だからである。しゃべり方だけでなく、顔やスタイル、言語感覚やファッションセンス、メンヘラ気質とは裏腹の身体能力など、これほどの個性をいろいろ持っている人は珍しい。
思えば『紅白』は昭和の不思議ちゃん・黒柳徹子が司会や審査員を務め、平成の不思議ちゃん・千秋も歌った番組だ。はたして、彼女はここでらしさを見せつけて「令和の不思議ちゃん」としての地位を確立できるだろうか。
宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。