瀧澤彩夏 撮影/吉岡竜紀

 即興でラップの技術をぶつけ合う“ラップバトル”の世界。若い世代を中心に人気を博すシーンで、注目を浴びる新星が24歳の瀧澤彩夏だ。

『戦極MC BATTLE』『Dis4U』に出場し、SNSで大きな反響を得ている彼女は、驚くべきことにアイドルグループ『SharLie』(シャーリー)のメンバーでもある。異色の肩書にはどのような背景があるのだろうか。

 芸能界入りからラップバトルへの挑戦まで、瀧澤に話を聞いた。

安室奈美恵への憧れ

「母親がバレエダンサーをやっていた影響で、小さい頃から家でよく踊っていて、5歳のときにはダンススクールに通い始めました。芸能の世界に足を踏み入れたのは、小学校5年生の時。前の事務所が開催していたオーディションに受かってからです。当時、私は何のオーディションを受けているのかよく理解していなかったのですが、“安室ちゃんがいる事務所”と母親に言われて、“受かったら会えるかも”みたいな気持ちでしたね

 オーディションに受かってからは、研修生としてレッスンを受け続ける日々に。

「中学2年生のころに初めてユニットとしてデビューが決まり、本格的な活動が始まりました。ただ、高校を卒業したあたりで、これからの芸能活動に迷っていたこともあって、事務所を退所したんです。いったん外に出て、ただやりたいことをやってみようと」

 事務所を去った後、瀧澤は『どーなつムラ』という2人組のグループを結成した。

「デビュー当時のユニットは5人組だったんですけど、最後に残ったのがわたし含めて2人だけで。その子があるとき大きなけがをしちゃって、入院したことがあったんです。そのとき病室で聴いていたのがラップで、色々なラッパーを紹介してもらっているうちに“2人でラップやろうよ”という話になり、事務所を辞めて2人だけで楽曲制作を始めました

ステージに戻りたい

 ラップへの知識を深め、スキルを磨いていく中で、再び壁にぶち当たることになる。

「2年間くらい女の子と2人でラップをやりましたが、せっかく曲を作っても世の中への発信の仕方が分からなかった。ライブをしたくても、ステージに立ちたくても叶えられないなと痛感しました。事務所に所属していたときは、大人たちがステージや曲を用意するのは全部当たり前の世界だったので。

 やりたい音楽は作れているのに誰かに届いている実感がなく、モヤモヤがどんどん募っていき、ステージに戻りたいという気持ちを相方に伝えました。そんなときにたまたま知ったのが、シャーリーのオーディションだったんです

 2021年に、配信サービス『U-NEXT』の番組『SHARE & LIVE』で、応募者2000人以上の中からオーディションを勝ち抜いたメンバーで結成されたシャーリー。瀧澤もオーディションに合格し、グループの一員となった。

 ステージに立つという目標を叶えてから2年。心境の変化はあったのだろうか。

瀧澤彩夏 撮影/吉岡竜紀

「ステージに立って何かを表現することがすごく嬉しくて、水を得た魚とはまさにこのことだなと。ただやっぱり、過去に散々経験してきたはずなんですけど、事務所やグループって、思い通りに行かないことや自分を制御しなきゃいけない、誰かのために自分を犠牲にしなきゃいけない瞬間もあって。 

 目標が叶った今、自分が本当に表現したいことや伝えたいことを、与えられたものだけじゃなくて、自ら生み出して伝えていけるようになりたい。 2年間の後半は、そんなことをひそひそと1人で思っていました」

 そんな時に出会ったのがラップバトルだった。「最初は無理だろうって思ってました」と瀧澤は語るが、なぜ挑戦することになったのだろうか。

「前々からラップバトルはYouTubeでよく見ていて、言いたいことを即興で音楽にのせる姿に憧れの気持ちはありました。考え始めたら永遠に堂々巡りをしてしまうタイプなので、憧れを勢いで行動に移してしまおう、と。それから事務所に内緒で『Dis4U』の予選に応募したんです。

 いつもの決められた歌詞じゃない、自分から出る言葉だけで人前で歌うのは気が狂うぐらい緊張しました。そもそも勢いで応募してからエンジンがフルでかかっていたので、一息もつかず走り抜けて、気付いたら終わっていた、みたいな状態で。ただ、自分の言葉でお客さんが湧いてくれたって感じる瞬間が、もうすごく気持ちよくて、私のやりたいことはラップでなら実現できる、と答えが見えた気がしました

  瀧澤のラップバトルはYouTubeなどで公開されており、その歌唱力やスタイルが“はじめてとは思えない”などと、絶賛されている。早くも次のバトルへの期待や、楽曲のリリースを期待する声も高まっているが、

「そう言ってもらえると、期待以上のバトルを見せたいという気持ちも出てきていて。ただ、わたしの原点にあるのは“表現者でありたい”という願望なんです。だから、MCバトル一本で生きていくと決めつけてはいませんし、音源に昇華して伝えてみたり、それをライブという形で届けてみたり。ラップを使っていろんな表現の仕方を試していきたいですね」

“うるせぇな”

  11月30日には、待望のシングル楽曲『introduction』をリリース。

11月30日リリースの瀧澤彩夏の初シングル楽曲『introduction』

「今の瀧澤彩夏のイメージは、早口とか聞き心地のいいラップだと思っていて、その特徴を詰め込んだ楽曲に仕上がっています。それだけじゃなくて、“私にはもっといっぱいいいところがあるよ”って見せたい気持ちもあって、フックのキャッチさやワードチョイスなどにもこだわっています。自分でいうのもなんですけど、めちゃくちゃかっこいい曲です(笑)

 ラッパーとして順調な歩みを辿る瀧澤は、シャーリーでのアイドル活動も継続しているが、どちらかの道に絞るつもりはないと高らかに宣言する。

ラップを始めてから、“どっちかに絞りなよ”って結構言われます。そういう意見はもちろん大事でありがたいんですけど、“うるせぇな”って思っていて。表現者であることが幸せな私としては、ラップもアイドルも、他のお仕事も全て表現の一部でしかないという感覚です。そもそも別のことをしているという認識はあまりなく、どっちも本気でやりたいんで、やらせてもらいます