世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。 
岩井勇気(本人SNSより)

第33回 ハライチ・岩井勇気

 芸能人でも一般人でも、結婚はおめでたい・・・ハズなのに、なーんか変な感じになってしまったのが、お笑いコンビ・ハライチ岩井勇気と女優・奥森皐月の結婚なのでした。その理由は年の差でしょう。岩井は37歳、奥森は19歳です。芸能界では年の差婚は珍しくありませんが、10代での結婚はあまり聞いたことがない。二人が出会ったのはテレビ番組『おはスタ』(テレビ東京)ですが、岩井と知り合った奥森が当時13歳であったこと、二人の交際をキャッチした「週刊文春」が、所属事務所に質問状を送った5時間後に二人の結婚が発表されたことから、あまりに早い展開に「奥森が13歳の時から交際していて、いろいろと隠したいヤバごとがあるから、結婚という形をとって有耶無耶にしたのではないか」とネット民は想像力をたくましくしたようでした。

なぜおめでたい話にケチがついてしまったか

 岩井は『ハライチのターン』(TBSラジオ)で、結婚の経緯を説明しました。奥森からの好意は感じていたものの、未成年ということもあって距離を取っていた、彼女が成人してから交際を始め、奥森のご両親にも挨拶をして関係は良好だったことを明かしています。結婚の話を切り出したのは奥森からだそうですが、現在の法律では女性は18歳から結婚できますから、19歳の奥森が結婚してヤバイことは何もない。いくら結婚は両性の合意のみで成立すると憲法がうたっていても、若いこともあって親御さんが何か言いそうなものですが、そのご両親も賛成しているわけですから、二人のことを全く知らない人たちが騒ぐのはおかしなことです。『週刊文春』によると、奥森は0歳からベビーモデルをしていたそうで、年齢は若いですが、社会経験はある意味豊富です。ダメだったら離婚すればいいだけのことですから、誰にも文句を言われる筋合いはないのです。

アイクぬわら(本人インスタグラムより)

 それでは、なぜおめでたい話にケチがついてしまったかというと、性加害に関するニュースが続いていて、タイミングが悪かったと言えるのではないでしょうか。『おはスタ』と言えば、岩井と同じ事務所のアイクぬわらが未成年の「おはガール」を自宅に連れ込んだことが問題となったことが記憶に新しいところ。そのため、岩井も同じことをしていたと決めつけてしまった人もいるでしょう。

 さらにジャニー喜多川氏の性加害が明らかになるにつれ、グルーミングという言葉が認知されました。これは、性加害者が被害者を手懐けて、性加害を行いやすくすることを指すそうですが、年齢差があることから、オトナ(岩井)がコドモ(奥森)を丸めこんで、ヤバイことをしていたのではないかとみなされてしまったようです。二人の年の差婚をどう受け止めるかは人それぞれで、(悪い方向に)見る目が変わってしまったという人も中にはいるかもしれません。それは個人の自由ですが、いくら言論の自由があるからといって、証拠もなしに人を性犯罪者扱いするのはいかがのものか。「奥森が心配」というテイでグルーミングだ!と騒いでいた人は反省したほうがいいと思います。

『おはスタ』で共演していた当時は、結婚するとは夢にも思わなかったか(岩井勇気本人のXより)

 せっかくの結婚に思わぬ形でケチがついてしまいましたが、大衆心理というのは良くも悪くも移り気なものなので、落ち込むことはありません。本人は不本意かもしれませんが、奥森はこの結婚で知名度を上げたわけで、そうすると仕事のオファーも増えることが考えられます。19歳の結婚というと宇多田ヒカルも15歳年上の映画監督・紀里谷和明と結婚しましたが(後に離婚)、バッシングはされませんでした。なぜかというと、宇多田が歌手としてのキャリアが十分あったために、「年上のオトコに囲い込まれた感」がなかったからだと思います。奥森が仕事で結果を出せば周囲の見る目も変わりますから、結婚やバッシングをチャンスと捉えて、どんどん前に出て仕事をしてほしいと思います。

 ところで、今回の岩井に限らず、40歳くらいのオトコ芸人が結婚を発表すると「驚いた、結婚しないと思っていた」という反応がありますが、私はむしろそちらに驚いてしまうのです。

「結婚願望ない」と言っていた芸人は“ほぼ”わっかい女性と結婚

 自分は他人とは暮らせないとか、結婚生活に向かないという理由で、オトコ芸人が非婚主義を公言することがあります。岩井自身も結婚願望がないことに加え、3月21日放送の「ぽかぽか」(フジテレビ系)で、「いやだもん、芸能人とつきあったりするの」と“職場恋愛”すら否定して見せました。しかし、結果はご存じのとおり。でも、これ、岩井に限らず、多くの人気芸人が「結婚願望はない」と言っていても、ほぼ全員わっかい女性と結婚しています。

婚姻届を提出した翌日、幸せそうに笑顔を浮かべる矢部浩之('13年)

 たとえば、ナインティナイン・矢部浩之は一般人女性とながーく交際しながら、結婚に関しては煮え切らない態度でしたが、ひとまわり年下の元TBSアナウンサー・青木祐子とはあっさり結婚しています。ロンドンブーツ1号2号・田村淳は一夜限りの女性経験を聞かれた際、「カップラーメン4個分」と答えており、女優や日本を代表する歌姫との交際も噂されました。その一方で、結婚願望はないことを明かしていましたが、自身がMCを務める『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)で、10歳年下の元モデルの女性との結婚式を公開しています。性格が細かい、斜に構える芸風の千原ジュニアは18歳年下の一般人女性、オードリー・若林正恭も15才年下の一般人女性と11月22日のいい夫婦の日に入籍するなど、割とベタなことをしている。

 ちょっとクセが強そうなメンツですが、誰もがよき家庭人となって、いいお父さんになっていることも見逃せません。テレビに出る人に憧れる時代は過ぎ、今は「自分に似ている(と思わせる)」芸能人に親近感が集まる時代ですから、お金もあってモテてモテて困っているというよりも、「結婚できない」というほうがウケますから、この売り方はアリでしょう。ですから、芸能人の「結婚しない」発言は「今は結婚しない」という意味であって、非婚宣言ではないと思います。

 知名度もお金もあり、モテるはずの芸能人の茶番の極みが、「アローン会」だと思うのです。「アローン会」とは、吉本興業の独身芸人、今田耕司、ナインティナイン・岡村隆史、チュートリアル・徳井義実、又吉直樹ら独身芸人の集いで、NHKで番組化もされました。

「ただ結婚していないだけ」の状態

 しかし、その一方で今田は深夜のデート、徳井はチャラン・ポ・ランタンのもも(18歳年下)との自宅デートを『女性セブン』に報じられています。この状況を(キャラで)糾弾した岡村も50歳の時に長年友人関係にあった、30代の一般人女性と結婚しています。つまり、アローン会のメンバーは、相手がいない、ひとりぼっちという意味ではなく、相手はそれなりにいるけど、踏ん切りがつかないとか、もっといい人がいるかもしれないと思ってしまうなど、「ただ結婚していないだけ」の状態と言えるでしょう。

ナインティナイン・岡村隆史

 SNSの出現で、「他人の生活が見える」「まったく知らない人、芸能人ともコンタクトが取れる」ことが可能になったため、「他人との距離感が近すぎる、自分と他人は違うことがわからない」人が増えているように感じます。これは芸能人にとっては脅威で、一般人から「正しくない、おかしい」と思われてしまったら、何も後ろめたいことをしていなくても、攻撃されるリスクを持っていると言えるでしょう。芸能人は人を楽しませるのがお仕事であり、自分をよりよく見せるプロなので、その時の発言が本音や真実であるとは限らないのですが、SNSの時代、過去の発言を探し出したり、拡散させるのは簡単です。

 上述した岩井の「いやだもん、芸能人とつきあったりするの」も、キャラどおりの発言と言えるかもしれませんが、「奥森のことを恋人と認めていなかったということか。やはり、奥森とは遊びでグルーミングで・・・」と解釈できないこともない。今回の件、もし岩井にヤバイことがあるとしたら、本気で結婚を考える相手ができているのに「結婚できないキャラ」を続けてしまったこと。結婚まで「結婚できないキャラ」を保ちつつ、後にほじくられても問題にならないよう、キャラの味付けを薄くしていく腕が足りなかったのかもしれません。

<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」