宝塚歌劇団の本拠地である『宝塚大劇場』。徒歩圏内に多くの団員が住む『すみれ寮』も(写真/産経ビジュアル)

 今年9月末、宝塚歌劇団の劇団員女性・Aさんが自宅マンションから飛び降り、死に至るという事件が起こってから3カ月が経過した。Aさんの自死の背景には、上級生からのいじめやパワハラがあったとする週刊誌報道が相次ぐ中、劇団側は外部の弁護士による調査チームの≪故人に対するいじめやハラスメントは確認できなかった≫とする報告書を公表。遺族サイドはもちろん、世間からも再調査を訴える声が続出する一方、

「SNS上では、メディアで劇団内部のハラスメント構造を語るOGを、一部の宝塚ファンが誹謗中傷するという地獄のような光景が繰り広げられている」(芸能記者)という。

同性挙式を行った元タカラジェンヌ

 Aさんの自死、また週刊誌による劇団内部のいじめ・パワハラ報道を受け、調査チームを発足した宝塚歌劇団。報告書では、故人に対する上級生のいじめ・パワハラ問題の全貌が明かされるのではないかと見られていたが、実際の内容は「これらを完全否定するものだった」(前・同)という。

「劇団側はあくまで上級生による≪指導≫と説明。一方、≪長時間の活動と上級生からの指導が重なり≫≪精神障害を引き起こすような心理的負荷が故人にかかっていた可能性が否定できない≫とし、劇団員の安全配慮義務を怠っていたことは認めたものの、週刊誌では加害者の実名やAさんが受けていたいじめ・パワハラの詳細が伝えられているだけに、劇団側の説明を鵜呑みにする人はほとんどいない状況といえるでしょう」(前・同)

 そんな中、劇団内部の悪しきハラスメント構造について、メディアで積極的に発信しているOGがいる。元宝塚歌劇団・花組男役で、LGBTアクティビストの東小雪氏だ。

「東氏は宝塚音楽学校を経て、2005年に入団、翌年に退団しています。その後、レズビアンであることをカミングアウトし、13年にパートナーの女性と東京ディズニーリゾートでは初めてとなる同性挙式をしたことで話題になりました。一方、Aさんの事件が起こる前から、東氏は劇団内に横行するいじめやハラスメントについて問題提起を行っており、現在もさまざまなメディアのインタビューを受け、宝塚の抱える問題点を告発しているんです」(前・同)

 例えば、11月25日付の「東京新聞」では、「『すみませんでした!すみませんでした!』で過呼吸に…元宝塚・東小雪さんの証言 カルトじみた舞台裏」と題した記事に登場。

「口汚く怒鳴られて、ののしられて……」

≪私が宝塚音楽学校に入ったのは20年前。当時1年目の予科生は自分のベッドに入った時以外、「お疲れさま」「おはようございます」「すみませんでした」「ありがとうございます」「はい」「いいえ」の六つしか話せなかった≫

≪上級生の言うことは絶対。説教されたら「すみませんでした! すみませんでした!」と謝り続けるしかない。寝られず、過呼吸になって泣きながら謝る予科生もいた≫

≪けれど、そんな自分が本科生の時に同じことを予科生にしていた。それが当然だと思っていた≫

 など、宝塚音楽学校内の厳しい上下関係、それを背景にして常態化したハラスメントの実態を明かしている。

 また、同13日放送の『Live News イット!』(フジテレビ系)でも、

≪例えば、音楽学校の予科生でお風呂に入らせてもらえなかった、洗濯ができなかった、眠れなかった、本科生から怒鳴られた。寒い中、立ちっぱなしにさせられたりとか、挙げればきりがないんですけれども。コンクリートに膝をついて真っ赤になるまで謝り続けなければならなかったとか≫

≪「外部漏らし」という言葉というか、概念がありまして。親に言って、それが本科生の耳に入ると「お前なに外部漏らしてるんだ」と本当に口汚く怒鳴られて、ののしられてしまうんです。誰かが(外部に)言うと連帯責任になってしまうので、ますます言えない≫

 と告白。

2023年9月に転落死したAさん(宝塚歌劇団公式サイトより)

 東氏は一貫して、「Aさんの死を無駄にしないために、宝塚に関わるすべての人が人権意識を持つべきと主張している」(前・同)といい、自身のX(旧Twitter)でも、

≪この搾取と暴力を続けていてはいけません≫
≪こんなことを繰り返してはいけない≫

 と訴えている。しかし、そんな東氏は現在、SNS上で猛烈なバッシングを浴びているという事実がある。

“ネトウヨ”陰謀論者まで便乗

「宝塚歌劇団を擁護する一部の過激なファンが、東氏の在籍期間が短かったこと、また20年前であることを指摘し、宝塚の現状をわかっているはずがないと批判しているのです。中には、彼女がスターへの嫉妬心から宝塚の批判を展開しているのではと勘繰る声、さらには彼女がレズビアンであることに対する差別的な書き込みまでみられる始末。このような言葉をぶつけられる東氏の心労は計り知れません」(ウェブメディア編集者)

 こうしたごく一部の暴走するファンに賛同するのが、旧ジャニーズ事務所を擁護する層なのだという。

「故・ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐっては、一部の旧ジャニーズファンが、“事務所を潰そうとしている”として、被害を訴えた元ジュニアを敵視。事務所サイドがジャニー氏の性加害を正式に認め、謝罪しているにもかかわらず、今もなお“嘘をついている”“金目当て”などと被害者を誹謗中傷し続けています。

 そんな一部の旧ジャニーズファンには、東氏もまた“私利私欲で宝塚を潰そうとしている人物”に見えるのか、彼女へのバッシングに加担。さらには、 “旧ジャニーズや宝塚の騒動は、日本の芸能を潰そうとする韓国こそが黒幕”と唱える“ネトウヨ”陰謀論者までそれに便乗するという地獄絵図が繰り広げられているんです」(前・同)

11月14日に宝塚市内で行われた劇団会見。辞任を表明した木場理事長(中央)の後任は右端の村上浩爾氏が務める 写真/産経新聞社

 ジャニー氏の性加害を告発した元ジュニアが、被害のトラウマに誹謗中傷などが重なったことで心労がより一層深刻になり、自死に至ったと伝えられたのは11月中旬のこと。こうした事態を受けてもなお、「東氏に暴言を吐く人が後を絶たないのはあまりにもショック」(前・同)だという。

“告発者”への誹謗中傷は、性被害やいじめ、パワハラに苦しむ人の口を塞ぐことにもつながりかねない。これをどう止めるかも、社会全体で考えなければいけない問題ではないだろうか。