最近、よく目にするようになった「カスハラ」という言葉。「カスタマーハラスメント」の略で、顧客や取引先から職場環境が害されるレベルの不当要求や迷惑行為が行われることを意味する。いわゆる“キレる客”だ。
今年、エス・ピー・ネットワークが行ったカスハラ実態調査によると、直近1年でカスハラを受けたことがある企業のクレーム対応担当者は64・5%にのぼった。被害内容で多いのが電話や面前で繰り返される「執拗な言動」、大声で怒鳴ったりする「威圧的な言葉」。ひどいものでは土下座を強要されたり、3時間も拘束された例もあるという。
しかもこの調査によると、カスハラをしてくる相手の年代は40~60代が合計8割を占め、特に50代という回答が最も多い。まさに『週刊女性』の読者世代であり、人ごとではない。
「お客様は神様」を曲解
「カスハラって基本的に若い人はしないんです。それは若い世代には“お客様は神様です”という意識がないからです」と語るのは、カスハラ問題に詳しい日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さん。
「今の40代以上は、歌手の三波春夫さんが1960年代に言った“お客様は神様です”という言葉を知っていますよね。三波さんは“あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って澄みきった心で歌う”という意味でおっしゃっていたのですが、曲解されて“お客様は神様だから、言うことを聞くのは当たり前”という意味で流布してしまった。それが中高年の意識に根付いているんです」(安藤さん、以下同)
カスハラをしやすい人の傾向はあるのだろうか。
「自分は正しいと思ってる人です。相手が間違ったことをしてるんだから、教えてあげているという意識。土下座の強要など、要求がエスカレートするのは絶対的に自分が正しいということを証明したいから。ただ謝られたぐらいでは、自分がいかに正しいかが店側に伝わっていないと思うのでしょう」
加害者にならないためには
そういう怒りを持った人が店や企業を標的にするのは、相手が言い返してこない立場だとわかっているから。そんな卑怯なカスハラ加害者にならないためにできる予防策は?
「まずはカスハラというハラスメントがあることを知っておくこと。言葉の浸透が足りず、まだ“やってはいけないこと”という意識を持っている人が少ないんです。それとサービス提供者と客は対等な関係であることを理解すること。サービス提供者には何をしてもいいと思っているのは、相手の人権を考えてないのと同じです」
安藤さんが広める、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング法「アンガーマネジメント」も効果的。
「カッとなって何か言いたくなっても6秒待ちましょう。それで怒りが消えるわけではないですが、うっかりした暴言は防ぐことができます」
また、“○○すべき”という考えにこだわっていると現実でかなえられないときに怒りを生むので、その考えを緩めることも重要だという。
「例えば“時間は守るべき”という考えがあったとして、10時集合の10分前に来なければいけないと思うのか、せめてぴったりに来ればいいと思うのかでは厳しさが違いますよね。
物事に関して常に“せめて”という言葉で考えると、自分の許容度が広がります。“せめて”どうだったら許せるか考える癖をつけるといいでしょう」
取材・文/小新井知子