中川翔子が改名した。といっても、芸名ではなく本名のほうだ。
誕生の際、両親は「薔子(しょうこ)」と名付けようとして、叔母に手続きを任せたが「薔」の字が名前に使えないことが判明。役所の担当者とモメた叔母が平仮名で「しょうこ」と殴り書きしたところ「よ」が大きく見えたのか、はたまた担当者の嫌がらせか「しようこ」になってしまったという。
しかし、今年5月に結婚して姓が変わったのを機に、名前も芸名として使ってきた「翔子」に変えることを決断。動画チャンネルでは「中川しようこ」と記された結婚前の免許証を紹介して、家庭裁判所の受理待ちであることを公表していた。受理された翌日には『ひるおび』(TBS系)に出演して、
「生まれ変わった気分! すっきりしました。38年間悩んできたので」
と、報告。
オタクのイメージアップに貢献
ただ、動画チャンネルでは「もったいないかな? だって、宇宙にひとり(の名前)じゃん」と、未練ものぞかせていた。実はこの珍名、ファンにはけっこう親しまれ、彼女のユニークなイメージを構成する要素でもあったからだ。ちなみに、彼女はオタク女子が「売り」だが、筆者が初めて出会ったオタクは中学時代の同級生男子。アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の大ファンで、サントラ盤を何枚も持っていた。
ところが、自宅にステレオがないため、筆者の自宅までそのサントラ盤を持って聴きに来る。日曜の早朝、毎週のように現れる情熱、ブーム便乗モノでしかないディスコ編まで集めずにはいられないこだわりに、オタクの深淵を学ばせてもらった。
そんな友人は美男子を好み、本田恭章の次にハマったのが中川勝彦さん、翔子の父だ。白血病のため、32歳で夭折するが、その数年後、忘れ形見の彼女がアイドルデビュー。オタクだった父の影響で、娘もオタク女子に育ったと知り、筆者の中で、つながった瞬間だった。なお、オタクを売りにしてきた彼女だが、同時に、そのイメージアップにも貢献している。
かつて、漫画やアニメは子どもだけのものとされ、1990年前後には宮崎勤事件によって世間から忌避されたりもした。しかし、彼女のようなアイドルがその魅力を発信、いじめやひきこもりでつらい時期もそれによって救われた話などをすることで、社会的認知度が上がり、より多くの人が楽しめる趣味に変わっていく。
「大人になったなぁ」
また、彼女も含めたアイドルの活動年数が大幅に延び、老若男女に愛される存在となっていった。いわば「推し文化」の定着にひと役買ったのである。そんな彼女の最新の仕事は、アニメ『16bitセンセーション』(BS11ほか)の主題歌『65535』。イラストレーターのヒロインがタイムスリップして、ゲームの歴史を変えようとする物語だ。
ヒロインは過去の世界で「美少女キャラでいっぱいになる」未来を予言するが、今の日本はまさにそういう状況。それは中川のような「可愛いもの」を愛するオタクが導いたものでもある。
とはいえ、その担い手は今後、より若い世代に移っていくことだろう。前出の動画チャンネルで彼女は、申請の手続きが大変だったことに触れ、
「オトナになったなぁと感じましたね。運転免許取ったとき以来に。10代から芸能界にいさせてもらってると、わかってないこと多いんですよ」
と、振り返った。
改名を機に、オトナのオタクとしての人生が始まるのかもしれない。
宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。