北野武監督の最新映画『首』が11月23日に公開された。『アウトレイジ 最終章』以来6年ぶりの脚本・監督作である本作は、ビートたけしが羽柴秀吉を演じる戦国時代を舞台とした時代劇。西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、浅野忠信、大森南朋ら超豪華キャストが集結したとあって、大きな話題を集めている。
北野映画は、これまで約20作に及び、その中にはヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『HANA-BI』('98年)など、国際的な評価を受ける作品も少なくない。また、俳優・ビートたけしとして出演した映画は30作以上になる。
そこで週刊女性では、全国の40歳以上70歳以下の男女1000人を対象に、北野武監督・出演作品の中から「好きなたけし映画」をアンケート調査。北野武監督本人に取材経験を持つ映画ライターのよしひろまさみちさんの解説とともに、人気の理由を探ります!
1000人に聞いた、私が好きな『たけし映画』
第5位となったのが、『菊次郎の夏』('99年)だ。「たけしさんらしい優しさと笑いがある映画だと思います」(山形県・46歳・男性)という声が寄せられたように、暴力とは無縁の世界を描いても、北野映画は人気が高いことがわかる。
「'99年を代表する作品は『マトリックス』です。世の中は世紀末を迎えていたので、ディザスター系やパニック系の映画が席巻していた。ところが、たけしさんは真逆を行く。そうした姿勢を含め、私自身、大好きな映画です」(よしひろさん)
世間の常識にとらわれない、あるいは世間の常識を問い続けてきたコメディアン、ビートたけしの世紀末に対するアンチテーゼともいえる本作。北野映画は、“キタノブルー”に代表される独特の色彩も人気の一因だが、『菊次郎の夏』は色とりどりの日本の豊かな風景を思い出させてくれるという意味でも傑作だろう。
「'98年、たけしさんは『HANA-BI』で金獅子賞を受賞します。本作は、その死生観がヨーロッパで高く評価されるのですが、'94年の自身のバイク転倒事故が、その後の映画に大きな影響を与えたことは間違いないと思います。事故以前の映画は、刹那的に生きる姿を描いている印象を持ちますが、事故後は『人生には終わりがある』といった感がある。その振れ幅も、人気のひとつでしょう」(よしひろさん)
世界のキタノの作品に役者たちは出たい
「世界のキタノ」の作品に出演したいと手を挙げる俳優陣は多い。4位の『アウトレイジ』シリーズは、その証左だろう。
アンケートの声でも、「豪華な俳優たちの演技力。迫力ある演技を恐怖とともに見られた」(千葉県・48歳・女性)というように、個性的な役者たちが集うこともたけし映画の見どころだ。
「『その男、凶暴につき』に端を発するバイオレンス映画は、たけしさんの代名詞ともいえる作風ですが、『アウトレイジ』の1作目は2010年です。すでに暴力的な描写は好まれない時代になっていた。しかし、たけしさんは実績があることに加え、当時タッグを組んでいた(『オフィス北野』社長の)森昌行さんが資金繰りを含め、プロデューサーとして敏腕だった」(よしひろさん)
同作品は大ヒットを記録し、シリーズ化されるまでに成長する。
「この作品に登場するようなキャラを演じることは、役者としての幅が広がりますからたまらないでしょう。一方で、事務所はイメージの低下になりかねないので、そうした役を演じさせたくない。ですが、たけし映画は役者を一皮むかせるという意味でも稀有な存在」(よしひろさん)
監督でありながら名優でもある。この点が、たけし作品の強烈なオリジナリティーとなっているわけだが、第3位の『その男、凶暴につき』('89年)は、まさにその典型例だろう。
「もともとたけしさん主演で深作欣二監督の予定でしたが、監督はスケジュールの都合がつかず降板。そこで白羽の矢が立ったのがたけしさん。即興性を生かす演出で鮮烈なデビューとなりました」(よしひろさん)
結果的に、これが映画監督・北野武の才能を開花させる。漫才師であり、芸人であるたけしは、新鮮味がなくなるリハーサルを好まなかった。
「『首』でも、立ち位置のテストを1回やるだけで、すぐに本番を撮影したとか。あまりに早いので、出演する役者陣は不安になるみたいです(笑)。また、往年の名監督は、モニターの前から動かないことが一般的でしたが、たけしさんは演技指導も含めて動くタイプの監督。この点も特徴的です」(よしひろさん)
また、上位にランクインされた作品の多くが、「ものまねされやすい作品が多い」(よしひろさん)と分析するように、「菊次郎だよバカヤロー」(『菊次郎の夏』)、「今からちょっと殺し合いをしてもらいます」(『バトル・ロワイアル』)など、たけしのものまねをしたくなるシーンやフレーズがある作品が選ばれている点も見逃せない。
そして、第2位に名を連ねたのが、やはり今なお多くの人にものまねをされる『戦場のメリークリスマス』('83年)だ。
「『メリークリスマス、ミスターロレンス』というセリフが忘れられない」(長野県・53歳・女性)、「俳優としても才能があるのだと驚いた。色気や狂気がすごい」(神奈川県・55歳・男性)
というコメントが寄せられたように、本作をきっかけに俳優・ビートたけしの演技力に魅せられた人は多い。よしひろさんは、「当時演技経験がゼロだった坂本龍一さんを含む、異色のキャスト陣が見事にハマった映画」だと語る。
「大島渚監督は、たけしさんが出演している『御法度』でも、新人だった松田龍平を抜擢します。『戦メリ』のたけしさんにもいえることですが、存在感だけで雰囲気が出るような人をキャスティングするのがとても上手。たけしさんが演じたハラ(・ゲンゴ)軍曹のように、そこにいるだけで説得力がある。6位の『バトル・ロワイアル』、7位の『血と骨』は俳優ビートたけしの魅力が詰まっている。人気が高いのも納得」(よしひろさん)
プロモーションのよさが印象に残る
「キレのあるアクションにダンス要素もあって斬新だった」(愛知県・51歳・男性)「昔の映画を新鮮によみがえらせた作品だと思います」(東京都・59歳・女性)
栄えある第1位に輝いたのは、'03年に公開された『座頭市』。同作は、故勝新太郎さんの代名詞ともいえる作品だが、「タップダンスが印象的だった」という声が多いように、まったく違うエンタメ作品に仕上げたことが大きな支持につながった。
「『座頭市』と4位にランクインした『アウトレイジ』シリーズは、北野映画の中でも大きなプロモーションを仕かけた作品。アンケートのコメントを見ると、『好き』という意見とともに、『印象に残っている』という声も多い。北野映画ファン以外からも多く支持されていることがわかる」(よしひろさん)
監督、役者、芸人、タレント……さまざまな表情を持ちながら、喜怒哀楽を自在に描く。たけし映画は多面的だからこそ、多くの人を魅了する。老境を迎えた北野武とビートたけしが何を世に放つのか──、まだまだ楽しみだ。
40歳以上70歳以下の男女1000人に聞いた「好きなたけし映画」
1位 『座頭市』(2003年) 225票
2位 『戦場のメリークリスマス』(1983年) 194票
3位 『その男、凶暴につき』(1989年) 168票
4位 『アウトレイジ』シリーズ(2010年) 109票
5位 『菊次郎の夏』(1999年) 88票
6位 『バトル・ロワイアル』シリーズ(2000年) 81票
7位 『血と骨』(2004年) 30票
8位 『HANA-BI』(1998年) 27票
9位 『教祖誕生』(1993年) 24票
10位 『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年) 21票
※インターネットアンケートサイト「Freeasy」にて11月中旬、全国の40歳以上70歳以下の男女1000人を対象に選択方式で実施
(取材・文/我妻弘崇)