(左から)森七菜、木村拓哉、堺雅人、松本潤

 年の瀬を迎え、1年を振り返る時期がやってきた。今年のドラマ界は久しぶりに世間をにぎわすような話題作が生まれるなど盛り上がりをみせた。一方で、期待を裏切るようながっかりドラマも数々あり……と悲喜こもごもなのは相変わらず。そんなドラマ界を総括すべく20~50代の女性1000人にアンケート。2023年がっかり&よかったドラマ大賞の開幕!

がっかりドラマTOP10【2023年】

 まずはがっかりドラマから。5位は木村拓哉が義眼の鬼教官を演じて話題となった『教場』の連ドラ版『風間公親―教場0―』(フジテレビ系)。

「スペシャルが面白かったから期待していたけど、思っていたのと違った」(東京都・34歳)。「警察学校の話じゃなくて、普通のミステリーだったから」(京都府・45歳)とスペシャル版との舞台設定の違いに違和感を覚えた人が多かったよう。

 ドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんもその点が敗因だったと指摘する。

2023年1月下旬、『教場0』撮影の臨む木村拓哉

「『教場』の面白さは警察学校という閉鎖空間で若い学生たちの未熟さや悩み、嘘を風間教官が浮き彫りにしていくところなのに、連ドラ版はそれがなかった。

『教場』の前日譚としての興味はあったのですが、風間が義眼になった事件の真相が暴かれることもなく、それもがっかりの理由のひとつ。しかも、毎回の事件も体内の検査用のカメラが刺された拍子に飛び出して犯人を映していたとかトンデモトリックが多くて、ちょっとあ然としちゃいました(笑)

 4位は『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)。二宮和也、中谷美紀、大沢たかおの主演で、聖夜の1日の出来事を同時進行する3つの視点で描く意欲作と期待は高かったのだが……。

二宮和也

「シーンが目まぐるしく変わって、内容が頭に入らない」(山形県・39歳)など複雑な構成についていけない視聴者が多数。

「これ2時間ドラマの前後編でいいですよね。連ドラだと1話1話で登場人物の動きが多くて、到底1日の出来事に見えないんです。同時多発的にいろんな事件が起こるという意味では『有頂天ホテル』みたいなことをやりたかったのでしょうが、だったら三谷幸喜さんに書いてほしかった

 やりたいことと脚本、演出がまるで噛み合っておらず、せっかくの豪華キャストがもったいなかったです」(カトリーヌさん)

 がっかりの3位もやはり挑戦的なドラマ『パリピ孔明』(フジテレビ系)。

「面白いけど、ドラマじゃなくてもよかったと思う」(福岡県・40歳)。「あまりにも非現実的で、役者はいいのに物語が頭に入ってこない」(東京都・51歳)。

 どうやら、諸葛孔明が現代に転生し、プロデューサーとしての手腕を発揮するといういかにも漫画原作らしいとっぴな展開や、主演の向井理のコスプレ感満載の格好に戸惑う人が多かったようだ。

向井理

「たしかにリアリティーは皆無でしたけど、私は楽しんで見ていました。キャラもにぎやかだし、ビジュアルも楽しいし。音楽モノを実写化する場合、説得力を出すのがすごく難しいんですよ。

 でも、上白石萌歌さんのピュアな歌声をアヴちゃんと菅原小春さんのパンチのあるキャラで補うなど、音楽面でも頑張っていた。

 ただ、孔明が登場したときのインパクトが強烈すぎて、そこからさらに盛り上げられなかったとは思います。若干の出オチ感があったのは否めません(笑)」(カトリーヌさん)

 そして松本潤主演の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)が2位にランクイン。「史実をかなり改変。家康をあまりに美化しすぎる感じが嫌だった」(愛知県・27歳)。「顔の濃さなのか松潤がどうしても家康に見えず、途中でリタイア」(埼玉県・54歳)などのコメントが。

'23年5月、徳川家康に扮してイベントに参加した松本潤

「期待が高かった分、失望も大きかったのかも。私は信長が『俺の白ウサギ』って言ったときに、あれ?……と思いました(笑)。キャストもキャラもよかったのに、それが生かせていないんですよね。

 悪女といわれている築山殿(有村架純)を聖女として描いているんですけど、そこを膨らませすぎてほかに手が回らなくなり、後半はバタバタと最後まできちゃった。この作品ももったいなかったです」(カトリーヌさん)

月9王道ラブストーリーがまさかの1位に

 '23年のがっかりドラマ1位に輝いたのは『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)。

「昔のようなキラキラした月9を期待したのですが、話が本当につまらなかった」(北海道・40歳)。「なんかすべてにおいて古くさかった」(東京都・28歳)と物語自体へのダメ出しが多数。

『真夏のシンデレラ』撮影中の森七菜

「タイトルどおりに素直にシンデレラストーリーにしておけばよかったのに、周りの人たちの設定とエピソードを詰め込みすぎて、物語としてすごく散漫になっちゃった。しかも、そのエピソードも新しくはなく既視感たっぷりなんですよね。

 全編を彩る音楽もトレンディードラマ時代の月9を彷彿させるキラキラミュージックで、不景気の今にこんな浮かれた音楽を流されても……と引いちゃいました。

 せっかく『ナンバMG5』コンビの間宮祥太朗さんと神尾楓珠さんがいるんだから、2人で『ビーチボーイズ』をやればよかったんですよ(笑)」(カトリーヌさん)

 がっかりの5位までに月9が3作品ランクインするなどフジテレビの迷走ぶりが目立っている。看板枠だけにキャスティングを頑張り、視聴者の期待を高めてスタートするだけに内容が伴わないとがっかり感も強いということか。

 逆に期待を超えた面白さで視聴者を夢中にさせた作品もある。

よかったドラマランキングTOP10【2023年】

 続いては、そんなよかったドラマランキング。5位に入ったのは神木隆之介主演の朝ドラ『らんまん』(NHK)だ。「植物学者の夫と妻の話で、信念を持った主人公とそれを支える妻の愛がよかった」(千葉県・47歳)。「明るくわかりやすくテンポがいい。これぞ朝ドラの王道」(島根県・54歳)

神木隆之介

一貫した夢の追求と夫婦愛が最後までブレなかったのがよかった。登場人物にもさまざまな顔があり、単なる悪役がいなかったのも安心して見られた要因。植物の豆知識も得られて、まさに正しい朝ドラでした」(カトリーヌさん)

 安心感といえばこれほど期待を裏切らないドラマはないだろう『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)が第4位。

「時事ネタを交えたブラックユーモアが相変わらず面白い」(広島県・47歳)と安定の面白さへの評価は高い。

舞台も好評だった松岡昌宏主演『家政夫のミタゾノ』

「これって市原悦子さんの『家政婦は見た!』、松嶋菜々子さんの『家政婦のミタ』に続く第3形態なんですよね。ついにはジェンダーレスのモンスター家政夫になった設定は面白いし、現代的。時事ネタをうまく扱い、家事に関する知恵袋的なネタもあって、何も考えずに楽しめます」(カトリーヌさん)

話題を呼んだ考察ドラマに称賛の声が殺到

 時代性があるといえば3位の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)も西島秀俊&内野聖陽演じる同性カップルの日常を描くという現代的なホームドラマ。「主演の2人の自然な演技が素晴らしい。出てくる料理もおいしそう」(神奈川県・54歳)とシーズン2を期待していた視聴者も多かったようだ。

大人気『きのう何食べた?』のシロさんこと西島秀俊(左)とケンジこと内野聖陽(右)

「今回は老眼鏡の話だったり親のお墓の話だったりと同性カップルに限らず年をとれば直面するリアルな問題が描かれていて、テーマ的にも素晴らしかった。そこに飯テロ要素も加わり、まさに深夜に見るにはぴったりのドラマ。それを西島秀俊さんと内野聖陽さんが演じているという贅沢さですよ」(カトリーヌさん)

 そして、2位にはバカリズムが脚本を担当したタイムリープ系コメディーの傑作『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)がランクイン。「主人公と友達の会話はもちろんだけど、着眼点がスゴい! バカリズムさん天才と思いました」(東京都・45歳)などバカリズムの脚本とキャストの演技を称賛する声が多く寄せられた。

安藤サクラ

「次々と繰り出される平成&職業あるある、リアルすぎる女子トークと隅から隅まで面白かったですよね。安藤サクラさんが人生を繰り返すたびに見ている過去を、私たちも追体験できる構成の見事さ。

 しかも、物語を破綻させずにきちんと伏線を回収して、最後は女子の友情物語として美しく完結させた。役者さんたちのお芝居も素晴らしかったですが、何よりバカリズムさんの脚本が完璧でした!」(カトリーヌさん)

 ドラマ史上最多とも思われる本数の作品が制作された'23年、圧倒的な話題と支持を得て見事1位に輝いたのは堺雅人主演の壮大なサスペンスドラマ『VIVANT』(TBS系)。

「ストーリーや世界観が壮大で、毎週映画を見ているような贅沢さだった。予測不能の物語を考察するのも楽しかった」(長野県・40歳)。「豪華かつバラエティーに富んだキャストがそれぞれキャラの立った役を演じていて、すごくよかった」(東京都・40歳)とコメントも絶賛の声であふれている。

日曜劇場『VIVANT』(公式HPより)

「去年が『silent』の年なら今年は『VIVANT』の年。来年は最後にTのつく題名のドラマが増えるかも(笑)。

 考察系ドラマって謎を重ねがちなんですけど、この作品は2話で“VIVANT”の意味が判明し、4話で乃木の正体がわかり、5話で1話からの伏線がすべて回収され、そこから新たな謎が提示されるというふうに、ものすごく構成も工夫されていた。

 福澤克雄監督の構想を複数の脚本家に書かせるというハリウッドスタイルの脚本作りで、そこも新たな挑戦でしたよね。続編もめちゃくちゃ楽しみですし、スピンオフがいくらでもできそう」(カトリーヌさん)

 6位に『silent』の生方美久脚本の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)が入っているが、がっかり1位の『真夏のシンデレラ』と対比するとドラマ界のトレンドがわかるとカトリーヌさん。

「トレンディードラマ時代の恋愛ドラマって、カースト上位の美男美女の恋愛を視聴者が憧れの目線で眺めるという構図でしたが、今は生きづらさに心が折れかけている普通の人々を主役に、現実的で切実な本音に寄り添うドラマが増えている。

 その代表ともいえるのが『いちばんすきな花』。トレンディーの夢よもう一度の『真夏のシンデレラ』が惨敗するのは致し方ないのかなと。

 '23年はジャニーズ、歌舞伎、宝塚というような絶対的だった古い価値観が揺らいだ年だと思うんです。一方でBLドラマが当たり前に作られるなど、多様性の波はいち早くドラマ界に訪れている。

 '24年のドラマ界のテーマは“アップデート”になるんじゃないかなと思っていて。昭和と令和の価値観のギャップを描く宮藤官九郎さん脚本の『不適切にもほどがある』(TBS系)はまさにそういうドラマ。来年も楽しみです!

2023年がっかりドラマTOP10

1位 真夏のシンデレラ フジテレビ系 出演/森七菜 94票
2位 どうする家康 NHK総合ほか 出演/松本潤 81票
3位 パリピ孔明 フジテレビ系 出演/向井理 74票
4位 ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~ フジテレビ系 出演/二宮和也 66票
5位 風間公親―教場0― フジテレビ系 出演/木村拓哉 61票
6位 舞いあがれ! NHK総合ほか 出演/福原遥 55票
7位 大病院占拠 日本テレビ系 出演/櫻井翔 47票
8位 夕暮れに、手をつなぐ TBS系 出演/広瀬すず 42票
9位 今日からヒットマン テレビ朝日系 出演/相葉雅紀 37票
10位 コタツがない家 日本テレビ系 出演/小池栄子 34票

2023年よかったドラマ大賞TOP10

1位 VIVANT TBS系 出演/堺雅人 127票
2位 ブラッシュアップライフ 日本テレビ系 出演/安藤サクラ 86票
3位 きのう何食べた? season2 テレビ東京系 出演/西島秀俊 77票
4位 家政夫のミタゾノ テレビ朝日系 出演/松岡昌宏 73票
5位 らんまん NHK総合ほか 出演/神木隆之介 64票
6位 いちばんすきな花 フジテレビ系 出演/多部未華子 59票
7位 罠の戦争 フジテレビ系 出演/草なぎ剛 47票
8位 どうする家康 NHK総合ほか 出演/松本潤 42票
9位 ラストマン-全盲の捜査官- TBS系 出演/福山雅治 33票
10位 ハヤブサ消防団 テレビ朝日系 出演/中村倫也 32票

カトリーヌあやこ 漫画家&テレビウォッチャー。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など

(取材・文/蒔田陽平)