1989年にヒットした『トラブル・メーカー』という曲がある。南野陽子が自ら作詞し、歌った曲だ。
詞の内容は、恋人に対し、わがままを言ったり、悩ませたりすることについて「私はトラブル・メーカー?」と問いかけるもの。当時のアイドルの中でも気の強さで有名だったイメージを、自ら逆手にとろうとしたのだろう。
そんな南野が、まさにトラブルメーカーだった男性と離婚した。
主人は「ゴミ箱みたいな存在」
ふたりが結婚したのは、2011年。出世作の『スケバン刑事2』(フジテレビ系)に引っかけて「スケ晩婚」と笑顔で語った彼女だが、それから12年、男性にはトラブルが続出していた。
投資話で何億円もだまし取ったとか、事務長をしていた病院で億単位の使途不明金が生じていたといった報道がされ、不倫相手と「隠し子」をめぐって裁判になったりもした。そして先月、ついに逮捕という事態に。特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人の資金1500万円を横領した疑いだ。
その6日後、彼女は離婚を発表した。その決断について、もっと早くてもよかったのではという声もある。
ただ、2019年には週刊誌の取材に「トラブルなどでこれ以上病みたくはない」としつつ、
「でも、家族としては支えていきたいですし、仲良くしていきたい」
と、語っていた。
おそらく、夫婦としての相性は悪くなかったのだろう。というのも、結婚から3年後に、彼女はこんなオノロケを口にしていた。
「自慢話と人の悪口を、主人は聞き流してくれるんだもん。言葉は悪いけど、ゴミ箱みたいな存在(笑)」
筆者も関わった『語れ!80年代アイドル』という本のインタビューでの発言だ。
ここでの彼女は、気の強さにますます磨きがかかった印象。アイドル時代の自分がAKB48の選抜総選挙に出たら「絶対に1位になれると思う」とか、テレビを見ながら「ほら! この人、整形してる!」などと言っているときがいちばん楽しいといった話をしていた。それを「聞き流してくれる」のがこの男性だったわけだ。
若いころは生意気だと叩かれ、最初の所属事務所からの独立騒動で仕事を干されても、しぶとく生き残ってきた彼女は、この男性に似た者同士的な、あるいは相棒みたいな意識を抱いていたのかもしれない。それゆえ、自分と同じようにトラブルはあっても、まさか法を犯すことはないはずという感覚だったのではないか。
自身がトラブルメーカーに
しかし、トラブルの質というか、レベルが違った。逮捕となると、彼女の仕事にも影響が出かねない。それもあっての離婚だったのだろう。
その本での南野陽子評に、筆者はこう書いていた。
「他の同世代アイドルの多くが『ヨゴレ』的な仕事をしながら『劣化』をカムフラージュしているなか、アイドルとしての現役感はかなり健在といえる」
実際、インタビューした編集者も40代後半とは思えない美貌に感心していたものだ。が、仕事どころか、実生活に「ヨゴレ」がつくハメに。とばっちりとはいえ、彼女までトラブルメーカーみたいなイメージになった感が否めない。
ちなみに、彼女は今『仮面ライダーガッチャード』(テレビ朝日系)に主人公の母親役で出演中。年末年始には、映画版も公開される。
スケバン刑事から仮面ライダーの母へ、というのはなかなか順調なキャリアの重ね方だったわけだが、今回の件でこういう役のオファーは当分なさそうだ。
宝泉薫(ほうせん・かおる) アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。