人気を博した『ポケットモンスター赤・緑』

《ひょんなことから入手したので色々やってみようと思います》

 これは12月4日、とあるゲーム実況者がX(旧Twitter)に投稿したツイートの一文だ。

 ツイートには、懐かしの携帯型ゲーム機『ゲームボーイ』のソフトの写真が添付され、タイトル名には「POKEMON CREEPY BLACK」と世界的な人気を誇るゲーム『ポケットモンスター』の名が記されている。

 パッケージには幽霊らしきイラストが描かれており、不気味だ。

「POKEMONCREEPYBLACK」と書かれたソフト(Xより)

 5.4万以上の「いいね」(12月7日時点)を集めており、大きな話題となっていた。

公式に発売記録がない、謎に包まれたゲームソフト

『ポケットモンスター』は、1996年に任天堂から発売されたゲームボーイ用ソフト『ポケットモンスター 赤・緑』から始まったシリーズ。主人公(プレイヤー)がポケットモンスター(通称ポケモン)と呼ばれる不思議な生き物たちとともに冒険に出るゲームだ。

 小学生を中心に口コミで人気を集めた赤・緑は全世界で売上本数3000万本のメガヒットを記録。キャラクターグッズ、アニメ・マンガ、映画、カードゲーム、アーケードゲームなどメディアミックス展開も盛んに行われており、世界的に人気を博しているのはご存じのとおりである。

 読者のなかには、ゲームボーイソフトのポケモンとなると初代『ポケットモンスター 赤・緑』を思い浮かべる人も多いだろう。

 だが「POKEMON CREEPY BLACK」というソフトは、任天堂やライセンスを管理する株式会社ポケモンの発売するソフトラインナップのなかには存在していない。

 一応、『ポケットモンスター ブラック』というソフトが、2010年にニンテンドーDS用ソフトとして発売されているが、本作とは関係ない全くの別作品だ。

謎の「ゆうれい」が放つ「のろい」にネット上では……

 では本作はどのようなものなのか。

 今回の「POKEMON CREEPY BLACK」のような内容のソフトの存在は、海外の掲示板で報告されたことが発端となり、2000年代後半からネット上で噂が広まっていた。いわゆる都市伝説のような存在なので、“本物”が実在するのかどうかもわからない。

「POKEMON CREEPY BLACK」のストーリーはマサラタウンから始まり、プレイヤーはオーキド博士の研究所で「フシギダネ」、「ヒトカゲ」、「ゼニガメ」のうちどれか1匹のポケモンを選択することになる。

 ここまでは赤・緑の流れとなんら変わりはないが、どれか1匹を受け取った後にメニュー画面の手持ちポケモンを確認すると、選んだ1匹以外に「GHOST」(ゆうれい)と呼ばれる謎のポケモンが勝手に追加されているのだ。

 ちなみにゆうれいは、赤・緑のシオンタウンにあるポケモンタワーにも登場する謎の存在で、赤・緑では手持ちポケモンに加えることはできない。

 ゆうれいをポケモンバトルに出すと、わざ一覧には「CURSE」(のろい)という不気味なわざしか出てこない。「のろい」で攻撃すると突如画面は暗転し、相手のポケモンは断末魔をあげて消滅してしまうのだ。

 そしてこの「のろい」はポケモンのみならず、対戦相手のポケモントレーナーにまで攻撃することが可能。攻撃を受けたトレーナーは消滅し、マップ上にはなんと墓標が建つのである……。

 ストーリーを進めゲームをクリアすると、エンディングでは老人になった主人公自身がゆうれいに倒されて終わる――という救いのない内容で幕を閉じる。

ネットで大盛り上がり、その正体は?

 この「ゆうれいが手持ちポケモンとして加わる」という内容の幻のソフトは、前述したように2000年代後半には噂されており、ポケモンファンのなかでは入手を試みる人も現れたが、その全容は明らかになっていないままだった。

 そのためSNS上では、この恐怖のソフトの存在に阿鼻叫喚の声が広がっていたのだ。

《特級呪物(ガチなやつ)》

《本当にあった怖いポケモン》

《ぎゃあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ》

 一方で次のような興味深い声も少なくなかった。

《都市伝説だと思ってたらまさか本当に存在していた…!?》

《これ怖いやつですよね?都市伝説の!見つけるなんてすごすぎます》

《ポケモン、ゲームボーイ、都市伝説が好きな人間からしたらまじで欲しい》

 幻の存在だったソフトが、突如Xにて登場したのだから、これだけネット上で盛り上がるのも頷ける。

 果たして、その正体とは?

“都市伝説のソフトそのもの”ではない!?

 実はこの「POKEMON CREEPY BLACK」は、「ハックロム」と呼ばれる改造済みのロムファイル。市販のゲームソフト=ロム(ゲームのプログラミング)を専用の機械でPCに吸い出し、パッチを適用させるなどして改造を施したゲームのことだ。

 ハックロム自体はゲーマーたちの間ではメジャーな存在であり、ポケモン以外の人気ゲームでも改造を施された例は枚挙に暇がない。YouTubeやニコニコ動画などのプラットフォームでは、実況動画としてプレイされる機会も多く、昔ながらのネットユーザーのなかには懐かしむ人もいるかもしれない。

「POKEMON CREEPY BLACK」は、パッチを当てたロムファイルを再びカートリッジに焼き直したものであり、それが流通して冒頭の投稿者の元へと渡ったのだろう。

 しかし、これが“かつて噂されていたソフトそのものなのか”という疑問に関しては、可能性は低いと言える。

 なぜなら今回Xで話題になったソフトのデータは、2021年ころから海外の有志によってリリースされたと推察されるからだ。

 噂はそれよりもっと以前の2000年代後半からあったため、「都市伝説をもとにファンが出来心で作った模倣品」と考えるのが妥当だろう。なおソフト自体は、パッチ開発者以外の第三者がカートリッジに焼いて販売しているのだと思われる。

 ほかにもファンメイドの類似ソフトの情報もあるため、今後も「POKEMON CREEPY BLACK」のようなソフトが出てくるだろう。多くは今回のような「都市伝説をもとにファンが出来心で作った模倣品」だろうが、もしかしたらいずれ、かつて世間を震撼させた“本物”も出てくるかもしれない。

 余談だが、12月11日現在、このソフトの投稿者のアカウントは削除されており、本ポストを確認することはできない。ゆうれいが放ったのろいは、投稿者自身も消えてしまうほど強力なものだったのだろうか……。

(取材・文=A4studio)