昨年のNHK大河ドラマ『どうする家康』、主演の家康を松本潤、脚本は『コンフィデンスマンJP』の古沢良太と強力布陣で始めたものの、蓋を開ければ視聴率は右肩下がり。期間平均視聴率は歴代ワースト2位となり、歴代大河離れをますます加速させることに──。
そんななか1月7日からスタートするのが『光る君へ』。脚本は大石静、主演は吉高由里子で、世界最古の女性文学ともいわれる『源氏物語』を生んだ紫式部をヒロインに、平安の世を描き出す。
はたして『光る君へ』は視聴者を取り戻せるのか。新大河ドラマ『光る君へ』の見どころを、ドラマ評論家の田幸和歌子さんに聞いた。
【1】大石静が描く“セックス&バイオレンス”
「大きな特徴は、ラブストーリーの名手である大石静さんの脚本であるということ」(田幸さん、以下同)
大石静が大河の脚本を手がけるのは2006年の『功名が辻』以来18年ぶり2度目で、今回はオリジナル作品。
「この時代は権力闘争がたくさんあったり、深い情愛があったりなど、大石さんは“セックス&バイオレンスを描きたい”と言っています。
『セカンドバージン』『大恋愛〜僕を忘れる君と』『星降る夜に』といった大石静ファンの女性が大好きな愛、執着、憎しみの世界が大河ドラマで表現される、『功名が辻』とはまた違う、ど真ん中の大石静節が見られるのは魅力」
“セックス&バイオレンス”を大河ドラマがどこまで見せてくれるのか、大いに気になるところだが─。
「平安時代というのは十二単のように衣装を重ねて着ているので、全部脱いだりすることはないだろうし、映像的にスゴイものにはならないはず。ですが、NHKらしからぬ匂い立つようなエロスが見られるのかもしれません」
【2】脚本家直々のご指名でヒロインに
ヒロインの紫式部役を演じるのは吉高由里子。大石静作品には2020年のドラマ『知らなくていいコト』に出演し、複雑な事情を抱える主人公の女性記者を好演している。
今回は脚本家直々の推薦でヒロイン役に起用された。
「『光る君へ』は吉高さんというヒロインありきで出発した作品ではなく、まず企画や大石さんの脚本があって、役のイメージにぴったりだったのが吉高さん。吉高さんを引き立てるためのドラマではなく、まず作品ありき。そこも期待できるところ」
紫式部の本名は歴史的にも定かではなく、本作では“まひろ”と名づけられている。
「まひろは情熱的で多感で好奇心旺盛な女性。吉高さんは多感な役柄を繊細に演じる方なので、どんな紫式部像を見せてくれるのか楽しみです」
【3】吉高のお相手は“元彼” 柄本佑!
紫式部が『源氏物語』に書いた光源氏は、頭脳明晰で愛嬌もあり、光り輝くように美しく非の打ちどころのない男性像。そのモデルは諸説あるものの、有力とされるのが藤原道長だ。
「完全無欠な男性を彩る愛の物語ということで、肝心の道長役は誰がやるのか。脚の長いカッコいい人にやってほしいという声が多くありました」
道長を演じるのは柄本佑。『知らなくていいコト』で吉高の元彼を演じ話題を集めた。
「柄本さんは『知らなくていいコト』で人気が一気に爆発し、あの色気にやられて沼に落ちた女性が多かった。吉高さんとの再タッグに期待している人は多いはず。柄本さんは『光る君へ』でもう一歩上り詰めるのでは。おそらく今回も柄本さんの色気を楽しむドラマになり、ドラマが始まるとそこに話題が集中しそう」
【4】平安時代の元祖シングルマザー
「紫式部は元祖シングルマザーでありワーキングママ。シングルマザーのヒロインを描くという大河ドラマではこれまでにない設定で、それもこの作品のポイントのひとつ」
紫式部は父親ほども年の離れた男性と結婚して娘を授かるも、わずか1年で死別。一人娘の養育のため宮中に上がり、女手ひとつで娘を育てつつ『源氏物語』を書く。
「時代はまったく違うけど、働く女性の苦悩は現代にも通じる部分があるはず。娘を思う母の姿も見どころになるのでは」
【5】美しい衣装とメンズで目の保養
「久しぶりに平安時代を描くということで、きらびやかな世界が描かれていく。普段大河ドラマをあまり好んで見ない層の中には、合戦シーンが得意ではないから、という人が多い。そういう意味では新たな視聴者が取り込める」
物語の舞台は平安時代中期。戦国時代とはまた違い、文化の香りが色濃く漂う。
「美しい衣装がたくさん見られて、色気のあるメンズが見られる。普段大河ドラマを見ていないという女性が、目の保養として映像を楽しみ、女性同士のライバル関係やさまざまな人間関係を楽しむ。今までの大河ドラマにはない楽しみ方ができそうです」
【6】藤原家の豪華顔ぶれに注目
「藤原家がとにかくすごい。魅力的な顔ぶれがズラリとそろった」
まひろのソウルメート・藤原道長を演じる柄本佑をはじめ、藤原家の人々には大石静作品でおなじみの役者が集結。
「まひろの夫の藤原宣孝を演じる佐々木蔵之介さんは『オードリー』の時代から大石作品にたくさん出ていて、最近だと『和田家の男たち』で素晴らしいお芝居をしていました。藤原兼家役はやはり大石作品常連の段田安則さんで、藤原道隆を演じるのは『あのときキスしておけば』に出演した井浦新さん。彼らが大石作品に出ていると安心感がある。
そのほか道長の長女・彰子役を演じる見上愛さん、道長の次兄・道兼役の玉置玲央さん、道長の姉・詮子役の吉田羊さんなど、若手注目株から実力派まで豪華役者勢が集い、藤原家から目が離せません」
【7】女の対決!ライバルはウイカ
清少納言役を演じるのはファーストサマーウイカ。大石静に「会った途端、清少納言だと思った」と言わしめ、今回大河初出演を果たす。
「ウイカさんは今役者として幅広い作品に出ていて、例えばドラマ『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』でもすごくいいお芝居をしてた。ウイカさんの清少納言楽しみだよね、という声が多くある」
『源氏物語』を書いた紫式部と、『枕草子』を書いた清少納言。2人はライバル関係にあったとされている。
「清少納言は自己肯定感が非常に高く、ピュアで陽キャラといわれている人。それに対して紫式部は聡明ながら何かしらほの暗いものを持っていたりと、陰キャエピソードが多い。清少納言のほうがザ・ヒロイン的なタイプで、主人公の紫式部のほうが陰キャというのも面白い。性格の違いだったり、政治的立場の違いだったり、この2人のさまざまな対比がどう描かれるか、何が見えてくるのか。そこもひとつの見どころになりそうです」
【8】清少納言をいびるドSの姫
当時華やかな宮廷サロンの中心人物とされていたのが藤原定子で、彼女に仕えていたのが清少納言。定子は一条天皇の妃と身分が高く、明るく聡明で、心優しいお姫様として慕われているが……。
「定子はとても魅力的なキャラクターで、とりわけ清少納言との主従関係が面白い。定子はみんなに愛されるお姫様なのに、気まぐれで、清少納言に対してだけすごいドSだったともいわれています」
定子を演じるのは高畑充希。清少納言役のファーストサマーウイカとのバトルに注目だ。
【9】モテ男・道長をめぐる女たち
紫式部が少女時代に出会い、惹かれ合う運命の人、それが後の最高権力者・藤原道長。紫式部と道長の縁は生涯途絶えることはなく、ソウルメートとして固い絆で結ばれる。
一方、藤原道長の正妻・倫子は正妻でありながら紫式部とも交流があり、不思議な関係を持つ。もう一人の妻・明子は正妻に立場は及ばず、紫式部にも鬱屈した思いを募らせていく。倫子役は黒木華が、明子役は瀧内公美が演じている。
「正妻と第二夫人に対し、紫式部は道長と生涯離れることなくソウルメートとして関係を築く。紫式部役の吉高さんと、黒木さん、瀧内さん、この3人の女性の道長をめぐる関係は見応えがありそうです」
【10】ヒロインを女性が描く新たな試み
脚本の大石静と主演の吉高由里子に、制作統括チーフプロデューサー、チーフ演出のいずれも女性で、この主要4役を女性が務めるのは大河ドラマ史上初となる。
「これまでの大河は男性が求めるヒロイン像という部分が強くあった。作り手が男性だらけなので、女性からするとどうしても“それ違うんじゃない”となってしまう。けれど『光る君へ』は女性が描く女性の物語。男性が求める女性像ではない、女性たちで作る女性像という信頼感がある。そこはこれまでの女性主人公の大河にはないものでしょう」
女性が作る女性のドラマで大河の低迷脱却を図る。しかしそこにはこんな懸念も──。
「『どうする家康』と同様に、従来の大河ドラマのファンとは違う層を明らかに狙っている。それにより従来の大河ドラマファン、いわゆる合戦シーンが好きな人は脱落するでしょう。ただ大石さんの力量からすると、『どうする家康』ほど脱落者は出ないのでは。
今回の大河は戦ものではなく、文化的な方向に一度シフトして、様子見をしながら感がある。新たな鉱脈を探しているところがある。『光る君へ』にしても、文化好き、文学好きには刺さりそうだし、新しい大河になるのを期待したいですね」
(取材・文/小野寺悦子)