肌や唇の乾燥など、美容の悩みが増える冬の季節。今や美容情報をSNSで探す人も多いが、安易にマネをしてトラブルに陥る人が絶えないという。SNSに出回る“NG”な美容法を医師がジャッジ!
肌に炎症を起こして来院する人が絶えない
ネットにあふれる膨大な美容情報。「有名ユーチューバーがやっていた」、「インスタや女子コミュニティーサイトで話題」となると、ネットで拡散され、影響は絶大だ。
ところが、そのせいで「肌に炎症を起こして来院する人が絶えない」と語るのは、形成外科医であり、危険な美容法への注意喚起を発信し続けている北條元治先生。
「私はヤケド治療など肌の再生医療をはじめ、皮膚科の治療現場に30年以上従事してきました。その経験からしても、医学的にとんでもない美容法が拡散されているのが現状ですね。効果のエビデンスがないばかりか、逆に悪影響を与えてしまうものも多いんです」(北條先生、以下同)
北條先生が特に危機感を抱くのは、間違った美容法で健康な肌が持つ仕組みそのものを壊してしまうこと。
「30代くらいまでなら、多少失敗しても皮膚の再生力があるので乗り切れるかもしれませんが、年齢を重ねるほどダメージの回復が難しくなります。専門知識を持っている人が発信している情報なのかなど、しっかり確認したうえで取り入れてほしいですね」
“角質を取って透明肌に!”とは美容界では聞き慣れたフレーズ。角質を柔らかくする成分を含んだシートを小鼻に貼って取り除いたり、ジェルやクリームを塗って拭き取るピーリング製品が出回っている。
人気ユーチューバーのヒカキンも、足裏全体の角質を削らずにケアできる靴下のようにはくタイプのパックを使用した動画を配信。角質だけでなく、足裏全体の皮がボロボロにむけた映像は674万回も再生され大バズり。
ところが、「角質を取ってしまうことが、そもそも大間違い」と北條先生は指摘する。
角質層が肌をあらゆる刺激や雑菌から守る貴重なバリアに
「皮膚は1か月ほどで生まれ変わる、いわゆる『ターンオーバー』を繰り返しています。皮膚の深部『基底層』で作られた細胞は、有棘層や顆粒層で細胞分裂を繰り返し、上へ上へと上がっていきます。最終段階で皮膚の表面で一生を終え、『角質層』を作ります。この死んだ細胞で形成された角質層が、実は肌をあらゆる刺激や雑菌から守る貴重なバリアになっているのです」(上図参照)
ではピーリングでバリアとなっている角質を無理に剥がしてしまうと?
「適度なバリアがあれば問題ないはずの化粧品や薬品の刺激でかぶれたり、接触性皮膚炎を起こしたり、乾燥しやすくなるなどさまざまな肌トラブルを招きやすくなります」
北條先生が自らの腕で行った実験動画では、ピーリングジェルを使用した後に、皮膚のバリア機能が正常な時には炎症を起こさないはずの「麻酔クリーム」を塗ったところ、ピーリングをした箇所だけが赤くなっていた。
「確かに、ピーリングで小鼻のブラックスポットが消えたり、触ると肌がつるつるになったと感じるかもしれません。でもそれはバリアが破壊されただけ。目には見えなくても、肌がむき出しの無防備な状態になっているのです」
美肌のためと角質を剥がしても、それが原因で肌荒れを起こし、さらにピーリングを重ねるという悪循環に陥る心配があるという。
「そもそも不要な角質は、自然なターンオーバーによって剥がれていくもの。ムリに剥がす必要は全くありません」
また、フェイスブラシを使った洗顔もNG。
「フェイスブラシで毛穴を洗浄するといった、ごしごしと肌をこするようなケアも、確実に角質を傷めます。絶対にやめていただきたいですね。肌にピリピリするような感覚があったら、それは刺激が強すぎる証拠。すぐに使用を中止してください」
食品を使った手作りコスメを作ってみた……という動画が、TikTokやインスタに出回っている。最近では、市販の乳液や洗顔料に砂糖や塩を加えた手作りのスクラブを発信している人も。“食べられるものを使うから安心”“砂糖には保湿力がある”と紹介されているが……。
自己流化粧品よりもよっぽど安全
「スクラブの細かい粒子が角質を傷めるのも問題ですが、そもそも“食べられるから安心”という認識が根本から間違っています。人間の身体にとって、食べ物はあくまでも異物。栄養だけでなく雑菌や毒性のある物質も含まれています。
人はそれを強酸性の胃液で消毒し、消化して解毒することでようやく体内に取り入れているのです。それを肌に直接ふれさせるのは、危険極まりない行為です」
塩より砂糖を使えば刺激が少なくスクラブが作れるという我流の解説もあったが、肌に刺激が強いのは同じ。
その他、食品を使った美容法といえば、昔からレモンパックやきゅうりパックなども定番だ。
「皮膚科では、レモンやきゅうりの輪切りの形に肌が赤くなった患者さんがいまだに駆け込んできます。防腐剤などの添加物はとかく悪者にされますが、市販の化粧品はアレルギーテストや、消費者の安全を守る薬機法をクリアしていますから、自己流化粧品よりも、よっぽど安全ですよ」
ニキビは毛穴に詰まった皮脂に、アクネ菌が増殖して炎症を起こすもの。ニキビに貼るシール状の“ニキビパッチ”には、患部を保護して炎症を抑える効果があるという。
数々の美容系ユーチューバーやインスタグラマーが、コスパも良い韓国製や日本製の商品をオススメしている。ところが、これも「最悪ですねえ」と北條先生。
「アクネ菌を含め、雑菌は空気にふれない環境で増殖しやすくなります。ですから、パッチで塞いでしまうと、ニキビの原因であるアクネ菌を逆に増やすことに。さらには、他の雑菌も増えて化膿するなど悪化する一方です」
また、ニキビパッチの「炎症を抑える成分」についても疑念が。成分に効果があるのは確かでも、それが有効な濃度で使われているかが明らかではない場合が多いからだ。
「医師が使う塗り薬は、個人の症状に応じて濃度などを調整し処方しますが、市販品はその成分を少しでも入れていれば販売ができてしまうんです。宣伝文句に踊らされて、自己判断するのはくれぐれも禁物です」
ガサガサしたり、つっぱったり、肌の悩みの根源ともいえる「乾燥」。乾燥対策として定番の“シートマスク”は、期間限定商品などが出るたびにSNSで話題になる人気アイテムだが、たっぷり水分を与えるほど肌によいという単純な話ではない。
シートマスクを長時間つけるのはNG
「シートマスクでもスチーマーでも、長時間水分を補給し続けると、肌の表面の角質がふやけてしまいます。ふやけた角質は一気に乾くため、そのときにかえって乾燥が進んでしまい逆効果に。もったいないからと長時間つけるのは絶対に避けて、商品の説明書にある使用時間を守ってください」
さらに、その後には「油分」の補給がマストだとか。
「皮膚は脂と水でできています。水だけでは蒸発する一方ですが、脂のおかげで人は干からびないのです。肌の保湿も同じこと。水分を補ったら、よく“ふたをする”といいますが、乳液など油分を多く含んだもので蒸発を防がないとダメ。
水分だけだと肌に浸透しないので、シートマスクや化粧水にもわずかながら油分は入っていますが、より油分の多い乳液を一緒に使わないとケアとしては不十分」
芸能界の“美容番長”田中みな実は、シートマスクを顔にあて、上から乳液を塗って10分間。次にシートをひっくり返して、乳液を塗った側を顔にあて、さらに10分パックをするとか。
「それは、いいですね。水分の後に油分を補うということで、理にかなっています。さすがですね(笑)。私自身も肌が乾燥しやすいので保湿クリームは手放せませんよ。シートマスクも、肌の仕組みを理解したうえで上手に使っていただきたいですね」
取材・文/志賀桂子
北條元治先生 形成外科医。医学博士。肌の再生医療専門家。(株)セルバンク代表。YouTubeチャンネルでは、細胞研究に基づくスキンケア情報を精力的に発信。登録者数は27万人を超える(2023年12月現在)。