「子どもはすぐにできるもの」と思っていたが、半年たっても妊娠できず20代で不妊治療を開始。原因がわからない中で治療に取り組み、4年で子どもを授かった。時東が語る、不安な治療の時期を乗り切った“ポジティブシンキング”―。
夫と一緒に行くのはスタートとしてはいいこと
「結婚して相手がいれば、子どもは自然とできるものだと思っていました」
タレントの時東ぁみはこう話す。しかし、晩婚化、高齢出産の増加で、不妊カップルは約5組に1組といわれる現在、子どもを授かるのが当たり前という考えは、もはや過去のもの。
時東は'16年10月にミュージシャンのDAISHIと結婚し、その半年後には不妊治療を開始。そのとき年齢は29歳。治療を始めるには早いタイミングだが、そこにはどんな思いがあったのか? 『週刊女性』不妊治療記事でもおなじみ『西川婦人科内科クリニック』の西川吉伸院長との対談で、自身の妊活を振り返ってもらった。
時東 私の周りには“授かり婚”も少なくなくて、子どもはすぐにできるだろうと思っていたんです。でも、半年たってもできなくて……。
西川 もともと、生理不順があるとか、生理痛が強いといったことはあったんですか?
時東 生理は不順ではありませんでしたが、生理痛は強かったかなと思います。私の場合、夫が12歳年上ということもあったので、2人で健康診断がてら病院に行こうとなったんです。
西川 旦那さんと一緒に行かれたのは、スタートとしてはいいことだと思います。子どもを授かることは、夫婦2人で成し遂げていかなければいけない共同作業ですから。
時東 片方だけ診断を受けるというのは、確かにおかしな話ですよね。夫の協力とサポートがなければ、子どもを授かった“今”はないかもしれません。
西川 うちのクリニックでも、以前は女性がおひとりでいらっしゃる方がほとんどでしたが、最近は80%くらいがご夫婦で来られますよ。時東さんがおふたりで最初に検査を受けられたときの結果はどうでした?
時東 夫婦とも、特に異常はありませんでした。
西川 スクリーニング検査をして何も問題がなかったということが、正常であるということではないんです。隠れた部分があって、逆に言ったら厄介なのかもしれない。
時東 そうなんです! 私は原因が知りたかったので、何か見つかってほしかったんです。異常はありませんと言われたときは、うれしい反面、じゃあどうすればいいの?って。
西川 時東さんが受けられたのはステップアップ療法で、最も妊娠しやすいタイミングに性交渉をするタイミング法を行い、そこから人工授精、体外受精へ移行していく方法ですね。それで半年間、6回タイミング法をやって、人工授精に移ったと。
時東 はい、そうです。
1つ目の病院で5回人工授精
西川 そこで、確実に精子を送り込んでいるのにもかかわらず、妊娠しないこともあるんですよ。
時東 どうしてですか?
西川 ひとつは、卵管のピックアップ機能がちゃんと働いているか。それから子宮内の環境が悪くないか、といったことが関係してきます。内膜症などが受精を阻害している可能性も考えられますね。
時東 私、1つ目の病院で5回人工授精したんです。
西川 5回は多いですね。
時東 そうなんです。年齢的に20代だったので、やらせてもらえたと思うんですけど、こんなにトライしてできないんだ、って……。だいたい、2~3回で体外受精にステップアップといわれますよね?
西川 38歳くらいになると2~3回やってダメなら、それ以上はほとんど結果が出ない。40歳を超えている人は、1回でダメなら人工授精では妊娠は難しいというデータもあります。もちろんゼロではないですけどね。
時東 検査で調べても異常がないのに、自然妊娠も人工授精でもこんなに妊娠できない、ってすごく不安になるんですよ。私は5回トライしてから体外受精に移りましたが、夫の年齢の関係もあったんでしょうか?
西川 それはちょっとわからないな……。でも、それだけ人工授精をして妊娠しなかったということは、ひょっとしたら受精障害が隠れていたかもしれない。
時東 そうですよね、確かに。
西川 それを調べるためにスプリット法といって、精子の状態さえよければ、例えば卵子が10個取れたら、5つずつに分けて片方はふりかけ法、もう片方は顕微授精を行うという方法があります。
時東 なるほど!
西川 ふりかけ法の卵子がまったく受精していなかったら、受精障害があったんじゃないかな、と推測するわけです。10個すべてが空振りしないよう、確実にレスキューするために、最初はこういうスプリット法をやるところが多いですね。
病院に不信感を持ってしまい……
時東 それ、素晴らしいですね。知りませんでした。
西川 ただ、卵子に受精能力があっても毎回違うから、持ってきた精子があまりよくなければそのときは顕微授精にするとか、臨機応変にやらなくてはいけないんだけど。時東さんが行かれた病院では、すべて顕微授精でやったほうが確実だと判断したのかもしれませんね。
時東 そうかもしれないですね。初めての顕微授精のとき、30歳になったばかりだったけど、全部で7個しか卵子が取れなかったんです。結果、そこから胚盤胞になったのが1つだけでした。
西川 例えば、AMH(アンチミューラリアンホルモン)などは測られました?
時東 卵巣予備能がわかる検査ですよね? 実年齢より上でした。
西川 AMH値が高くて、卵子が7個しか取れなかったということですが、時東さんの年齢で考えると7個は少ないかもしれない。
時東 やっぱりそうなんですか?
西川 ただ、排卵誘発にも、あまり身体に負担をかけずに取ろうという方法と、いっぱい取ってその中からいい卵子だけを選んで凍結保存するという方法があるから。時東さんの誘発法がどうだったかわからないけど、高刺激の方法でやったらもっと取れていたかもしれない。
時東 やっぱり、刺激によっていろいろ変わるんですね。
西川 先生によって、自然に近い方法でやっていく人と、たくさん卵子を取ってその中からいいものだけを選んで凍結し、1個ずつ戻す方法をとる人もいます。時東さんは1回顕微授精をされてから病院を移っていますね?
時東 はい。最初に通院していた病院の先生が、卵子を戻すときに違う病院に移ることになって。私的には最後まで診てよ、という気持ちで不信感を持ってしまい……。そこで1年間ほど治療を休んで違う病院に移りました。
西川 1年間、お休みしていた理由は?
時東 自分自身の身体を整えようと思ったんです。このまま続けて、いくら卵子を取っても同じかなって。漢方を飲んだり、トレーニングをして骨盤の矯正をしたり。できる限りのことはしようと。
妊娠する身体をつくっていくことは大事
西川 なるほど。その後に治療を再開されて、ご自身は何か違いを感じました?
時東 生理痛がひどくて、寝る前に痛み止めを飲まないと寝られない時期もあったんですけど、それが治りました。あと冷え性もあったんですけど、全然マシになって。
西川 血の巡りがよくなったんですね。血行がよくなれば、子宮の内膜にも回りますし、老廃物も代謝されます。ホルモンだって必要なものが細部に供給されるようになりますから。
時東 やっぱりそうですよね! 転院して2回目の採卵で12個取れました。ただ、使える卵子は3個だったんです。
西川 なるほど。
時東 そして、1回目にいちばんいいといわれた卵子を1個戻したんです。でも着床しなくて……。そこで2回目には2個戻してみましょうと提案されました。
西川 それは、1回目に戻した卵子よりも質が落ちると言われたもの?
時東 はい。しかも、2回目はタイミングをとって自然にしてみましょうと。普通は薬でホルモンを補充するじゃないですか。それをやらないで、自然周期に合わせてと先生から言われて。
西川 卵巣から自然に出るホルモンで、サポートする方法ですね。
時東 最初、自然にできなくてホルモン補充をしたのに、逆に自然に戻すと言われて不安になったんですけど、なんとそれで着床したんです。
西川 時東さんは1年間、身体を整えましたけど、妊娠する身体をつくっていくことは大事です。妊娠できない人の原因として7割は卵子なんですけど、3割は着床の問題なんです。受け入れ側の子宮に異常があれば、いい卵子を戻しても着床しません。
時東さんのように血行をよくして、子宮という“ベッド”の状態をよくしたことは非常に大きいと思います。
時東 何か今日は、自分のやってきたことの答え合わせができたみたいでうれしいです(笑)。
西川 それはよかった(笑)。ところで、2人目ということは考えていらっしゃる?
時東 私、36歳になりましたが、考えています。1人目は保険適用の前で経済的にも大変でしたが、今は保険が利くじゃないですか。
西川 今は、40歳未満なら受精卵を凍結して胚移植するのに6回まで、保険を使うことができますから。
“芸能人だから”という目で見られたのはつらかった
時東 6回ですか!
西川 オプション以外の採卵や体外受精、顕微授精、胚培養なども適用です。
時東 私が治療中のときはまだ保険適用前で、“芸能人だからお金があってできるんでしょ?”という空気があったんですよ。いやいや、私だってすごい勢いで貯金がなくなっているし、って(笑)。
頑張っているのに“芸能人だから”という目で見られたのはつらかったですね。でも、そういう空気が保険適用で緩和されるのはいいことだと思います。
西川 保険適用になったことで、お金の面もだけど、公に治療していますよ、と認められたことは大きいですね。これまで不妊治療というものは、ほかの人には知られないで行う、というイメージが強かったから。
時東 確かにそうですよね。私の場合、仕事の面では時間をずらすとかある程度、融通を利かせることはできましたけど、一般の会社で働いている方が通院されているのを見ていると、病院の待合室でパソコンを広げて仕事していたり。会社も治療している人の都合を考えてあげられればいいのに、と思っていました。
西川 最近は不妊治療のためにお休みを取れるようにもなってきていますから。ようやくいい方向に向かっていますね。
時東 本当に、病院に行きやすくなることが大切だと思います。あと、気になることは先生に全部質問すること。だって、知らないことだらけなんですから。
西川 そうですね。そこは大事だと思います。ほかに時東さんから今、不妊治療に取り組んでいる人に伝えたいことはありますか?
時東 そうですね……。治療中に生理が来ると“ダメだったか”と落ち込むと思いますけど、私は発想を変えて“ここからがスタート”と思うようにしていました。そして、そのタイミングで自分がリフレッシュする方法をひとつ持っていること。お酒を飲む、小旅行へ行く。妊娠したらできないこと、今やっちゃえ!って。
西川 次のスタートのためにリフレッシュするというのは、素晴らしいアドバイスですね。ぜひ、第2子もご夫婦で頑張ってください。
時東 はい、ありがとうございます!
取材・文・撮影/蒔田 稔
西川吉伸 西川婦人科内科クリニック院長。医学博士。医療法人西恵会理事、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会会員、日本受精着床学会会員、大阪産婦人科医会代議員ほか
時東ぁみ 『ミスマガジン2005年つんく♂賞受賞』をきっかけにデビュー。“元祖メガネっ娘アイドル”の愛称で親しまれる。歌手、舞台、イベント、防災士など幅広く活動する。防災士の資格を生かしラジオ番組、イベントに出演。【レギュラー】NHKFM『ラジオマンジャック』(毎週土曜日16:00~) 時東ぁみ公式ブログ「ぁみログ」https://ameblo.jp/tokito-ami/ Facebook「防災士時東ぁみ」https://www.facebook.com/bosaisi.TOKITOaMI/