年末年始にのんびりできる人は、話題の漫画を読んでみては? いま人気があるのは、シニアが主人公として描かれている作品だ。
年をとることに前向きになれる
「“シニア漫画”はすでにひとつのジャンルとして確立しています。テーマは、ギャグ中心のものから、認知症や看取(みと)りといったものまであり、とても多彩です」
と教えてくれたのは、北九州市漫画ミュージアムの図書担当である原田佳織さんだ。
「このジャンルの多くの作品は、シニアが直面する老いや介護などの社会問題を描いていますが、そこに若者との交流を織り込むなどして、エンターテインメントとしても上質にまとまっています。
それが、若者から高齢者まで幅広い世代に愛されている理由なのだと思います」
人気の高い作品はドラマ化や映画化もされているシニア漫画。その始まりは1960年代にまでさかのぼる。
「シニア漫画の元祖のひとつは長谷川町子さんの『いじわるばあさん』です。ドタバタ喜劇でありながら、高齢化社会の問題点も描いた作品です」
時代が進み、1990年代には還暦を迎えた女性3人の共同生活を描いた『ルームメイツ』(近藤ようこ)や、中高年同士の恋愛を描いた『黄昏流星群』(弘兼憲史)が人気を博した。
「さらに2010年以降はシニア漫画の作品数が増え始め、夫に先立たれたシニア女性が外の世界に触れて変わっていく様子を描いたものが話題になっています」
老々介護や認知症、看取り、終活、終のすみかなどの重いテーマを扱った作品もあり、リアルな悩みを描き出すシニア漫画。
しかし、読み進めるうちに、年を重ねることに対してポジティブになれることが大きな魅力だと原田さんは語る。
「作品には、人生を謳歌(おうか)して新しいことに挑戦するシニアの生き生きとした姿が描かれています。人生を楽しく、自分らしく生きるための参考書にもなるんじゃないかと思っています」
《宝島社このマンガがすごい!2022オンナ編第1位》《ananマンガ大賞 準大賞》
65歳で映画作りの道へ――夢を諦めないヒロインの姿に勇気をもらう
夫と死別し、数十年ぶりに映画館を訪れた65歳のうみ子は、そこで映像専攻の美大生・海に出会う。海の「今からだって死ぬ気で映画を作ったほうがいい」という言葉をきっかけに、自分は映画が撮りたい人間なのだと気づいたうみ子は、映画作りの道へと足を踏み入れていく。
ここに注目!
「好きなことに挑戦するのは年齢に関係なく勇気がいるものです。夢に向かって船をこぎ出したうみ子の姿は頼もしく、何かを始めるのに遅すぎることはないと背中を押してくれます」(原田さん、以下同)
『セブンティウイザン』《ドラマ化》
「70歳で出産」ありえない設定だけど愛にあふれる家族の姿にもらい泣き。
65歳の夫・朝一と、70歳の妻・夕子。40年間、子宝に恵まれなかった老夫婦にまさかの妊娠が判明。70歳という超高齢での妊娠、出産、幼稚園への入園を描いた子育て漫画。好評を受け、小学生パートを描いた続編も連載された。
ここに注目!
「非現実的な設定でありながら、高齢出産によるリスクや周囲の反応がリアルに描かれています。子育ての大変さや楽しさを感じる一方で、終活という一面もあり、今という時間の大切さを教えてくれます」
『ミカコ72歳』
こんなおひとりさまも悪くない。72歳の緩く楽しい日常に心がポカポカ温まる。
夫を亡くしたばかりの72歳のミカコ。ひとり暮らしを心配した子や孫にスマホを持たされたところ、亡くなった夫のSNSアカウントに偶然つながってしまう。返事のこない相手に、何げないメッセージを送り続けるミカコの日々を描いた作品。
ここに注目!
「亡き夫のSNSへメッセージを送るミカコの姿は、周囲から見ると切なくも感じますが、本人はいたってマイペースにひとり暮らしを楽しんでいます。ありのままの自分を受け入れてくれるような作品です」
『島さん』《第14回カミカゼ賞佳作受賞》《SNS発漫画》
深夜のコンビニに勤務する、穏やかで一生懸命なベテラン店員の島さん。大小さまざまなことが起こる夜のコンビニを舞台に、背中に入れ墨のある島さんと、人々との心温まる交流を描く。SNSで公開され人気を博した作品。
ここに注目!
「人は間違える生き物です。そんなときに説教するのではなく、何度だってやり直せるよと過ちを正しながらもそっとそばに寄り添ってくれる、素朴な丸刈り頭で白髪の島さんの包容力に心がじんわり温かくなる作品です」
『傘寿まり子』《講談社漫画賞一般部門》
作家として生きてきた80歳のまり子は、自分が息子や孫夫婦から邪魔者扱いされていることに気づき、家を出る決意をする。そんな中、長年執筆してきた雑誌から打ち切りを言い渡され、新しいウェブ雑誌を立ち上げる夢をかかげて動き出す。
ここに注目!
「介護や医療など、重苦しい社会問題がリアルに描かれていますが、前向きな姿勢でさまざまな試練を乗り越えていくまり子の姿は爽快。年をとることも楽しそうと、シニアライフへの希望が湧いてきます」
知られざる名作をご紹介!
『はなものがたり』
女性の心に寄り添うシニア漫画。
長年連れ添った夫を亡くしたはな代と、独り身で化粧品専門店を営む芳子。まったく違う人生を歩んできたふたりが出会い、惹かれ合い、互いを知っていくことに。
読んでほしい!おすすめポイント
「年々、さまざまなシニア漫画が登場していますが、基本的にはシニアとしての生きづらさがメインで描かれています。しかし、この作品では“女性はこうあるべきだ”という女性観が描かれていることが特徴的です。
シニア漫画の主人公と同世代の人は、こういった固定観念に縛られ、悩まされた経験があるのではないでしょうか。はな代は『ある時代の常識は何十年もたてば非常識になる』と自信を取り戻しました。
ぜひこの作品を読んで、古い価値観や周囲の言葉を気にせず、毎日を楽しんでもらえたらと思います」
取材・文/後藤るつ子