箱根駅伝 撮影/北村史成

 '24年1月2、3日に開催される第100回箱根駅伝。特別ルールによって、例年より3校多い、全23校が熱い戦いを繰り広げる。今回は関東に限らず、全国の大学に予選会の門戸が開かれたが、関東以外で本戦出場を決めたチームはなかった。

箱根駅伝経験者・和田正人の優勝大本命

 日本大で箱根を走った経験を持つ俳優・和田正人の優勝大本命は、

「駒澤大以外考えられないですね。出雲駅伝(10月9日。以下、出雲)も全日本大学駅伝(11月5日。以下、全日本)も全区間でトップを譲ることなく、完全制覇。ここまで強いチームは近年、見たことないです」

鈴木芽吹選手●駒澤大4年・経営学部。駒澤大キャプテン。出雲6区で区間賞と好調。卒業後はトヨタ自動車へ 写真/アフロ

 その圧倒的な強さの秘密はどこにあるのか?

「駒澤大は'23年から、藤田敦史監督が就任。“男だろ!”でおなじみの大八木弘明さんは“総監督”としてチームに携わっているので、やっていることは変わっていない。キャプテンの鈴木芽吹選手(4年)や篠原倖太朗選手(3年)、佐藤圭汰選手(2年)らスーパーエース級がズラリ。また“学生最強”だった田澤廉さん(トヨタ自動車)は卒業後も引き続き大八木総監督の指導を受けていて、鈴木選手らは田澤さんとともに質の高い練習を積めているんですよね」(和田氏、以下同)

 駒澤大は昨年度、出雲・全日本・箱根を制し、同大初の“三冠”を達成している。

「今年度のチーム目標は、“歴代最強だった昨年度を超える”。鈴木選手を筆頭に、守りに入ることなく、常に去年のチームをターゲットにして、挑戦する姿勢を崩さずやってきました。全日本の7区で無理する必要はないのに、攻めの走りをしたとおり。その思いが他の選手にも伝播し、全員で同じ夢を追えています。選手層は厚く、チームに隙がまったくないんですよね」

 史上初となる、2年連続の学生駅伝三冠は目前か。不安材料はないのか?

「ないですね。全日本ではチーム7、8番手の選手まで区間賞に輝いていて、最強です。さらに前回5区4位の山川拓馬選手(2年)と6区区間賞の伊藤蒼唯選手(2年)がいるので山対策も万全でしょう。もちろん、何が起こるかわからないのが駅伝ではあるんですけど」

打倒駒澤は三つ巴の争い

 そんな駒澤大に対抗できそうな大学を挙げるなら?

唯一、倒せるところがあるとするなら青山学院大。最近の三大駅伝では所々でブレーキがあったんですが、全日本では駅伝らしい駅伝ができて、2位。最終の8区で田中悠登選手(3年)が、國學院大と中央大との三つ巴の争いで勝ち切ったのは大きい。

 ただ、佐藤一世選手(4年)と太田蒼生選手(3年)がエースとしての走りができていなかった点は気になりました。ミスなく、完璧に運べれば、駒澤大といい勝負ができる可能性はあります。青学大の選手はよく“箱根で化ける”ので、そうなったら面白いですね」

佐藤一世選手●青山学院大4年・総合文化政策学部。出雲、全日本は苦戦するも11月の1万mで自己新 写真/アフロ

 2、3位争いは青学大、國學院大、中央大で激しく繰り広げられそう。

國學院大はやっぱり強いですよ。伊地知賢造選手(4年)、平林清澄選手(3年)、山本歩夢選手(3年)の“3本柱”がいますから。前回の箱根は4位で、出雲4位、全日本3位と上位に名を連ねる常連校になっています。駒澤大には勝てずとも、2位は狙っているはず」

 和田は中央大をやや不安視している。

「エースの吉居大和選手(4年)を中心に、中野翔太選手(4年)や溜池一太選手(2年)ら力のある選手がそろっているんですが、なんとなくチームが噛み合っていない気が……。前回2位と躍進したように、2区で吉居選手が勢いをつけて流れに乗れば、そのまま行けるでしょうけど」

吉居大和選手●中央大4年・法学部。前回、花の2区で区間賞。弟は駿恭選手(同大2年) 写真/アフロ

 上位校にミスがあればトップ3に入ってきそうなのは、この2校。

「まず城西大。出雲3位、全日本5位と、ここまで堅実な駅伝ができていて、箱根では山上りが強いので面白い存在です。“山の妖精”と呼ばれている前回5区区間新の山本唯翔選手(4年)の走りは必見です」

 そして前回8位ながら、出雲では2位に食い込むなど、力をつけている創価大。

「注目は東海大から編入という異色の経歴を持つ、吉田響選手(3年)。1年のときは5区で区間2位と好走しています。両校とも、留学生も山上り経験者もいるのが強みですね」

 前回5位の順天堂大に和田は首をかしげる。

「出雲で10位、全日本は11位と苦戦。東京五輪の3000m障害で7位入賞の三浦龍司選手(4年)や超大型ルーキーの吉岡大翔選手(1年)らがいるのに、うまく生かし切れていない感じがします」

伝統校がぞくぞくと箱根路に復活

 低迷からの復活。伝統校も続々と箱根に返り咲き。

東京農業大の前田和摩選手(1年)は予選会で日本人トップでした。この強さは本物! 近いうちに学生長距離界No.1になりそうな選手です。ほかにも並木寧音選手(4年)など2、3人強い選手がいます。伝統校ですから、戦い方のノウハウもあるでしょう。10年ぶりの“大根踊り”も楽しみです」

前田和摩選手●東京農業大1年・国際食料情報学部。予選会で日本人トップ。全日本2区でも3位ながら区間新 写真/アフロ

 大東文化大も楽しみな存在だという。

「一時期低迷していましたが、昨年、真名子圭監督が就任するとメキメキよくなりましたね。全日本では7位でシード権を獲得。予選会では留学生ピーター・ワンジル選手(3年)の棄権があったにもかかわらず、日本人選手だけで1位に。期待できます」

 和田の母校、日本大も4年ぶりに箱根路へ。

「今年、新雅弘監督が就任しました。1年目から結果を出したのはすごいのひと言。倉敷高校を3度の全国優勝に導いていて、高校生と向き合ってきたからか、乱れた生活や規律などを立て直すのがうまい。選手のリクルートでも強豪高校とのつながりがあるので、これから強くなっていけるのでは?」

 翌年の大会に出場できるシード権は、10位までに与えられる。

シード権を失いそうな大学は?

今回は入れ替わりが激しそう。シード権を失いそうなのは順天堂大、東洋大。ゲットしそうなのは、大東文化大や帝京大あたりでは?」

 また駒澤大が強ければ強いほど、下位とのタイム差は広がる。襷がつながらないチームが続出する可能性も。

「個人的には、節目の記念大会には何かが起こる気がしていて。予想だにしなかったドラマを期待しますし、みなさんには全チームのゴールを見届けてほしいです」

和田正人●日本大学陸上競技部OB。箱根駅伝で9区を2度走った経験を持つ。『NHKラジオ箱根駅伝』のゲスト解説を'24年も務める。 撮影/山田智絵
和田正人●日本大学陸上競技部OB。箱根駅伝で9区を2度走った経験を持つ。『NHKラジオ箱根駅伝』のゲスト解説を'24年も務める。

(取材・文/荒井早苗)