'17年に上野動物園で誕生し、'23年2月に中国に返還されたメスのジャイアントパンダ「シャンシャン」。彼女が日本をたつ日には、動物園や空港に多くのファンが詰めかけ、涙ながらに別れを惜しんだ。そんなシャンシャンが、10月初旬に中国で一般公開され、同国でも人気を博しているという。しかし、パンダ情報通の雑誌編集者A氏は「パンダ大国・中国では“シャンシャン一強”とはいかない」と、実情を語る。
「中国にはシャンシャンのライバルがたくさんいるんです。そのうち1頭が、四川省にいるメスのパンダ『和花(ホーファ)』。彼女は同年齢のパンダよりもひと回り小さく、首もモフモフで脚が短いので“おにぎり”の愛称で親しまれています。そのほか、北京動物園で横開脚を披露するオスのパンダ『萌蘭(モンラン)』も人気です。もしかしたら、中国はアイドルパンダ戦国時代に突入しているのかもしれません」(A氏)
日本で生まれたシャンシャンが中国でどんな活躍を見せるのか、まだまだ目が離せない! そこで今回は、日本をはじめ世界のパンダ最新事情をご紹介。パンダを愛するすべての人に贈ります!
世界中のパンダ推しが上野動物園に
今年9月に発売された『グローバルな視点を身につけよう パンダといっしょに学ぶ 世界のことわざ』(マイクロマガジン社)は、フランスやモンゴルなど世界中のことわざを学びながらパンダの写真を愛でられる一冊。“パンダ×世界のことわざ”というアイデアの原点は、聖地・上野動物園にあるという。現在はシャンシャンの弟妹であるシャオシャオとレイレイの可愛らしさで沸く同園だが、さまざまな客層が見られるようで……。
「書籍のネタを探すために上野動物園のパンダ舎に行ったところ、たくさんの外国人観光客がパンダを見ていたんです。身体中にタトゥーが入ったいかつい外国人男性3人組が、1時間半パンダ舎の列に並ぶ姿に驚きました。その光景を見て『パンダと世界を絡めたら面白い本になるはず』と考えたのがきっかけです」
そう話すのは、同書の編集を担当したマイクロマガジン社の清水龍一さん。グローバルに愛されるパンダの実力を目撃した清水さんは、さっそく書籍の制作に取りかかったという。
「掲載されている写真はすべて、人気ブログ『毎日パンダ』を運営している高氏貴博さんが撮影したものです。高氏さんは、'11年から休園日も含めて毎日上野動物園に足を運び、パンダの写真を撮っている有名人。仕事をしながら4時間パンダ舎の行列に並び、写真を撮って再び並びながら仕事をするなど、仕事とパンダを両立しているとてもストイックな方です」(清水さん)
高氏さんが10年以上撮りためたパンダ写真は600万点以上。清水さんは、世界と日本のことわざを調べつつ、内容に合ったパンダの写真を選ぶ作業に追われた。
「この一連の作業がとても大変でしたね(笑)。制作中は、私のデスクが辞書で埋もれていたので、上司には『受験生みたいだな』なんて言われていました」(清水さん)
約半年間、ことわざとパンダに向き合った清水さんの苦労が実り、発売後の反響も上々とのこと。
「高氏さんには遠く及びませんが、この仕事を通して私もパンダ好きになりました。パンダファンの方はもちろん、小さなお子さんにも楽しんでもらいたいです」(清水さん)
シャンシャンと中国で感動の再会
“未来を担う子どもたちの学びになるなら”と同書の制作に協力した高氏さんにも、パンダとの出会いやその魅力を語ってもらった。
「'11年の夏、仕事の空き時間にフラッと入園した上野動物園でパンダを見たのがすべての始まり。そのときに見たパンダは可愛いだけでなく、しぐさやシルエットが人間くさかったり、ユニークだったりと、とても魅力的でした」(高氏さん)
パンダに一目惚れした高氏さんは、その日のうちに上野動物園の年間パスポートを購入。翌日から毎日パンダ舎に立ち寄り、彼らの写真を撮るのが日課になったという。その後、パンダ専門のブログ『毎日パンダ』を立ち上げ、現在もパンダの可愛さを発信している。
「パンダの後ろ姿や寝ている姿は、脱力感があって大好きです! もちろん、正面を向いておいしそうにごはんを食べている姿もとても可愛い。春のごちそう『たけのこ』を食べているときは、顎が外れそうなほど大きな口を開けてかぶりつく様子が豪快だったり、幸せそうだったり、とても良い表情をしていて愛らしいです」(高氏さん)
コメント一つひとつから、パンダ愛があふれる。そんな高氏さんにとって、パンダの可愛さに気づかせてくれた、リーリーとシンシンも大切な存在だが、2頭の愛娘・シャンシャンにはより特別な思いがあるそう。
「シャンシャンが、誕生してから中国に旅立つまで、彼女の成長は国民的な関心事でした。私を含めて、多くの人が自分の子どものように成長を見守ってきたので、思い入れも深いです」(高氏さん)
シャンシャンの旅立ちも、笑顔で見送ったという高氏さんは11月、中国でシャンシャンとの再会を果たしたという。中国訪問時の『毎日パンダ』には、9か月ぶりにシャンシャンが登場。新しい環境に慣れたシャンシャンの様子を実際に見て「とっても安心しました!」と安堵の言葉を添えて写真を投稿している。
Kawaiiではないアメリカのパンダ観
このように、中国と日本ではジャイアントパンダは高い関心を集める存在だが、ほかの国でもパンダは“注目の的”なのだろうか。北九州市立大学で和製英語の研究を行うアン・クレシーニさんは「日本人とアメリカ人とでは、パンダを可愛いと感じるポイントが違う」と話す。
「日本はアメリカに比べて可愛いものが好きな大人が多く、パンダのキャラクターもたくさんいますよね。実物のパンダにキャラクター的な愛らしさを見いだしているのも、Kawaii文化が根づいている日本の特徴といえます。また、私が日本のパンダと聞いて思い浮かべるのは'90年代に起きた『たれぱんだブーム』。当時、日本では、子どもも大人もたれぱんだのグッズを持っているのが印象的でした」(クレシーニさん)
もともと、アメリカでは可愛いキャラクターグッズ=子どものアイテムというイメージが強く、大人になると男女問わず「カッコいいもの」を求める。そのため、日本人のように“可愛いキャラクターグッズを身につける大人”は少数派だという。
「アメリカで人気のパンダといえば'08年に公開された映画『カンフー・パンダ』の主人公・ポーです。同作の場合は、ダメな主人公が修行を積んでカンフーマスターになるストーリーや、ヒーローっぽくないキャラクターの設定がヒットにつながりました。アメリカ人は見た目の可愛さよりも、応援したくなるキャラクターに魅力を感じるようです。同じ動物のキャラクターでも、誕生する国によって求められる要素が大きく異なるのは、とても興味深いですよね」(クレシーニさん)
国によって異なるパンダ像。海外でパンダがどのように描かれているのか調べてみると、新たな発見があるかもしれない。
人気急上昇のアイドルグループ『熊猫堂ProducePandas』?
パンダの故郷、中国にいるのはクマ科のパンダだけではない。中国では、短髪の黒髪と蓄えたヒゲ、そしてパンダのような福々しい愛らしさの男性アイドルグループ「熊猫堂ProducePandas(くまねこどうプロデュースパンダ)」が、“パンダ”界の超新星として注目を集めている。
2020年に中国のオーディション番組から生まれたグループで、日本でのCDデビューは2021年。2023年12月初旬には日本で初ライブを行い、愛嬌たっぷりのビジュアルから繰り出されるキレのあるダンスと圧倒的な歌唱力で、満員御礼の会場を魅了したとか。気になる人はSNSやYouTubeをチェックだ!
『グローバルな視点を身につけよう パンダといっしょに学ぶ 世界のことわざ』(税込み1430円 マイクロマガジン社)
取材・文/大貫未来 書籍内の撮影/高氏貴博
(C)高氏貴博・マイクロマガジン社