財津一郎さん

「訃報が出た後、会社には“CMを続けてほしい”という声がいっぱい届きました。その理由としては、みなさん一様に“子どもが泣きやんでくれるCMなんだから”と言ってくれるんです。それがすごくうれしくて、20年以上やってきて本当によかった」

「ピアノ売ってちょーだい!!」

 男性がこう語るのは、2023年10月14日に亡くなった財津一郎さんへの思いだ。

 財津さんは、コメディー番組『てなもんや三度笠』に出演して人気に。その後、俳優としても活躍。しかし、日本中の老若男女から財津さんの顔が認知されるキッカケとなったのは、

「ピアノ売ってちょーだい!!」

 のフレーズで知られる『タケモトピアノ』のCMだろう。冒頭の言葉は同社の竹本功一会長のもの。続けて話す。

「11月2日にテレビ中継された野球の日本シリーズで、財津さんが登場しないわが社の業務を紹介するCMを流させていただいたんです。すると視聴者から“こんなCM流すな”“ピアノを修理する映像なんかどうでもいい”とか、本当にさまざまなご意見をちょうだいしました。だから、財津さんが登場するCMを使いたいという気持ちがフツフツと湧き上がってきて……」

 財津さんとのCM契約は、2023年7月に終了することになっていた。しかし、何とか継続したいと竹本会長が動き、9月末まで契約を延長した経緯がある。財津さんが逝去したのは、その2週間後のこと。『タケモトピアノ』と財津さんは、長年にわたって“伴奏”を続けてきた。そこで竹本会長が再び立ち上がる。

「広報に“さよなら、財津先生という形で使えないかな”と言ったんですが、無言でした。気持ちはわかるけど……という顔をしていましたけど、これ以上しつこく言うと怒られそうなので“冗談、冗談”と言って引き下がりました。本当は冗談なんかじゃないんですけどね」

 会長という立場なのだから、命令ひとつで実現できそうな気もするが……。

「ワンマン経営ではありますが、社員の意見はよく聞くんです(笑)。実は今、新CMを制作しているところなんですよ。腕のいい監督に頼んで、イチから作っています。2024年の春には公開したいな、と。内容ですか? それは見ていただくまでのお楽しみです」

アカデミー賞に財津さんが登場!?

 11月13日には東京へと足を運び、財津さんの所属事務所の社長と会った。

「これまでの感謝を伝えつつ、1時間ほどお話ししました。そのとき、社長さんが“これ竹本さん見てなかったでしょう”と言って、2022年の暮れに生前の財津さんを撮った動画を見せてくれたんです。その動画では財津さんは私に向けて“こんなに長く使ってもらえるとは思わなかったよ。竹本さん、元気にやってる? 死ぬまでやるから頼むよ!”と、力強く話されていました。それを見たら、涙が出て……。財津さんには感謝しかありません」

赤ちゃんが泣きやむと話題になった財津一郎さん出演のタケモトピアノのCM

 12月中旬には会社に、ある封書が届いたという。

日本アカデミー賞協会からで、2024年3月に開催される授賞式で財津さんのことを取り上げたいというんです。なのでウチにある財津さんの写真などを貸してほしいという依頼でした。具体的なことはわかりませんが、個人的な気持ちとしては、生前に賞を贈ってほしかったですね」

 どんな賞なのか、楽しみにしてチョーだい!