1964年に発売され今年で60周年を迎える『かっぱえびせん』。今では定番お菓子として愛され続けているが、過去にはリニューアルで売り上げが落ち込む時期も。そんな『かっぱえびせん』の誕生から知られざる裏話まで、ロングヒットの秘密に迫った。
人々の健康に役立つ商品作りを目指すために誕生
「やめられない、とまらない~♪ カルビー、かっぱえびせん♪」の名フレーズでおなじみの『かっぱえびせん』。日本に住んでいる人なら一度は口にしたことがあるだろうスナック菓子が、今年、発売から60周年を迎える。
2022年度の生産袋数は、驚きの約1億6000万袋(!!)。1日に換算すると、なんと毎日約53万袋が生産されていることからもわかるように、今なお愛され続けるロングセラー商品だ。
『かっぱえびせん』の生みの親である『カルビー』は、1949年に広島県広島市に設立された『松尾糧食工業(株)』を母体とする。
その6年後、社名を『カルビー製菓(株)』に変更。カルビーという名は、カルシウムの「カル」と、ビタミンB1の「ビー」を組み合わせて名づけられた。人々の健康に役立つ商品作りを目指す─。その思いが、名菓『かっぱえびせん』を生んだ。
「前身商品に、1955年に発売された『かっぱあられ』という小麦製あられのお菓子がありました。当時は、戦後間もないころだったため食料難の時代。創業者の松尾孝は、おいしくて栄養豊富、かつ腹持ちが良いものを食べさせたいという思いから、商品開発をしたという経緯があります」
そう話すのは、かっぱえびせんチーム・ブランドマネジャーで、マーケティング本部の塩崎高広さん。栄養価があり、比較的安価で手に入れられる小麦に着目し、『かっぱあられ』は作られたそうだ。気になるのは、“かっぱ”というネーミング。
「その時代、『かっぱ天国』というマンガが流行っていたのですが、創業者の松尾孝が大ファンでした。“かっぱ”という語感がキャッチーで、ネーミングとしてちょうどよいのではないかと。『かっぱ天国』の作者である清水崑さんにお会いし、承諾をいただくことで、『かっぱあられ』と名づけました」(塩崎さん、以下同)
狙いどおり、『かっぱあられ』はヒット商品となり、会社の看板商品へと成長した。だが、「よりおいしい商品」を目指すため、さらに進化させる研究をやめなかった。
「『かっぱえびせん』は、『かっぱあられ』発売開始から9年後の1964年に発売されます。その間、26回の試行錯誤を繰り返したのち、作り上げたという記録が残っています。小麦製のあられというベースは変えずに、どうすればよりおいしく健康的な商品になるかを考え続けました」
創業者の好物だった川えびの天ぷらが原点
その過程でひらめいたのが、“えび”だった。
「小さいころ、創業者の松尾孝はよく川えび捕りをしていて、そのえびを使った母親の天ぷらが好物でした。川えびの天ぷらのようなお菓子を作れば喜んでもらえるのではないかと思い、現在まで続く、天然えびが殻も丸ごと入った『かっぱえびせん』は誕生しました」
同商品は、キシエビ、サルエビ、アカエビ、ホッコクアカエビ(通称甘えび)など数種類の天然のえびをブレンドし、頭からしっぽまで殻ごとすべて入っている。「カルシウム入り」とうたうのは、このためだ。
「えびのうまみ成分を計測し、『かっぱえびせん』に合うえびを複数種類選んでいます。そのうまみをベースにして生地を作っているんですね」
また、製法も当時から基本的に変わっていないとか。
「鮮度の良いえびを、すぐに冷凍することで、鮮度を維持したまま工場に運びます。加工する際も、生えびを粉末状にするのではなく、丸ごとすり身にして生地に練り込みます。そして、揚げるのではなく香ばしく煎ることで、生地が適度に膨らみ、サクサクした食感に仕上がるようにしています。この製法は、発売当初から変わっていません」
『かっぱえびせん』の心地よい食感は、フライではなく煎るからこそ。「加工へのこだわりから、かっぱえびせんを1袋作るのに3日間はかかる」と塩崎さんが話すように、こだわりが詰まった同商品は、発売開始から6年で売り上げ100億円を超えるブランド商品へと飛躍した。
発売から60年。その間、「危機らしい危機はなかったのですか?」と質問すると、「売り上げが大きく落ち込んだことがありました」と塩崎さんは明かす。
「実は、『かっぱえびせん』は時代に合わせて、その時々で好まれる食感にリニューアルしています。昨年の5月にも、リニューアルを行い、少しだけ食感を変えました」
パッケージリニューアルで危機に
何でも、食感が変わったことに気がついたか否かのアンケートを取ったところ、2~3割ほどしか気がつかないほど、絶妙なリニューアルだったという。
「2007年にもリニューアルを行ったのですが、そのときは思い切って、赤のパッケージから白を基調としたパッケージへと、大胆に変更しました」
事前の調査では、白のパッケージへの反応は良かったそうだ。ところが、実際に店頭に並ぶと、
「“かっぱえびせん』らしくない”“お店に行っても見つからない”といったご意見を多数いただき、売り上げも大きく落ち込んでしまいました。再びパッケージを戻し、以後、リニューアルしても赤のパッケージは絶対に変えない─教訓になりました(笑)」
裏を返せば、『かっぱえびせん』のイメージは、それほどまでに浸透しているということ。親しまれる理由を、塩崎さんはこう分析する。
「『かっぱえびせん』の大きな魅力は、2つあると思っています。1つが食感。もう1つが、えびを丸ごと(殻ごと)練り込むことによって生まれる風味、うまみです」
そのため塩崎さんは、「白ご飯の上に『かっぱえびせん』(レギュラー味)をのせ、天つゆをかけて食べるとおいしいです」とおすすめする。トライしてみると、えびのかき揚げ丼を食べている気になるから不思議!
また、おみそ汁に入れると、えびのうまみがしみ出すため、アクセントにもなるとのこと。スナック菓子なのに、風味やうまみをちょい足しする食材としても活用できるとは恐るべし。
これまで登場したフレーバーの数は約200種類。フレンチサラダ味や梅味など、定番化した人気フレーバーも生み出した。だが、あくまでもこだわりは、「えびにあります」と話す。
「一度、廃棄されてしまう甘えびの頭の部分だけを使った試作品を作ったことがありました。味そのものはおいしかったのですが、天然のえびを丸ごと使用するというコンセプトからズレてしまうということで、商品化には至りませんでした」
伊勢えびを使用した『かっぱえびせん』(こちらは商品化されている)にトライした際も、調味料をブレンドしたシーズニングで味を再現するのではなく、実際に伊勢えびを練り込んで作り上げたという。
哲学は「えびを丸ごと食べる」
えびを丸ごと食べる─。その哲学があるからこそ、カルシウムがとれるスナック菓子としても、風味を楽しむお酒のお供としても選ばれる。老若男女から愛され続けているからこそ、60年という還暦の節目を迎えた。
「みなさんに楽しんでいただけるような企画を準備してます。コラボ企画などもありますので、ぜひ楽しみにしていてください」
今年はいつも以上に、赤いパッケージがおめでたい雰囲気を演出しそうだ。
取材・文/我妻弘崇