日本全国で空き家が増え続けている。2038年には空き家の総数が2000万戸を超えると予想されており、これが現実となれば約3軒に1軒が空き家という計算に。まさに異常事態だ。
実家が放置されて空き家となるケースが都市部でも
「両親が亡くなり、住む人がいなくなった実家が放置されて空き家となるケースがほとんど。地方に限らず、都市部でも起こっている問題です」
と話すのは、『空き家活用株式会社』代表取締役CEOの和田貴充さん。これまで約17万戸に及ぶ空き家情報を調査し、空き家の所有者や、問題を抱える自治体からの相談に応じてきた“空き家のプロフェッショナル”だ。
「改善の兆しが見えない空き家問題を打開すべく新たに法律が改正され、12月13日に施行されました。今後は、管理不十分とみなされた空き家の固定資産税は従来の約6倍となります。空き家を放置し続けている人は、対応を真剣に考えるべきです」(和田さん、以下同)
現状の法律では、住宅が立っている土地の固定資産税は更地の6分の1で済む。逆にいえば、誰も住んでいないボロボロの空き家であったとしても、取り壊して更地にした途端、固定資産税は6倍にはね上がる。これが、空き家が放置される原因のひとつだ。
「今回の法改正で、自治体が“管理不全空き家”と認定した空き家は更地と同じ扱いとなります。窓ガラスが割れていたり、動物がすみ着いたりするなど明らかに管理が行き届いていない空き家に関しては、これまでの減税措置が事実上撤廃されるのです」
空き家問題に一歩踏み込んだ法改正ではあるが、これで空き家の数が劇的に減少するかどうかは疑問だ。というのも、この法改正はあくまでも管理不十分の空き家に対してのみ有効なものだからだ。
「放置されている空き家のうち、人が住めないほど朽ち果てた家はわずか6・7%しかありません。90%以上の空き家は、今も十分に人が住める状態なのです」
核家族化が進み、親と同居する子どもは減った。さらに子どもが都市部へ移転したり、結婚して世帯を持ったりすれば実家を継ぐことはますます難しくなる。そのうえ、日本の人口そのものが減少傾向にある。これが“築年数は古いがまだ十分住める”空き家が増加する大きな原因だ。
空き家はこの20年間で1・5倍に増加!
国土交通省のデータでは、空き家率の高い都道府県1位は和歌山県、2位が徳島県、3位が鹿児島県でやはり上位を地方が占める。しかし、空き家の実質数は意外にも東京都世田谷区がもっとも多く、その数は4万9000戸にも及ぶ。
「世田谷区は23区内で2番目に面積が広く、ほとんどが住宅街のため必然的に空き家の数も多くなります。また不動産価値が高いエリアのため価格も高く、買い手が見つからないことも影響していると考えられます」
これに加え、前出の国土交通省の資料にもからくりがある。このデータは総務省が行う「土地統計調査」に基づいており、空き家とされている物件の中には賃貸用物件や売り出し中の物件も含まれているのだ。
「統計調査だけでは、4万9000戸とされる世田谷区の空き家のうちどれだけが本当の空き家で、どれだけが賃貸物件や売り物件なのかはわかりません。自治体ごとの詳細な空き家状況を把握するには、統計調査ではなく実態調査が重要です。現在も自治体単位では実態調査がなされていますが、データを定期的に更新し、民間企業と共有するなどの有効活用ができていません。そのような仕組みづくりも今後の課題のひとつです」
例えば、国土交通省がまとめた2018年のデータでは、全国の空き家数は849万戸とある。しかしそのうち462万戸は賃貸用か売り出し中の物件で、放置された本当の空き家にあたる「その他空き家」は349万戸となる。とはいえ、349万戸でも膨大な数字だ。しかもこの「その他空き家」の割合は年々増え続けており、この20年で約1・5倍に増加している。
ここでひとつ疑問が生じる。これだけの膨大な空き家物件があり、しかもその9割以上が「十分に人が住める」状態でありながら、なぜ日本では新築物件が次々と建てられ、不動産価格も年々上がり続けているのだろう。
「約349万戸の空き家は放置されている状態で、市場に流通していません。つまり、買いたい人や借りたい人がいたとしても、交渉の余地すらないのです。いわば、“空き家があるのに空き家がない”という困った状況です」
人口減少も不動産は高騰
日本の人口は14年連続で減少し続けており、世帯数も今年度をピークに減少に転じると予測されている。にもかかわらず不動産は高騰し続けており、明らかな矛盾が生じている。349万戸もの空き家を有効活用することができれば、このひずみの解消に大いに役立つだろう。
「そのためにはまず空き家の所有者が、専門家や自治体の空き家対策窓口に相談するなど行動を起こす必要があります。実家に愛着があるなら無理に売却せずとも、賃貸や民泊、別荘などさまざまな活用法があります。放置したままでは家は朽ち果てるばかりで、維持だけでも莫大なコストです。固定資産税はもちろん、火災保険や公共料金の基本料、庭木の剪定費用、最低限のリフォームも必要で、これが10年、20年と積み重なれば総額で2000万円ほどの出費になることも珍しくないのです」
実際にタレントの松本明子は両親亡きあとも香川県の実家を25年間維持し続け、1800万円もの費用が発生したことを和田さんは著書で綴っている。
「こんな田舎の物件なんて売り手も借り手もいない、と思い込んでいる方も大勢いらっしゃいます。ですがコロナ以降、暮らし方や働き方が変容し、地方の魅力は大いに見直されています。さらに日本の空き家は非常に状態がよく安価なため、“AKIYA”として外国人からも注目されているのです」
和田さんはYouTubeを活用して、空き家の情報を広く発信している。視聴者の約10%は外国人で、実際にハワイ在住のアメリカ人が奈良県の空き家を購入したり、カナダ在住の邦人が高知県の空き家を購入したりといったケースもあるそうだ。
「外国の方は特に、日本の自然美に価値を見いだしています。近くに温泉があったり、川の水をそのまま飲めたりといった環境は、一等地そのもの。都市部よりも地方のほうがより大きな可能性を秘めていると僕は思っています」
私たち消費者にも意識改革が必要だ。日本人はいまだに新築志向が根強い。国土交通省の調査では、日本の住宅寿命が平均30年であるのに対し、アメリカでは55年、イギリスでは77年とおよそ倍。欧米では古い家をリフォームしながら長く住み続けることが当たり前で、築年数を経るごとに物件の価値が下がる現象は日本特有のものだ。
「建築資材の不足が続く影響で、新築物件は減少し価格も高騰しています。築40年の空き家でも500万~1000万円程度でリフォームすればずいぶん快適に住めますし、新築に比べ建築コストも低くすみます。また、自分好みにアレンジできる楽しさもあります。中古物件は今後ますます見直されていくでしょう」
空き家の有効活用はSDGsの実現や地域活性化にもつながる。個人の意識変革と行動次第で、負の遺産が有効な資産に変わる可能性は大いにありそうだ。
<取材・文/植木淳子>