第34回 羽生結弦
どんな人気芸能人も、オリンピックのメダリストの好感度には敵わないと聞いたことがあります。大企業が、メダルが期待できる有望な選手のスポンサーとなるのは、彼らの抜群の好感度に期待しているからと言えるでしょう。しかし、好感度がマックスに達するということは、見方を変えると「あとは落ちるだけ」とも言えるわけで、引退後に何かがあると必要以上にダメージが大きくなってしまうリスクもあるのではないでしょうか。
取材という名の“嫌がらせ”に悩まされている
フィギュアスケート界の宝・羽生結弦選手。オリンピック連覇や国民栄誉賞など、彼の偉業は今さらご紹介するまでもないでしょう。その彼が、最近スケート以外のことで話題になっています。お相手を明かさないままの結婚報告、そして、たった105日後の離婚報告と不可解な出来事が続きます。合わない人と無理して一緒にいる必要はありませんから、離婚自体は全く問題ありませんが、多くの人が羽生サンの言葉に驚いたことでしょう。羽生サンのコメントを抜粋してみます。
「私は、一般の方と結婚しました」と書いた羽生サン。相手の女性は「家から一歩も外に出られない状況が続いても、私を守るために行動し、支えてくれました」と女性のガマンについて触れています。しかし、「現在、様々なメディア媒体で、一般人であるお相手、そのご親族や関係者の方々に対して、そして、私の親族、関係者に対しても、誹謗中傷やストーカー行為、許可のない取材や報道がなされています」と、メディアによる取材という名の“嫌がらせ”に悩まされていることを明らかにし、「お相手に幸せであってほしい、制限のない幸せでいてほしいという思いから、離婚するという決断をいたしました」そうなのです。
メディアのせいで離婚せざるを得なかったと取れなくもない表現に、これは面倒くさいことになるだろうと私は思いました。羽生サンはマスコミを十把一からげにしていますが、うちは強引な取材をしていない、きちんとルールを守っているという自負がある媒体にとって、羽生サンのコメントは“言いがかり”のようなものですから、いい気はしないはず。羽生サンは、
「酷い“妄想”とか、“想像”や“嘘だけ”で記事になっててびっくりします。すごいですね。訴訟して勝ってもなにも良いことないのでしませんが」(原文ママ)
とXに投稿しています。ファンは本人から「記事は嘘である」という否定の言葉が聞けて安心できたかもしれませんが、「そこまで言うなら、どれがウソなのかはっきりさせろ」と思った人もいたことでしょう。この後、元妻の後見人を名乗る男性が、実名、顔出しで「週刊文春」に登場し、二人のヤバい結婚生活について証言しています。元妻はヴァイオリニストとして活動していましたが、結婚のため音楽活動はあきらめたそう。羽生サンのお母さんやお姉さんの命令により、ゴミ出しや外部との連絡を取ることすら許されず、羽生サンの身の回りの世話はお母さんがしていたそう。「文春」によると、羽生サンの家族が立ち上げたファミリー企業は、お母さんとお姉さんが取締役として就任しているのに、元妻は加えてもらえなかったなど、結婚したものの、のけ者にされていたようです。
すべてが裏目に出てしまった
一連の出来事を見ていくと、すべてが裏目に出てしまったように思えてなりません。最大のミスは、羽生サンが元妻の存在を公表しなかったことではないでしょうか。妻を明らかにすると、過去やら何やら掘り返されて、いろいろ言われるかもしれない。そうなると、羽生サンのイメージダウンになりかねず、ファンを傷つけてしまう。お母さんやお姉さんは元妻に意地悪をしていたわけではなく、羽生サンのイメージを優先して判断したと思われます。羽生サンのコメントには「一般の方」「一般人のお相手」と繰り返し書かれていますが、これは「一般人なんだから、取材するなよ」というメッセージだと私は解釈しました。一般人は私人にあたりますから、その人たちのプライバシーを追いかけまわすことを法律は是認しません。羽生サンは親戚にすら結婚の事実を隠していたそうですが、本来味方であるはずの親戚すら信じずに、羽生さんを守ろうとしたのでしょう。
妻を明かさなかったから報道が過熱した?
しかし、世の中というのは法的な正しさだけで動いているわけではないのです。「妻を明らかにしない」ということは、メディアにとっては「妻が誰かをつきとめれば、スクープになる」ことを意味しますし、結婚というおめでたいことを隠されたら、親戚だっていい気はしない。
つまり、妻を明かさないからこそ、報道が過熱してしまうし、本来味方であるはずの身内も、週刊誌の取材に応じてしまうのです。そうなると、ますます羽生サンたちはメディアを警戒し、その結果、元妻への行動制限もきつくなってしまったのではないでしょうか。
元妻の立場にしてみれば、れっきとした妻なのに、まるで“日陰の身”のように隠されることに納得がいかなかったことでしょう。妻として社会的に認知されれば、ストーカー被害にあうなど面倒なことが起きるかもしれませんが、そのあたりの対応は警察がしっかりしてくれるはずです。ヤバい人は本当にごく一部で、ミセス羽生を応援する人はその何百倍、何千倍もいて自信がついたはず。自分は羽生サンの妻なんだ、羽生家にも認められているんだと思えば、制約のある生活も堪えられたかもしれませんが、結婚したのに存在を消すかのようにふるまうことを求められたら、たいていの女性は参ってしまうでしょう。
元妻も傷ついたことでしょうが、今回のことで羽生サンのお母さんやお姉さんも「ちょっとヤバそう」という余計なイメージがついてしまいました。こういうことを防ぐためにも、羽生サンはマスコミ対応に長けた専門家をつけて、その人を通して報告なり、抗議をしたほうがいいのではないでしょうか。
羽生サンとお母さんは“母子一体型の親子”
今回の離婚を機に、羽生サンとお母さんの近すぎる距離、母子密着を問題視する記事を見かけましたが、密着を通り越して、母子一体型の親子なのではないかと思います。心理学では親子であっても「わたしとあなたは別の人」であるとし、一線を引くことが健全な関係を作ると考えていますが、母親はどうしても子どもと自分を同一視しがちです。しかし、成長とともに子どもは自分の世界を持ち始めて親から離れていきますし、いくら親が熱心に教育しても、成績が伸びずに名門校に合格できないなど、親は子どもに裏切られる経験を通して、自然と「自分と子どもの人生は違う」と気付いていくでしょう。
しかし、羽生サンのようにすばらしい才能を持っている子どもの場合、「やればやるほど子どもは伸びる」わけですから、母と子どもはずっと同じ目標を追い続け、その栄誉を二人で分かち合うことになります。
こうなると、「自分イコール母親」になってしまい、羽生サンにとっては、お母さんを否定されることは自分が否定されることのように感じるでしょうし、お母さんも羽生サンの仕事や生活に関することは「自分のこと」と捉え、妻に引き継ぐことはしないと思います。こういう親子関係の男性は、お母さんが息子のお世話ができなくなった時が結婚のタイミング、つまり晩婚向きではないでしょうか。羽生サンは結婚するには若すぎたのだと思います。また、結婚相手の女性は、夫と対等な“妻”ではなく、お姑さんの意向を汲む“嫁”の役割が求められると思っておいたほうがいいと思います。
幸いなことに、元妻である女性は前を向いて、音楽活動を再開させているそうです。過ぎたことは忘れて、羽生サンもがんばっていただきたいと思います。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」