写真はイメージです

「ルッキズムは、海外のほうが100倍ひどいですよ」

 そう指摘するのは、元国連専門機関職員で、海外居住・就業経験も豊富な谷本真由美さん。X(旧Twitter)では、「May_Roma(めいろま)」名義で、日本の新聞やテレビでは報じられない「世界と日本の真実」をポストするなど、歯に衣着せぬ意見が人気の論客だ。

海外に比べたら日本はまとも?

 昨今、ここ日本でもルッキズム(外見至上主義)を問題視する論調が高まっているが、谷本さんは、「日本は全然まともです」と断言する。

 見た目で差別をしないという反ルッキズムに対しては、欧米のほうが進んでいると伝え聞くだけに、意外に感じる人も多いかもしれない。

「職場に、身なりや容姿がよろしくない人がいれば、平気で無視をします。特に、美意識の高いフランスやイタリアでは、容姿に対する要求がとても厳しい。服装にセンスがなかったり、容姿に気を使っていない人に対しては、仕事を振らないといった極端な対応をすることもあります」(谷本さん、以下同)

 まさか2020年代の欧米で、にわかには信じられないような嫌がらせが横行しているとは……。

「ルッキズム批判をやたらと推し進めているアメリカですら、超有名私立大学のスクールカーストの頂点は、金髪碧眼の白人ばかりで肥満の人はいません。それ以外の人種や、見た目に気を使っていないような学生ははじかれますからね」

 このように、伝聞されていることと、実際に行われていることが乖離しているケースは珍しくなく、谷本さんの著書『世界のニュースを日本人は何も知らない』(ワニブックス【PLUS】新書刊)は、第5弾まで続くほど人気を博している。

「海外は進んでいる」を鵜呑みにしない

 谷本さんは、「海外は進んでいる、素晴らしい──といった妄信的な考えは抱かないほうがいい」と警鐘を鳴らす。

「例えば、環境問題も昨今のトレンドだと思います。欧米では、環境への配慮がなされた施策が行われていると思われがちですが、私が暮らしているイギリスのロンドンには『超低排出ゾーン』という施策があります」

イギリス(写真はイメージです)

 この施策は、'06年以前に登録されたガソリンエンジン車などを対象とし、自動車排ガス規制を満たさない車両が、ロンドンの「超低排出ゾーン」を走行する場合、1日あたり12.5ポンド(約2200円)を市に支払うというもの。

「高齢者が病院に行くためだけに使う場合でも、対象の車であれば1日に約2200円を払わなければいけません」

 当然、ロンドン市民からは激しく非難されているという。「現在、イギリスのガソリン価格は、リッター300~400円。光熱費も高騰し続けている」と谷本さんが話すように、市民の生活を圧迫させてまで環境を優先する政治とはいったい? 霧の都ロンドンとはよく言ったものだが、その見通しは悪すぎる。

「それだけではありません。現在のロンドン市長である労働党のサディク・カーン氏は、警察の予算を減らすことに加え、差別につながるからと職務質問を禁止にしてしまいました。その結果、ロンドンの治安は、とても悪化してしまった」

 その背景にあるのは、ヨーロッパで幾度となく話題に上る「移民問題」だという。

「カーン市長は、移民の人権擁護弁護士としてキャリアをスタートさせ、自身もバングラデシュ系の両親を持つイスラム教徒の移民2世です。支持基盤である移民層は、長年しいたげられてきたことで、ミドルクラスやアッパークラスに不満を持っています。そうした負の感情が、現在のロンドンでは、市政という形で表現されてしまっている節があります」

 そのため、移民問題を対岸の火事としてでしか扱わない日本の報道に対して、「不安を覚える」と漏らす。

「私の子どもは、現在私立の小学校に通っていますが、学年の大半がインド系やパキスタン系の子どもです。彼らがマジョリティーですから、学校のイベントなどに参加すると、生粋のイングランド人である私の夫は仲間ではないとばかりに無視されるほど。『もうイベントには行きたくない』と愚痴をこぼしているくらい。移民問題は、文化が上書きされることでもあるんです」

 ここ最近は、さまざまな人間が共存する「ダイバーシティ(多様性)」や、国籍や人種、宗教、性差、経済状況、障がいのあるなしにかかわらず、すべての子どもたちが共に学べる「インクルーシブ教育」といった言葉が叫ばれている。さぞ欧米では、先進的な取り組みがなされていると思いきや、谷本さんは「全然です」と首を横に振る。

ダイバーシティ(写真はイメージです)

「例えばイギリスの場合、福祉の充実のレベルが自治体によってまったく違います。これは各自治体の予算の違いによるもので、ミドルクラス以上が多く住み、税収が見込める地域はある程度福祉が充実していますが、そうでない地域は福祉にまで予算が回らない。

 そのため特別支援学級などの福祉支援を極力減らしています。障がいのある子どもや、自閉症の傾向が見られる子どもを、役所が強制的に“普通”と認定し、普通の学校の普通のクラスに入学させているのです。

 インクルーシブとは名ばかりで、ただ詰め込んでいるような状態。結局のところ、欧米はお金がものをいう世界なんです」

王室ファミリーの話はやはり好物!

 谷本さんによれば、日本の福祉は世界でも類を見ないほど公平かつ、充実しているという。「欧米をうらやむ必要はない」と断言するだけでなく、むしろ、「狙われていることに危機感を持ったほうがいい」と忠告する。

「現在、ヨーロッパ諸国は次々と反移民政策に舵を切っています。行き先を失った彼らが、日本に職を求めて渡航し、特定技能外国人となる未来が訪れると思います。そのとき何が起きるか? ヨーロッパは先行事例です。私がいま説明したことを、反面教師にしなければいけません」

 まさに、“何も知らない”ではすまされない!

 では逆に、日本のニュースが、意外な形で世界に受け取られているパターンはあるのだろうか? 谷本さんは、「日本の皇室の話は、中国では人気ですね」と笑う。

「先日も中国人の友人から『最近、雅子さまの体調は大丈夫なの?』と聞かれたくらいです。王室(皇族)の話は、どの国も共通して好きな話題。特に、イギリスのロイヤルファミリーの話は鉄板です。しかもみんな、メーガン妃を嫌っている(笑)」

 日本でも、メーガン妃に拒否反応を示す人は多いはず。ようやく、海外と日本との間に温度差がない真実を見つけた!

「イギリス国民からすると、英国王室はいわば『代々続いている大地主』という感覚なんです。日本の皇室ほど国民から崇められているわけではない。あくまで、親しみのある大金持ちという見方です。

 その大金持ち一家が、不倫をしたりよくわからない人物と結婚をしたり怪しい事業や投資に手を出したりするため、王室ウォッチャー化している国民が自身の見解を毎日あーだこーだ言っている……、というのが実情です。ヘンリー王子&メーガン妃は、その最たる例」

ヘンリー王子とメーガン妃

 日本同様、イギリスでも朝からワイドショーや情報番組が放送されており、メーガン妃の話題はいつもトップニュース扱いだそう。朝からお騒がせ有名人たちのスキャンダルに釘づけになっている……その気持ち、わかります。

「こういった“しょーもない話”も、もっと伝えたいんです(笑)。ですが、それ以上にもっと知ってほしい“日本では報じられない重要なニュース”が実はとても多いんですね。ひとつの情報を鵜呑みにしないことが大事です」

「無知は罪である」とはソクラテスの言葉。知ろうとする姿勢を忘れないように!

『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)など著書多数。※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

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谷本真由美さん
谷本真由美(たにもと・まゆみ)●1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)など著書多数。

取材・文/我妻弘崇