阪神・淡路大震災から29年の今年、元日から起きてしまった大地震。家庭での“食料の確保”がいかに重要なことか、目の当たりにすることとなった。“災害食は空腹を満たすだけのものや特別なものであってはダメ”。災害食に詳しい専門家に話を聞いた!
災害時の食事は我慢して食べるものではいけない
2024年の幕開けとともに発生した能登半島地震。被災地では生活物資が不足しているという報道が連日された。災害時、いかに食料を確保するかは生死に関わる問題であり、備蓄の重要性を改めて認識させられる。
しかし、準備すべきは“空腹を満たすための食べ物”だけで良いのだろうか? 被災直後は不安定な精神状態に陥りやすく、心のケアにも有効な食べ物が理想ともいわれる。災害食への捉え方の変化などを踏まえて、最新事情を紹介!
災害時のために用意する非常食というと、長期保存できる食料をイメージする人も多いと思うが、最近ではその考え方も変化している。「災害時の食事は我慢して食べるものではいけません」と語るのは防災食アドバイザーの今泉マユ子先生。
「災害時という非日常のなかで、日常を取り戻せるような食事が望ましいです。そのために、自分の好きなもの、普段から食べているものを備えておくといいでしょう」(今泉マユ子先生、以下同)
被災した際にかかる心身のストレスは相当なもの。負担を軽減させる役割が、災害食に求められている。
「食べ慣れているものを口にすれば、心も落ち着きます。好きなものであれば、食べるのが楽しみになり、気持ちが前向きになります。こういった、好みの味の食料を普段から備えておくことが大事。それは、“ローリングストック”や“日常備蓄”の考え方につながります」
最近の食料の備蓄に関しては“ローリングストック”が普及しているという。日常で食べているものを少し多めに購入し、普段の食事に取り入れながら買い足していくという方法だ。
「ローリングストックの利点としては、災害時に普段から食べ慣れたものが食べられること。また、賞味期限の近いものから消費していくので、いざ食べるときに期限が切れていたという状況を防ぐことができます」
とはいっても、「何をどれだけ用意すればいいか」という質問に対しては、「正解はない」という。
「農林水産省が推奨する食品備蓄は、災害対策として最低3日~1週間分となっていますが、あくまで目安。一人ひとり好みが違えば、食べられる量、回数も違います。備えはまず、自分のことを知らないとできません。自分や家族のことを理解した上で、フェーズフリーの考え方で備えるといいでしょう」
家族が食べられるものを見つけておくことが大事
フェーズフリーとは、「日常(平常時)」と「非常時(災害時)」という2つのフェーズをフリーにするという防災の概念。日常で利用する身の回りのものや食べ物を非常時にも活用することであり、ローリングストックはフェーズフリーの手段のひとつといえる。
「ローリングストックでは“備えること”を意識しがちですが、“消費すること”にも目を向けてください。食べたいと思わない食品は、ローリングストックには適していません。まず食べて、好みに合えば買い足す。そうすることでローリングストックが習慣化していきます」
では、具体的にどういった食べ物がローリングストックに適しているのか。非常食として広く認知されている長期保存食などはどうなのだろう。
「レトルトや缶詰などの常温保存可能な食品を置いておくことで、食料を確保できているという安心感が得られるのは大事なことです。また、アルファ化米やパンの缶詰など長期保存可能な食品もあると安心です。わが家は普段使いのものと長期保存可能なもの、どちらもすべて味見して家族が好きなものを置くようにしています」
やはり、災害時の食事は心の安定をもたらすものが理想。味や調理の仕方がわからない食品は、いざ口にする際にストレスになりかねない。
「食べられるものを見つけておくことも大事です。サバ缶が苦手ならば焼き鳥缶はどうか。缶詰が苦手ならばレトルトはどうかと、いろいろ試食してみること。最近は、長期保存食も種類が豊富になった上、防災コーナーが設けられているスーパーなどで入手しやすくなりました。私のお気に入りは『まつや』のぞうすい(左)。味も良く調理も簡単、備蓄しやすい形状になっているのでオススメです」
備蓄に関して万全となっても、災害時に使える状態にしておかなければならない。そこで、普段から心がけておくべき3つの項目があるという。
「“家族に見える化”“食べ方の見える化”“賞味期限の見える化”。この“3つの見える化”を推奨しています。わが家では定期的に、賞味期限パトロールを行っています。すると、賞味期限だけでなく、家のどこに何があるのかを家族全員が把握できます。また、災害食を野外に持ち出して“防災ランチ”を行うことも。電気、ガス、水道の止まった状況を疑似体験できるので、食べ方を工夫するようにもなります」
災害食を普段から身近なものとして捉えることで、災害時にも食べられる状況が自然と整う。それは、フェーズフリーの考えに沿った行動でもある。
災害時は栄養不足も懸念されるが、栄養面に関して管理栄養士の立場からも、「身体に必要な栄養の確保も大事ですが、心の栄養をとることも重要」だと語る。 好きなもの、おいしいと思うものを食べることが、精神的な安定にもつながる。
「日頃から自分の好きなものをちょっと多めに買い置きして、消費しながら買い足してください」
今泉先生おすすめストックFOOD
ツナ缶
良質なタンパク質源となり、開けてそのまま食べて良し、アレンジしても良しと自由自在。
乾物(切り干し大根・塩昆布)
食物繊維が豊富。ポリ袋に切り干し大根と塩昆布、お茶を入れてもむだけで立派な一品に。
野菜ジュース
水分補給にもなる。災害時は生野菜が手に入りにくいうえに調理できない可能性も。
パック切り餅
調理するのに水が不要。フライパンにアルミ箔を敷いてのせ、加熱するだけで食べられる。
ゼリー飲料
自分に合わせた栄養素を選ぶことができ、食感がやわらかく高齢者でも飲みやすい。
『カロリーメイト』
チーズ味、バニラ味などバリエーションがあり、選ぶことで気持ちも前向きになれる。
取材・文/6線ストライプ制作
今泉マユ子先生 管理栄養士・防災士・災害食専門員。管理栄養士として社員食堂や病院、保育園に勤務した後、起業。防災食アドバイザーとしても活動し、全国で400回以上の講演を行う。著書に『もしもごはん』『防災教室』など。メディア出演も多数。