「自分としてはこの件には触れたくない思いと、考えたくないというのが自分の思いです」
長崎市内での公開自主トレで、集まった報道陣に吐露した『福岡ソフトバンクホークス』和田毅投手(以下敬称略)。日米通算163勝、幾多の修羅場を潜り抜けた百戦錬磨の大ベテランでさえ、今回の一連の騒動には肝を冷やしたことだろう。
埼玉西武ライオンズからFA移籍した山川穂高の人的補償の対象をめぐって、西武球団がプロテクト漏れしていたという和田を指名方針であることを、『日刊スポーツ』がスクープしたのが1月11日のこと。
プロ野球ではダイエー時代からホークス一筋のレジェンド左腕の“放出”に、猛反対の声を上げたソフトバンクファンだけでなく、プロ野球ファン、そして野球解説者やOB選手らをも巻き込む大騒動に発展。
すると三笠杉彦GMをはじめとした球団フロントだけでなく、1月5日に山川獲得について初言及し、
「野球界で生きていく力を持っている人が、その世界で生きられないような世界を作っちゃいけないと思う。社会的な制裁も受けて本人もかなり反省していることですし、やはり挽回するチャンスを与えてやるべきだと思います」
と、理解を求めた王貞治会長にまで批判の矛先が向けられることに。そして「和田放出」報道から12時間後、ライオンズが正式発表したのは和田ではなく、2019年のドラフト1位投手・甲斐野央の獲得。一転して、2023年シーズンで46試合に登板した、27歳の即戦力右腕の名前がニュース記事で踊ったのだった。
今シーズンの飛躍が期待された甲斐野
パ・リーグ球団の取材を重ねるスポーツライターは、「本来ならばプロテクト漏れは考えられない選手」と評する。
「160キロの速球に140キロ台のフォークボールを武器に、ルーキーイヤーから65試合に登板。昨季は防御率2.53でWHIPも1.08と好成績を残し、小久保裕紀監督ら首脳陣からもさらなる飛躍が期待された有望株でした。
和田選手との間、そして両球団の間でどんな“駆け引き”があったのか、さまざまな憶測が飛び交っていますが、三笠GMの“コメントはありません”と説明を避ける対応にファン、そしてチーム一丸となって戦う選手、スタッフが不信感を覚えかねません」
ライオンズにしてみれば、和田以上の戦力になるかもしれない甲斐野の加入は、不祥事でイメージを損ねた山川の離脱を差し引いても大収穫と言えるのかもしれない。
片や、若き背番号「20」を失った鷹ファンの心中は穏やかではいられない。ネット上では抜けた穴を埋めるために「とある選手」の補強が促されている。
《もういっそ安楽獲得するべき》
《会長様も社会復帰のために野球でチャンスを与えるべきって言ってたし、勝ちパの中継ぎ抜けて痛いだろうし、実績も残してて、補強と引き換えに人的補償出したくないファンにとってもちょうどいい選手がいるじゃないですか! 安樂って言うんですけどね?》
《もうさ、バウアーも安楽も獲って、山川には甲斐野からホームラン打ってどすこいやってもらおうじゃないの。とにかくホークスは勝つことだけが唯一の価値、とことんヒール役に徹するのがいいよ。》
安楽はナシ、バウアーは可能性アリ
チームメイトへのパワハラ問題で『東北楽天ゴールデンイーグルス』を自由契約となった安楽智大。さらには山川同様、ロサンゼルス・ドジャース時代に知人女性から暴力行為を告発された(証拠不十分として不起訴)トレバー・バウアー(横浜DeNAベイスターズから自由契約)と、半ば投げやりのような“両どり”を推す声も……。
「たしかに150キロ超えの速球とスライダーやフォークボールといった変化球を操り、中継ぎとして57試合に登板した安楽は通常ならば“穴埋め”としてピッタリと言えます。実は甲斐野とは同学年で、背番号も同じ“20”ですから。
ですが、現実的に考えて“そこ”に行けるはずもない(苦笑)。ホークスフロントへの“抗議”の裏返しでしょう」(前出・スポーツライター、以下同)
片やバウアーに限っては「無きにしも非ず」だとか。1月初旬にアメリカ『FOXニュース』の報道番組に出演しては、あらためて“無実”を訴えるとともに、今までの自分の素行を猛省する姿を見せては復帰をアピールしていたバウアー。
「それでも性暴力問題には日本以上にシビアなアメリカ。依然として彼を取り巻く環境は厳しく、メジャー復帰が実現しなければ今シーズンも日本でプレーすることになるでしょう。となると“古巣”のベイスターズが最有力ですが、代理人との契約交渉次第では他球団にも獲得のチャンスはあり、です。
2020年にナ・リーグ『サイ・ヤング賞』にも輝いたバウアーだけに、王会長の言う“野球界で生きていく力を持っている人”と判断したのならば、覇権奪回になりふり構わないフロントが動く可能性はあると思います」
開幕を迎えた際のホークスの布陣をファンはどう見るだろうか。